自身の足跡を振り返る一年を歩んでいる4人が、ここで改めて向き合ったのは〈世界観〉。シューゲイズな深い音像に導かれ、視界を淡く染める雨の中を泳いだ先で見るものは……

 メジャー・デビュー20周年〈樹念〉企画を進行中のPlastic Treeより、その第2弾となるニュー・シングル“雨中遊泳”が到着。前作“念力”の取材の際、長谷川正(ベース)は「2017年は自分たちの足跡を振り返るような時期になる」と語っていたが、今回の表題曲もその言葉に沿ったナンバーに。〈20年前の自分たちがやってそうな曲〉という発想から毒っ気のある不敵なグルーヴを放った“念力”に対し、“雨中遊泳”は〈雨〉をテーマとするたおやかなミディアム。シューゲイズな浮遊感が聴き手を柔和に包み込む、深い音像のドリーム・ポップだ。

Plastic Tree 雨中遊泳 CJビクター(2017)

 「“念力”ではいわゆるロック・バンドとしての原風景みたいなもの、自分たちの音楽性の一部を突出して表現した感じなんですけど、今回はジャンル云々とか、曲調云々じゃなくて、聴いたときに映像が浮かぶようなもの、バンドとしてもともと描きたかった〈世界観〉を表現できたのかなって。聴いた人それぞれがいろんなことを思ってくれる曲っていうんですかね。今回は〈雨〉っていうモチーフにしたんですけど、雨の日に感じることって人によってまちまちだと思うし、その人だけの画を思い起こさせるスイッチみたいな曲になればいいなって。普遍的な、記憶として残るものにしたいというのはありましたね」(長谷川)。

 Plastic Treeにおける直近の雨ソングと言えば“くちづけ”か。そこからもすでに5年を数えるが、それにしてもこのバンドには雨がよく似合う。

 「そうなんですよね。どんな風景を描くかって考えたとき、プラは雨が似合うなあって(笑)。まだインディーズのときですけど、バンドでいちばん最初に作った“twice”って曲も雨がモチーフだったし、その後も結構、タイミングごとにそういう曲があったんで、今回はその集大成みたいなものにできたらなと。そうなるとまずはやっぱり歌詞だなと思ったので、竜ちゃん(有村竜太朗、ヴォーカル)に〈雨をテーマに書いてみてくれないですか?〉って」(長谷川)。

 「歌詞は、現在の僕が雨について思うならば、みたいな感じで書きましたね。曲を聴いて優しい歌だなと思ったので、救いのあるものにしてあげたかったなっていう。雨によって何かの感情が露呈するというよりは、もっと客観視しているというか、曲が人を見てる感じ。“くちづけ”とかだと結構情感的なんですけど、今回は、一個の自分の視点とその目線の先にある対象物側からの大きな視点、そのちょうど中間みたいなものを書けたらなっていうのがありました」(有村)。

 しとしとと絶え間なく降り注ぐことによって、視界を淡く染め上げる雨。聴き手はその〈現象〉なかに、出会いと別れ、ひいては生と死といった大きな循環を見る。

 「うん、パーソナルじゃない感じにはしましたね。出だしは僕が雨について思ってること──すごい単純に言うと水滴が上から下に落ちて、それがまた浄化されて循環して、みたいなことなんですけど、(雨側から見た)人のほうも、〈出会いや別れ〉とか、今おっしゃった〈生と死〉とか、結局、落ちたら消えてまた昇ってって、落ちたら消えてまた昇ってっての繰り返しのような気がしますね、っていう」(有村)。

 対するカップリングは作詞がナカヤマアキラ(ギター)、作曲が佐藤ケンケン(ドラムス)のコンビによる“ユートピアベリーブルー”。ナカヤマ節とも言える言葉遊びと躍動的な鍵盤が先導するダンス・ロックだ。エレクトロニックな意匠に合わせ、「試しにやってみたらハマりだった」(有村)とのことで、ヴォーカルもボコーダー越しの装いに。

 「これはケンちゃんがインストの曲として持ってきてたもので。もともとはドラムが細かくプレイしてる、toeとかポスト・ロック系の雰囲気だったんですけど、そこにメロディーを乗せることで、楽器のフレーズもビートも音色も相当変わった曲ですね」(長谷川)。

 秋には〈樹念〉企画の第3弾としてトリビュート盤『Plastic Tree Tribute~Transparent Branches~』のリリースも控えている4人。〈振り返りの1年〉は今後も留まることなく進む。

 「トリビュート盤は、〈20周年に何がしたい?〉って訊かれたときにメンバー全員から出ていた企画ということもあって、楽曲のいちファンとして楽しみにしていて。今年はこれまででいちばんいい年にできたんじゃないかなってすでに思ってるぐらいのものなので(笑)、期待しててほしいですね」(有村)。