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恋愛や友情の枠組みを越えたいろいろな〈愛〉について描く

――リズムのループ感も今作の特徴だと思うんですよね。

藤村「今回は熱量をコントロールしたいと思っていましたね。静かに熱を持っているようなプレイをキープしたくて、そういう意味でもフレーズを組み立てるうえで、段階的に盛り上がりがあってみたいなものは避けました」

――その低い温度感でずっと続いていくようなリズム感が、〈Friends Again〉というテーマともマッチしていると思ったんです。いやおうなく時間は進んで行くし、立ち止まることはできないんだけど、過去と現在と未来に確かな連続性を感じさせるというか。

夏目「〈Friends Again〉というテーマを掲げて作品を作るときに、俺がいちばん怖かったのは、アルバムがバンドのドキュメンタリーになってしまうことだったんです。つまり、俺らはちゃんと大人になっているし、〈Friends Again〉というテーマを掲げたうえで、バンドとして〈作品〉を作ろうと思っていた。だから、自分たちの世代だけじゃなくて、なるべく幅広い年齢層のキャラクターが出てくる曲を作ろうと決めたんです。制服を着ている子らが主人公の思春期的な曲があってもいいし、長く付き合ったカップルが別れる、つまり、もう恋人じゃない=Friends Againという曲があってもいい。そういう連想ゲームをしながら曲を作っていきました」

菅原「逆に、僕ははじめて自分の実体験から曲が出来たんです。だから、自分の状況が夏目のコンセプトとバチコンとはまっていた。去年、久しぶりに『AFTER HOURS』の(舞台になった)団地に行ったら、友達が1日がけで一緒に今の団地を回ってくれたんですよ。そのとき、20年間も住んでいたのに、昔と今では見え方が違うなと思った。そして、最後に14階建の最上階に登って、一緒に夕陽を見たんですよ(笑)」

一同「ハハハハ(笑)」

菅原「屋上から見る夕陽がめちゃくちゃキレイで、すごく感動した。そこで、すぐに引っ越して団地へと戻ってきたんです。屋上から見た景色がリヴィエラみたいで、結果“Riviera”という曲が出来た。僕は昔を賛美したいとは思わないし、できることなら上書きしていきたい。だから、地元に戻ることで自分が感じていたことをどんどん更新していけたらいいなという気持ちで、今回は詞を書きましたね。それは僕がバンドのみんなに思っていることとも共通していると思う」

――実際、このアルバムは特定の世代や年齢だけに聴き手を限定する作品ではない。むしろ思春期的な煌めきや好奇心はどんな年齢であっても消えないものだということを提示してくれる作品に捉えられました。それをシンボリックに表現したのが“Travel Agency”の〈スケベでいたい〉という歌詞なのかなと。

夏目「そうだね。歌詞に関しては、とにかく研ぎ澄ませたいと思っていたの。“GIRL AT THE BUS STOP”や“洗濯物をとりこまなくちゃ”でやったみたいな流暢なストーリーテリングじゃなく、印象的なものを作るために、とにかく手数を減らそうとした」

――一方で、今回の菅原さんの歌詞はちょっと固めな日本語で、煙に巻くような暗喩もあって、文学的な印象です。

菅原「今回、急に頼さんからLINEがきて、歌詞を褒められた(笑)」

藤村「“Riviera”の歌詞がきたときに、すごく良いなと思ったんですよ。エモーショナルで色彩感覚も鮮やかで、めちゃめちゃグッときたんですよね」

――確かに“Riviera”には驚かされました。菅原さんがこんなアンセミックな曲を書いたんだ!って

菅原「へー、自分ではピンとこないんですよ。僕が良い曲を作ろうと思って書いたのは、むしろ“Four O’clock Flower”で、“Riviera”はちょっと悩んでいたんですよ」

