夜を抜け出し、灼熱の太陽が燦々と輝く真昼の世界へ
それはワン・ダイレクションやらウォンテッドといったボーイズ・アイドルが相次いで登場し、人気を博してからしばらく経ってのことだった。同じように若くて、ルックスも良くて、曲は親しみやすくて、でも、みずから楽器を演奏するバンドとして自分たちを差別化したグループが、〈ちょっと待った!〉とばかりに英国で続々と出現。そう、ローソンやリクストンといった連中のことだ。彼らは先輩格のマクフライが提示した原型に従ってキャッチーなポップ・ロックを鳴らし、2010年代前半のチャートを荒らしたわけだが、それから5年近くが経ったいまも一過性のトレンドとして消えることを拒み、高い人気をキープしているのがこのヴァンプスである。2013年秋にデビューするや、全英チャートTOP3圏内に相次いで3曲のシングルを放り込み、早々にブレイクしたものの、前作『Night & Day: Night Edition』でサード・アルバムにして初の全英No.1を獲得。同作からはキャリア最大のヒット・シングル“All Night”も生まれたのだから、最近では珍しい耐久力を見せつけている、とも言えよう。
少年たちの次なる挑戦
この4人が生き残った理由は何か? それは第一に、安定したラインナップを挙げておくべきかもしれない。イングランド南部からスコットランド北部までメンバーの出身地はバラバラで、YouTubeに上がっていたブラッド・シンプソン(ヴォーカル)のパフォーマンス動画を観て惚れ込んだジェイムズ・マクヴェイ(ギター)が、まずブラッドと一緒に曲作りをスタート。さらに、2人のパフォーマンス動画を観たトリスタン・エヴァンズ(ドラムス)とコナー・ボール(ベース)が別々にアプローチするという、ネット経由で結成に至ったいまどきのバンドでありながら、良好な人間関係を築き上げた彼らの結束は非常に固い。
次に特筆すべきは、そんな4人がびっくりするほどの量のツアーをこなしている点だ。本国はもちろん世界中をまめに旅し、日本にもアルバムをリリースするたびに訪れていて、ファンとのダイレクトなコミュニケーションを取ることを怠らない。
そうして4ピース・バンドとしての生のケミストリーをステージで磨く傍ら、スタジオでただ同じような作品を作り続けるのではなく、果敢に実験して表現の幅を広げてきたことも、重要な勝因だろう。というのも、ヴァンプスは『Night & Day: Night Edition』に着手するにあたって、2つの試みを思いついた。アルバム・タイトルが示唆する通り、〈夜〉と〈昼〉にテーマを分けた2部作を制作し、ダンス・ミュージック系のプロデューサーたちと積極的にコラボして新境地を拓こう、と。
そんなわけで前編『Night & Day: Night Edition』では、前述した“All Night”をマトマと、“Middle Of The Night”をマーティン・ジェンセンと、“Hands”をマイク・ペリーと、3曲のシングルをそれぞれ北欧のプロデューサー/DJとレコーディング。そもそも、コナーはポップ・パンクを愛し、ジェイムズはカントリーやフォークを好み、残る2人はロックはもちろんヒップホップやエレクトロニック音楽も聴くという具合に、幅広い音楽嗜好を網羅し、これまでにもエレクトロニックなサウンドを導入していた4人だから、取り立てて驚くことではないのかもしれない。それにしたって、前作でいよいよ〈僕らはバンド・サウンドに縛られない〉と、はっきり宣言したのも同然だ。上記3曲で採り入れたトロピカル・ハウス以外にも、ディスコやレゲトンのビートを導入したヴァンプスは、カラフルな人工的な煌めきを纏いつつ、ホロ苦い歌詞やマイナー・コードのメロディーで影を添えた、サブ・タイトルそのままに夜の空気を醸すアルバムを完成させたのである。
ハイなパーティー・モード
それからちょうど1年、ここにお待ちかねの後編『Night & Day: Day Edition』が到着。英国からデジタル・ファーム・アニマルズ、オランダからクリス・クロス・アムステルダム、スペインからダニー・アヴィラ、スウェーデンからオスカー・ゲレス&オスカー・ホルター……と若手・新進のプロデューサーをセレクトし、引き続きダンサブル&ボーダレスな新路線を掘り下げている。なかには、そのダニーとの連名で発表し、アメリカ人ラッパーのマシン・ガン・ケリーをフィーチャーした先行シングル“Too Good To Be True”のように、思い切りEDMに振り切れた曲もあるのだが、他方で“Hair Too Long”や“Talk Later”では、エレクトロニックとオーガニックのバランスを模索。何しろ前作をリリースしてからその収録曲をライヴで何度も演奏しているだけに、ダンス・ミュージックに生楽器の音をうまく織り込むテクニックが自然と身についたのかもしれない。
また、彼らはコンセプトからも逸れることなく、前作の〈夜〉に対して、まさに〈昼〉の世界を展開(本作には前作の本編8曲も後半に追加収録されているので、逆に〈夜〉から〈昼〉への転換を体験できる)。よりアップビートでハイなパーティー・モードのナンバーが目立ち、軽さと解放感が全編に満ち溢れている。よってこれは〈昼〉であるだけでなく、〈夏〉のアルバムとも呼べるだろう。
そして、ここまでスタイルのヴァリエーションが広がると、代わりに強調されるのが、デビュー時からブレていないバンド・アイデンティティーとしての、ブラッドのヴォーカルの魅力。これもまた、ヴァンプスをスペシャルな存在にしている要因のひとつだ。ソウルフルかつ甘い声で、どんなタイプの曲調もフレキシブルに歌いこなすブラッド、本作ではその甘さが夏の気分をさらに濃厚なものとしている。持ち前の才覚、ハードワーク、大胆な決断……いまのところ、ひとつひとつの要素をおもしろいようにうまく噛み合わせて、2010年代的なバンドの在り方を模索しながら着々とキャリアを積んでいる4人は、何とも頼もしい。
ヴァンプスのアルバム。
『Night & Day: Day Edition』にゲスト参加したアーティストの作品。