祝! 創造性豊かなエレクトロニカ・スコアで2017年カンヌ・サウンドトラック賞受賞!
『神様なんかくそくらえ』(2014年)で、その年の東京国際映画祭のグランプリを受賞した、アメリカはニューヨークを拠点に活動するジョシュ&ベニーサフディの兄弟監督による新作『グッド・タイム』のサウンドトラック。今作はスター俳優、ロバート・パティソンが心の病を抱える弟を刑務所から救い出そうと奔走する“下流”な男に挑戦。逃走劇であり、クライム・サスペンスである。予告を見る限り、夜のニューヨークを舞台にした、緊迫感のある展開と、犯罪、貧困、人種問題なども絡んでいる、痛みを感じそうなリアリティー映画のようだ。
そんな映画の音楽を担当したのは、同じくニューヨークを拠点に活躍するダニエル・ロパティンによるソロ・プロジェクト、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)。アンビエントや実験的な要素の強いエレクトロニック・サウンドのクリエイターとして、10年近く活動。リスナーはもちろん、批評家筋からも高い評価を得てきた。そんな彼にサフディー兄弟は、映画の制作前から興味を抱いてコンタクトし、今回のコラボレーションが始まったという。リリースによれば、OPNの初期の音源を、「まだ作ってもいない映画のサウンドトラックとして想像していた」という。
ONEOHTRIX POINT NEVER Good Time Original Motion Picture Soundtrack Warp/BEAT(2017)
実際、OPNとサフディー兄弟は、出会った時点からその相性も抜群だった様で、立場は違えど、ともにニューヨーク、そしてインディペンデントな要素の強いフィールドで表現活動をしてきたというところでの共感もあったのではないかと思われる。
さて、実際のサウンドについて。街の喧騒を表しているようなノイズ、フレーズのリフレイン、夜の街のネオンや車のライトを思わせるような高音のシンセサイザーの音色など、聴くものの想像の視覚を立ち上がらせるサウンドスケープ作りの妙はOPNならではのもの。そこに、(劇中の、であろうか)人の声、往年のスリラー映画(ジョン・カーペンター監督作品あたり?)へのオマージュのような、不安感とドキドキ感を煽りまくるフレーズや音声を投入したような展開は、サントラを通して聴いただけで1本の映画を見たような感覚にさせられる。
また、サウンドメイキングや効果音だけでなく、シンセサイザーや時にロックギター等で奏でられる、“スコア”の骨となるメロディの豊かさも、このサントラの魅力の1つだろう。時に不気味でダークに、時に追い詰められた感が溢れる切なくも美しいメロディは、アルバムを貫く世界観の構築に大きな役割を果たしている。
そして、特筆すべきはアルバムの最後に挿入された、イギー・ポップのヴォーカルによる《The Pure And The Demand》。ポエトリーリーディングのような語りを含み、微かにピアノの音色を取り入れた、ダウナーだけれどシンプルで美しいバラード。この1曲のインパクトが、このサウンドトラックのハイライトとなっている。
エレクトロニック・サウンド、中でも効果音やノイズなどをうまく取り入れて、実験的なサウンドを作り上げるクリエイターの作品は、そのまま映画音楽に使えるようなものが多いけれど、今作はその中でも成功例といえるのではないだろうか。サントラに数曲加わった、というだけでなく、制作側と事前から関わり、サントラ丸ごとを仕上げられるという力量は、誰もがもっているものではない。その証に、OPNは今作で今年のカンヌ国際映画祭においてサウンドトラック賞を受賞しており、その実力が認められた。
エレクトロニック・ミュージックの、より幅広い捉え方や使い方、という意味でもOPNのような活躍の広がりは、注目に値する。実際、OPNにはアメリカやヨーロッパの、現代アートを扱う美術館からの依頼も絶えないと聞く。日本でもそうした動きは感じられるが、こうした動きがクリエイターにとっての刺激になることはもちろん、シーン自体の構造的な変化や活性化につながっていくのでは……とそんな思いを起こさせる作品だ。
CINEMA INFORMATION
映画『グッド・タイム』
監督:ジョシュ&ベニー・サフディ
出演:ロバート・パティンソン『トワイライト』、ジェニファー・ジェイソン・リー『ヘイトフル・エイト』、ベニー・サフディ(監督兼任)、バーカッド・アブディ『キャプテン・フィリップス』
配給:ファインフィルムズ(2017年 アメリカ 100分)
(C)2017 Hercules Film Investments, SARL
◎11/3(祝・金)公開
www.finefilms.co.jp/goodtime/