コラム

コートニー・バーネット&カート・ヴァイル 『Lotta Sea Lice』 ボブ・ディランの遺伝子を受け継ぐ2人のカリスマが出会ったら……

【特集:KNOCK ON THE DOOR Chapter 2】Pt.1

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COURTNEY BARNETT & KURT VILE
出会うべくして出会った、ボブ・ディランの遺伝子を受け継ぐ2人のカリスマ

 

 世界中のインディー・ファンが、コートニー・バーネットとカート・ヴァイルのタッグによるこのニュー・アルバム『Lotta Sea Lice』を待ち焦がれていたに違いない。片やメルボルンから現れた〈女性版ボブ・ディラン〉とも言うべき節回しが特徴のオルタナ・ガール。片やボブ・ディラン~ブルース・スプリングスティーンと比較されるソングライティング力や、Jマスキス的なギター・スキルを持つフィラデルフィアのシンガー・ソングライター。事の始まりはいまから4年前、カートのメルボルン公演をコートニーがサポートした際、互いにファンだったという2人は急接近。自然な流れでコラボの話が持ち上がったとか。

COURTNEY BARNETT,KURT VILE Lotta Sea Lice Matador/BEAT(2017)

 「いつかコートニーと一緒にレコーディングできれば良いなと思いながら、僕は準備を進めていた。ちょうど『B'lieve I'm Goin Down...』のプロモーションをしている時、頭の中にあった彼女のための歌を実際に書きはじめたんだよ。それが“Over Everything”だ。彼女もコラボに賛成してくれて、“Let It Go”を書いてくれた。それで決まりだったね」(カート)。

 その2曲を7インチ・シングルとしてリリースするはずだった最初の計画は、あれよあれよと9曲入りのアルバムにまで膨らむことに。そして、〈完全なアコースティック・デュオで……〉と考えていたレコーディングにも、カートの呼びかけでダーティ・スリーのジム・ホワイト(ドラムス)とミック・ターナー(ギター)、ウォーペイントのステラ・モズガワ(ドラムス)、ニック・ケイヴの長年のパートナーとして知られるマルチ奏者のミック・ハーヴェイらが参加。果たして、USルーツ・ミュージックを志向しつつも、2人の出自を窺わせるように、ローファイかつオルタナティヴな要素をたっぷり含んだ現代的なアメリカーナ盤が完成した。

 今作の起点となった2曲──徐々に熱を帯びていくギターが印象的な“Over Everything”と、「可愛らしさと悲しさが絶妙に同居したコートニーの真骨頂」とカートも太鼓判を押す“Let It Go”に顕著な通り、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名前もよぎるフリーキーで都会的なフォーク・サウンドに軸足を置きながら、間にはクレイジー・ホースと組んだ時のニール・ヤングっぽいオルタナ・カントリー“Fear Is Like A Forest”なども登場し、収録曲はなかなかに多彩だ。とりわけ注目すべきは2人がそれぞれの曲をカヴァーし合った“Outta The Woodwork”と“Peepin' Tomboy”か。まず前者について。コートニーのオリジナル・ヴァージョンはメランコリックなピアノ・バラードだったが、今回カートはブルージーなサザン・ロック調にアレンジ。そして後者はトラッド色の強いアコースティックな原曲からガラリと表情を変え、コートニーはエレキを掻き鳴らしている。ちなみに“Peepin' Tomboy”は、彼女がカートのファンになるきっかけとなった思い出のナンバーだそうだ。2011年のリリース当時、在籍していたバンドが解散してしまったコートニーは、ふらふらと毎日を過ごすなかで同曲を繰り返し聴き、創作意欲を取り戻したらしい。奇しくも『Lotta Sea Lice』の制作を前後してふたたびスランプに陥っていた彼女は、カートとの共同作業を通じてその壁を乗り越えたと語っている。

 「曲が書けず、このまま偽りのソングライターになってしまうのでは……と、本気で恐ろしかったの。でも、その恐怖心がどこかへ行ってしまった後はただただ楽しかったわ。カートは馬鹿みたいにポジティヴで、私は失っていた自信にもう一度火を点けることができたのよ」(コートニー)。

 2人の相性の良さは予め約束されたも同然だったが、彼女にとってカートの存在は僕らが考えている以上に大きいのかもしれない。それを踏まえたうえで『Lotta Sea Lice』に耳を傾ければ、また違った味わい深さが感じられるはずだ。 *山口智男

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