――Rivieraは突然変異的なアンセム感がありますね。菅原さんにとっての“Don’t Look Back In Anger”になりえる曲だと思う。

一同「うんうん」

菅原「僕、オアシスわかんないからなー」

――メイン・ヴォーカルじゃない人がここまでアンセミックな曲を歌うことはそうそうないと思いましたよ。

菅原「俺、“Riviera”は最初、夏目に歌ってもらいたかったんですよ。だから、自分が歌わないつもりで作った曲というのも関係しているのかも」

夏目「でも、俺は頑なに断ったんですよ。この曲は絶対俺が歌わないほうがいいって」

――今回は菅原さんのヴォーカル・パートも多いから、このアルバムで初めてシャムキャッツを聴く人はメイン・ヴォーカルが2人いるバンドなのかなと思うかもしれませんね。

夏目「そうそう。良い感じですね。俺はそうじゃないともうやってらんない(笑)」

菅原「マジで?」

夏目「もうメイン・ヴォーカルをやる気ないから(笑)」

――ハハハ(笑)。2人のタッチの違いはあれど、今回の曲の多くはラヴ・ソングとも友愛の歌とも解釈できる。その境界線に位置付けようという狙いはあったんでしょうか?

夏目「うーん、あったようななかったような」

菅原「僕はかなり狙いましたね」

大塚「それはラヴ・ソングと友情の歌に境目がないほうがいいと思っているから?」

夏目「あれ? インタヴュアー(笑)?」

一同「ハハハ!」

夏目「1曲目の“花草”は、男の子2人をイメージして作った曲なんですけど、聴く人によっては男女の歌として聴こえるみたいなんですよ。そういうのはおもしろいと思った。そう考えると、俺は狙ってはなかったな。自分のなかでの物語は出来ているけど、受け手が違ったようにもとれる歌詞に勝手になっていた」

――“花草”や菅原さんの“Four O’clock Flower”には、映画「ムーンライト」(2016年)のムードと近い気がしたんですよ。愛とも友情ともとれる関係性と、そこに漂うイノセンスと官能性も描かれていて。

藤村「俺は今回、夏目にいろんな愛について歌ってほしいと言ったんですよ」

夏目「そうだった。そういう啓示を受けたんだった。テーマは〈Friends Again〉だけど、歌うことを友情に絞ると作品の幅が狭まる気がして、もっといろんな感情と景色を描きたいと思っていました。そんなときに藤村が〈広義の愛についていろんな歌を書いてほしい〉って言ってくれて、〈なるほど、わかったぞ〉となったんです」

――アメリカン・ルーツ・ロック的なアンサンブルと、リズムのループ感、ラヴ・ソングとも友愛の歌ともとらえられる歌詞という点で、自分はこのアルバムに、90年代の小沢健二――しかも、『LIFE』のイメージである王子様モードじゃないオザケン、ファーストの『犬は吠えるがキャラバンは進む』(93年)や、“さよならなんて云えないよ”(95年)、“ある光”(97年)あたりが透けて見えたんですよね。

夏目「へー! 実は真逆なんです。僕としては、なるべく小沢健二から離れたいなと思っていた。〈何かを強く信じようとせずにどう生きていけるかな〉って。オザケンを感じさせる言葉は歌詞のなかにも出てくるとは思うけど、今回は本当に全然狙ってなくて、たまたま。今作の歌詞は、他の作家へのリスペクトやリアクションで書いたものは一つもないんです」

菅原「これがね、ややこしいことに僕は“流動体について”の光っている感じには、めちゃめちゃ影響を受けた。特に“Rivieraの”歌詞においては、かなりのインスピレーション源になっていますね。でも、書いているときに夏目が〈避けようと思う〉と言っていて、ヤベ!って」

夏目「俺が〈神様は似合わない〉と歌っていて、菅原が〈神様にお願いをした〉と歌っているのが対比になっているんだよね。俺はね、今回はとにかく現実は甘くない、神様なんていないし〈明るい未来〉はない、だから自分たちでちゃんとやっていくしかないということを、ひたすら描こうと思ったんです。でも、それがもしかしたら『LIFE』以前/以降の小沢健二に近付くことになったのかもしれないな」

――“Travel Agency”では〈暗闇に手を伸ばせ〉なんて歌詞も出てきますしね。

夏目「〈Friends Again〉は〈友達同士のバンドとして曲を作ろうぜ〉というテーマでもありつつ、もっと最大公約数的な言い方をすると〈いちばん近くの人のことをちゃんと見てみよう〉ということなのかなと思うんです。隣にいる人のことでさえ、何を考えているかわからない時代だから」

菅原「Twitterとか見ているとホントにそう思うな」

夏目「とにかく現実で顔を合わせている隣の人のことくらいは、ちゃんと見よう、見たいっていうのが俺は強かったんだよね。だから、歌詞が友情についてなのか、愛についてなのか曖昧になったというのは、そこが根本にあるからなのかも。描かれている隣にいる人が、誰にとってのどんな存在なのかを言及しないようにしたから。ただ、〈隣の人〉がテーマだった」

――夏目さんが、いま伝えてくれたテーマを描いていると思うバンドはほかにいますか?

