古くはブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラ、マイリー・サイラスにセレーナ・ゴメスなど。ディズニー・チャンネル出身のアイドルは、ある時点でガラッと変貌する。清純派のまま大人になるってこと自体があり得ないのかもしれないけれど、とりわけディズニー卒業生に関してはいかに大きくイメチェンするか、どこへ向かって羽ばたくかが勝負どころだ。19歳のサブリナ・カーペンターにとっていまがまさにその瞬間。TVドラマ・シリーズ「ガール・ミーツ・ワールド」で女優として人気を博す傍ら、シンガーとしても活動してきた彼女が、日本デビュー盤となるこのたびのサード・アルバム『Singular: Act I』でついに自分の翼を見つけ、大空へ羽ばたこうとしている。

SABRINA CARPENTER Singular: Act I Hollywood/ユニバーサル(2018)

 ひと足先に公開されたリード・シングル“Almost Love”を耳にした時点で、慌てふためいたファンも多かっただろう。恋に落ちるデンジャラスな予感を歌っているのだから当然かもしれないが、彼女自身も「自分の大きな変化の始まりを実感した曲」と語る通り、溢れ出しそうなほどセクシー・オーラが全開状態。プロダクションを担当したのはスターゲイトだ。ブリトニーからリアーナまで、さまざまな女性シンガーの成長・脱皮に貢献してきたこのノルウェー出身のヒットメイカーが、彼女の優等生キャラを払拭するために奮闘。妖しいムードの同エレクトロ曲は、全米ダンス・チャートで1位を記録している。

 『Singular: Act I』ではスターゲイト以外にも多数の敏腕クリエイターを召喚。マルーン5やゼッドを手掛けたモンスターズ&ザ・ストレンジャーズ、ケラーニやアレッシア・カーラ仕事で知られるポップ&オークのオーク・フェルダーと、この人たち抜きに現行ポップ・シーンは語れない(?)スウェーデン勢も参加している。その他、テイラー・スウィフトやDNCEを顧客に抱えるオースカー・ゴーレ、アリアナ・グランデやワン・ダイレクション仕事で名を上げたヨハン・カールソンら北欧のプロデューサーがズラリ。とはいえ、決してヒット狙いの激キャッチー・チューンばかりを集めようといった雰囲気ではない。サブリナ自身もソングライティングに携わる本作には、新しいポップソングの在り方を探るかのような実験性と開拓精神で溢れているのだ。このあたりは、16歳でブレイクしたロードや17歳のビリー・アイリッシュを引き合いに出したくなる感じか。〈エレクトロ・ブルース〉とでも呼びたいアミール客演曲“Hold Tight”や、シアトリカルなソウル・チューン“Diamonds Are Forever”など、もはやディズニー時代の面影は見当たらない。歌に関しても、アギレラを彷彿とさせるパンチの効いた声を轟かせたかと思えば、アリアナ風のドリーミーなウィスパー・ヴォイスでソフトに包み込んだり……。七変化するヴォーカルを自在に操り、数年前とは比べものにならないくらい劇的にアップした表現力で驚かせてくれる。

 デビュー・アルバム『Eyes Wide Open』(2015年)ではカントリーに寄り添い、2作目『Evolution』(2016年)ではタイトルに違わず〈進化〉を窺わせつつも試行錯誤していた彼女。その後もヴァンプスとの“Hands”やジョナス・ブルーとの“Alien”をはじめ、数々のコラボを行なって切磋琢磨してきた。そして、ようやくこの『Singular: Act I』で自分のやりたいことを発見し、20代に向けての活路を見い出した印象も。今後どっちに向かって弾けるか、予測不能ではあるけれど、アリアナ級のキュートさとマイリー級の好感度を持ち合わせ、しかもリンジー・ローハン級の破天荒な素質まで備えていそう? とにかく、サブリナ・カーペンターがいま〈ディーヴァ1年生〉のスタート地点に立っているのは間違いない。

 


サブリナ・カーペンター
99年5月生まれ、USはペンシルヴァニア出身の女優/シンガー。2009年に〈The Next Miley Cyrus Project〉のオーディションで3位に選ばれ、2011年にスクリーン・デビュー。2014年にTVドラマ・シリーズ「ガール・ミーツ・ワールド」の主役に抜擢されてブレイクし、翌年5月にファースト・アルバム『Eyes Wide Open』を、2016年7月に2作目『Evolution』をリリースする。2017年には〈POPSPRING〉で初来日。ジョナス・ブルーを迎えた先行シングル“Alien”がUSダンス・チャートで1位を記録するなど話題を集めるなか、2018年10月にサード・アルバム『Singular: Act I』(Hollywood/ユニバーサル)を発表。このたびその日本盤がリリースされたばかり。