夜の帳が下りる頃、妖しく揺れるネオンライトに照らされて、少年たちは大人の男へと姿を変えた。甘い眼差し、危険な誘惑、切ない涙――初めて見る4人の表情に、今宵は率先して騙されてみたい……
デビューからの濃密な日々
ヴァンプスがデビューを飾った2013年と言えば、ワン・ダイレクションを起点とするボーイズ・グループ人気の反動なのか、その副産物なのか、バステッドやマクフライのDNAを受け継ぐ〈楽器を持ったキュートな男の子たちによるロック・バンド〉が続々と登場した時期だ。ローソン、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー、リクストンといった面々と共に、彼らはギターの音をポップ・シーンに響かせて熱狂的な支持を勝ち取り、最初の5曲のシングルが全英チャートで連続のTOP10入り。ファースト・アルバム『Meet The Vamps』(2014年)も同2位を獲得したわけだが、同期と呼べるこれらのバンドに比べたら、活動のペースはかなり速い。いや、速いだけじゃなくて濃密でもあり、かつ、この間に遂げた変化も大きい。
何しろ、リリースの合間を縫って精力的にツアーを行い、本国UKではアリーナ級の会場を軽く埋めるライヴ・アクトとしてポジションを固めた4人。2015年に2作目『Wake Up』を発表してからは南米などにも足を延ばし、その傍らで自主レーベルを設立したことも記憶に新しい。ステディ・レコーズと命名し、タイドとニュー・ホープ・クラブなる2組のバンドと契約して、前者は去年初めの来日公演で、後者は今年10月に予定されている次のジャパン・ツアーでオープニング・アクトに起用。抜かりなく自分たちのファンに売り込み、ビジネスマインドをしっかり備えていることを窺わせたが、音楽的にも多彩なコラボレーターと共に躊躇なく新しいスタイルを採り入れて、ファンの心を繋ぎ止める努力も怠らない。
そもそもヴァンプスの場合、デビュー前に動画サイトへアップしたカヴァー曲のチョイス(テイラー・スウィフトからジャクソン5まで)が物語る通り、メンバーそれぞれが異なる音楽嗜好を持っていて、コナー・ボール(ベース)はポップ・パンクを、ブラッド・シンプソン(ヴォーカル)はインディー・ロックを愛し、ジェイムズ・マクヴェイ(ギター)はカントリーが好きだったりするし、トリスタン・エヴァンス(ドラムス)はヒップホップやエレクトロニック・ミュージックをよく聴くことで知られている。よって、キャッチー極まりないポップ・ロックを基本にしつつもフットワークは軽く、『Meet The Vamps』ではアコースティックな音を強調し、ギターに加えてバンジョーやマンドリンの響きも効かせたレイドバック&フォーキーな志向だった。それが『Wake Up』になると、シンセ・サウンドを前面に押し出し、コンテンポラリーなメインストリーム・ポップにグッと接近したものだ。
夜仕様のパーティー・アルバム
では、ここに完成したサード・アルバム『Night & Day: Night Edition』はどうなのか? まずはタイトルにご注目。〈Night Edition〉と添えられているように、これは〈Night〉と〈Day〉に分けられた2部作の前編。今年後半には〈Day Edition〉を送り出そうと目論んでいるのである。しかも〈夜〉と謳うだけあって、今度のヴァンプスはずばりクラブ・ミュージックを自己流に料理。序盤の3曲で早速、昨年を代表するトロピカル・ハウス・アンセムを生んだ3人の若手EDMクリエイターと組んでいる。そう、オープニング曲“Middle Of The Night”はデンマーク人のマーティン・ジェンセン(“Solo Dance”)、“All Night”はノルウェー人のマトマ(“False Alarm”)、“Hands”はスウェーデン人のマイク・ペリー(“The Ocean”)といった具合に。
これが意外なようで、前作で少しずつエレクトロニックな音に耳が慣れていたこと、また、ヴァンプスらしさとEDMサウンドがちょうど良いバランスでミックスされていることが功を奏し、実に自然なハイブリッドが完成。主導権はあくまでメンバーが握っており、ヴォーカリストとしてハッとするほどエモーショナルに表現力を磨いたブラッドの歌唱も、ここにきて揺るぎないバンドのアイデンティティーとして確立されたんじゃないだろうか。実際、先行カットの“All Night”が、シングル曲としてはキャリア最大のセールスを記録しているから、ファンも彼らの実験を歓迎していると思って良さそうだ。
そして、この後に続く“Same To You”もいまっぽいダンス・ポップ系だし、オールド・スクールなダンス・ミュージックへ振り切れた“Shades On”ではディスコに、“It's A Lie”では何とレゲトンにも挑む4人。終盤の“Stay”で初作に近いオーガニックなサウンドへ一瞬戻ったりもしているけど、〈どうせやるなら思い切ってとことん遊んでやろう〉という潔さが実に気持ち良い。
その一方で、やけに切なかったり、セクシーだったり、これまでになく大人な歌詞の趣にも夜の気分が醸し出されていて、過去2枚のアルバムの屈託ない明るさとは一線を画している。デビュー当時はまだティーンだった彼らも、いまや全員20代。ゲスト・ヴォーカルを添える2人の女優兼シンガー――“Hands”のサブリナ・カーペンターと“It's a Lie”のマルティナ・ステッセル――とのやり取りもリアリティーがあるし、ただ遊ぶだけじゃなく、人間としての自分たちの成長を素直に曲に映したアルバムでもあるのだ。
そんな自己流のパーティー・アルバムで果敢に新しい扉を開いた彼らは、リリースに先立つミニ・ツアーで、これまたおもしろい試みを実行している。ダンス・ミュージックに根差した本作を、あえてアコースティック形式で、全曲そっくり披露するというものだ。いつもと違って聴こえるだろうけど、僕らは同じバンドのままなんだよ――そう言わんばかりに。結成から5年、軸足はブレず、でもフレキシブルに、ヴァンプスは正しい道を歩んでいる気がする。
ヴァンプスのアルバム。
『Night & Day: Night Edition』にゲスト参加したアーティストの作品。
マーティン・ジェンセンの“Solo Dance”を収録した2017年のコンピ『Now: That's What I Call Summer Party 2017』(Now)、マトマの“False Alarm”を収録した2017年のコンピ『Weekend Goals』、マイク・ペリーの“The Ocean”を収録した2017年のコンピ『Laidback Beats』(共にMinistry Of Sound)