夏目「うーん、すごく正直に言えば、僕は自分にとってリアルな表現をしてくれているバンドが日本にはいないんですよ。うん、1つもない。だから、自分がやるしかない。良いバンドはいても、良い曲だなと思うことは全然ないな。相変わらず曽我部(恵一)さんはすげえなと思うけど、それくらい。あ、あとラッキーオールドサンは大好きです」

ラッキーオールドサンの2017年作『Belle Époque』収録曲“さよならスカイライン”
 

菅原「なんだかんだ、1つのバンドが装備しているものは限られているし、それには世代も関係していますよね。今メインストリームにいるバンドと自分たちとでは世代も違うから、そりゃあ言っていることもわからないだろうなと思う。だから、気にしないで自分たちのやり方で理想を追い求めるしかない。僕は、共感できない/わからないことは良いことだと思う。楽しいし、逆にラッキーだなって」

夏目「カウンターであろうとすることが曲を作る動機にはならなくなりましたね。本音を言うと、バンドはオルタナティヴな存在じゃないといけないと思うし、シャムキャッツはオルタナティヴでありたい。誰かが何かをやっていたら、別の道を作ろうとするのがバンドだと思うから。それは、主流がこうだからとかではなくてね、なんか他の新しい道。だって道が決められているなんて窮屈だし、誰かと一緒のことはがんばってもできないしね」

――でも、おもしろいことに、これまでシャムキャッツが〈EASY〉で呼んできたヴェテランのバンドはみんなそうですよね。KIRINJIしかりGREAT 3しかりGRAPEVINEしかり。

夏目「そう。ほんとにね、また海外の話になっちゃうんだけど、〈どこに行ってもこの人たちしかいない〉という存在にならないと、この先ないなーと思ったんだよね。シャムキャッツはこういう音楽というのを示さないと生きていけない。長く続けておもしろいことをやっていきたいし、そうなろうとしたときに作ったアルバムがこうなった」

――だからこそ、このシンプルなアルバムを携えて、バンドの状況がドンドン大きくなっていけばいくことを願っています。さっき〈普通のロック・バンドをめざした〉と言っていたけど、これが本流であってほしいし、いよいよ〈フジロック〉のグリーンでやるべきバンドになったと思うので。

菅原「そうですねー。毎年出たくてムズムズしていますよ」

夏目「でも、シャムキャッツは、報われないことにはもう慣れているんだよね。ずっと消えない悔しさがありつつも。なんて言うか、敗者の哲学じゃないけど、決して勝ってこなかった人たちのために歌いたいなと思った。菅原が〈誰に向けて俺たちは曲を作っているのかわからない〉と言ったときに、俺はなんとなくシャムキャッツと音楽性は違うけどエレカシが思い浮かんでさ。エレカシはずっと昔から、なんでもない人たちのために歌っている気がするんだよね。勝ってもないし負けてもない人たちに向けて。だから、俺はそうした人生を送っている人たちのために歌いたいんです」

 


Live Information
〈シャムキャッツ tour “Friends Again”〉

2017年9月16日(土)千葉LOOK
2017年9月17日(日)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2017年9月18日(祝・月)大阪・umeda TRAD
2017年9月22日(金)石川・金沢vanvan V4
2017年9月23日(土)岡山YEBISU YA PRO
2017年9月24日(日)香川・高松TOONICE
2017年9月30日(土)北海道・札幌COLONY
2017年10月6日(金)新潟CLUB RIVERST
2017年10月7日(土)宮城・仙台CLUB JUNK BOX
2017年10月13日(金)福岡graf
2017年10月14日(土)鹿児島SR HALL
2017年10月15日(日)大分AT HALL
2017年10月21日(土)東京SHIBUYA TSUTAYA O-EAST
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