新しい〈東北〉表現を志向する、充実の二作目

 喜多直毅の『ウィンターインアビジョン2』が満を持して発売された。まず目に入るのは、土着的でありつつも異界へと誘うような幻想的な風景。青森出身の小島一郎(1924-1964)による写真は、東北の厳しい風土の中、逞しくも寡黙に暮らす人々の姿を映している。前作と同じ写真家の起用に、自身の音楽のテーマを〈東北〉に据えた喜多の充実と自信の程が伺える。

喜多直毅 『WINTER IN A VISION 2』 SONG X JAZZ(2017)

 喜多は、イギリスで作編曲を三年学んだあと、ピアソラの五重奏団のヴァイオリニスト、フェルナンド・スアレス・パスにタンゴ奏法を師事。確かに基本的な奏法、音色、センティード(スペイン語でノリという意)はアルゼンチンタンゴに基づく。ただ定型の踏襲に満足することはなかった。この音楽の使い手でもあり、多ジャンルに造詣の深い齋藤徹や黒田京子、個性的な実力者たちに囲まれ、自身の音楽性と創造性を育くんだことも大きいのだろう。オリジナル曲でタンゴの可能性を開拓しつつ、ヨーロッパや南米で演奏、共演を重ね、即興でも強烈な邂逅を重ねた(例えばフレドリック・ブロンディとのCD 『Spirals are dancing alone』参照)。豊富な経験から、今作にも見られる緊張度の高い沈黙、そして強烈な感情表現の制御法、双方を血肉化してきた――。

 さて、テーマである日本の異土としての 〈東北〉だが、友川カズキや三上寛らのフォーク、石川啄木、寺山修司らの文学、そして土方巽の舞踏、これらから強い霊感を受けたそうだ。 筆者は昔、辺鄙な土地より生まれた土着的なはずものがある普遍性を獲得する過程を、スコットランドにて劈くように叫ぶ友川の演奏が聴衆に感銘を与える様子から確認したことがある。自身が岩手出身の喜多もまた、血肉化してきた沈黙と感情の制御法を用いて、自分の中の〈東北〉に挑むことで、その音楽に新しい普遍性を吹き込もうとしている。

 ティアラこうとう小ホールで録音された本作、音像は研ぎ澄まされている。さらに前作において控えめだった喜多のヴァイオリンが阿吽のアンサンブルの前面で、より自由に鳴り響く。沈黙の深さと感情の昂りの表現が冴える、ドラマティックな作品を存分に堪能して欲しい。