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ザ・ウィークエンドが2022年1月7日に突如リリースしたアルバム『Dawn FM』。クインシー・ジョーンズやジム・キャリーなど豪華なゲストの参加や洗練されたサウンド、独自の作品世界が話題になっているなか、日本では作中の〈あるサンプリング〉が話題になっている。そこで今回は、リミックスなどを追加した『Dawn FM (Alternate World)』が日本盤として発売されるタイミングで、そのサンプリングや彼の到達点と言える本作の背景を音楽ジャーナリストの高橋芳朗に解説してもらった。 *Mikiki編集部

THE WEEKND 『Dawn FM (Alternate World)』 XO/Republic/ユニバーサル(2022)

 

段違いのインパクトをもたらした亜蘭知子のサンプリング

ザ・ウィークエンドの新作『Dawn FM』が好評だ。特にここ日本では彼のディスコグラフィー中でも最も大きな反響を呼んでいる感触があるが、その原動力になっているのはほかでもない、近年の世界規模でのシティポップリバイバルの流れでクローズアップされていた亜蘭知子の83年作“Midnight Pretenders”をサンプリングした“Out Of Time”だ。

『Dawn FM (Alternate World)』収録曲“Out Of Time”

ザ・ウィークエンドの“Out Of Time”は、繰り返し検証されながらもまだいまひとつ全体像がつかみきれないところのあった〈世界規模でのシティポップリバイバル〉が、我々の想像を超えるスケールのムーブメントへと発展していく可能性を示唆するような衝撃があった。もちろん、これまでにもアメリカのヒップホップ/R&B勢によるシティポップの引用はたびたび行われてきている。なかではニコール・レイ“Can’t Get Out The Game”(2005年)での山下達郎“DANCER”、J・コール“January 28th”(2014年)でのハイ・ファイ・セット“スカイレストラン”、ジェネヴィーヴ“Baby Powder”(2020年)での杏里“Last Summer Whisper”などが鮮烈だったが、いまのこのタイミング、しかも現行ポップミュージックのメインストリーム最前線をひた走るトップランナーの手によるものとなるとインパクトは段違いだ。

 

レアグルーヴ視点ではない絶妙な着眼点

また、亜蘭知子の“Midnight Pretenders”を引用する着眼点も絶妙だった。長戸大幸や織田哲郎らと共にビーイングの創設メンバーに名を連ね、同社の専属ソングライターとしてTUBE“シーズン・イン・ザ・サン”や“SUMMER DREAM”などのヒット曲に携わっている彼女は、81年から90年にかけて計9作のオリジナルアルバムをリリースしている。その一部はこれまでにもシティポップ文脈で評価されてきたが(たとえば2013年刊行のディスクガイド「Light Mellow 和モノ Special」では84年作『More Relax』が取り上げられている)、“Midnight Pretenders”を収録したアルバム『浮遊空間』に関してはヴェイパーウェイヴから派生したフューチャーファンクの台頭によって再発見された経緯がある(亜蘭のベストアルバム2タイトル、2011年の『ゴールデン☆ベスト The Best』2020年の『Best of Warner Years ’81~’87』の収録曲を比較してみると興味深い。前者には“Midnight Pretenders”は未収録)。つまり“Out Of Time”における“Midnight Pretenders”のサンプリングは、先述した山下達郎“DANCER”やハイ・ファイ・セット“スカイレストラン”などのある種のレアグルーヴ的観点からの引用とは微妙に意味合いが異なってくるのだ。

 亜蘭知子の83年作『浮遊空間』収録曲“Midnight Pretenders”