2019年3月、タワーレコード新宿店10階にオープンしたアナログ専門店〈TOWER VINYL SHINJUKU〉。同店の魅力を伝えるこの連載〈TOWER VINYL太鼓盤!〉では、店舗スタッフがお客様におすすめしたいレコードをご紹介します。第2回目は、カラー・ヴァイナルに目がないというインディー・ロック・ファンの小嶋千夏さんに〈太鼓盤〉を訊きました。

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――小嶋さんはどんな音楽がお好きなんですか?

「90年代のUSインディーとオルタナをメインに聴いています。最近のアーティストでは、カート・ヴァイルとか。マタドール(米NYのインディー・レーベル)はかなり贔屓にしていて、そればっかりになっちゃうんです(笑)。いちばん好きなのはペイヴメント。今度再結成するとか……」

――来年ですよね! いちばん好きなアルバムはどれですか?

「そのときによって結構変わるんです(笑)。ひとに薦めたいのはセカンド・アルバムの『Crooked Rain, Crooked Rain』(94年)なんですけど、最近聴いて感動するのは、やっぱり『Terror Twilight』(99年)かなって」

――僕はファースト『Slanted And Enchanted』(92年)とセカンドが好きです! Mikikiにはペイヴメントについて髭、Homecomings、Helsinki Lambda Clubのメンバーが語った記事があるので、ぜひ読んでみてください。関係ない話で盛り上がってしまいましたが、気を取り直して、1枚目は何でしょう?

ジョアン・ジルベルトの『Chega De Saudade』です。59年に発売されたので、今年でちょうど60周年。これはスペインのワックス・タイムというリイシュー・レーベルから出たもので、ボーナス・トラックが8曲も入っています。

実は私、最初はワールド・ミュージックのバイヤーだったんです。全然詳しくなかったので、〈やっていけないよ~〉なんて思っていたんですが、ジョアンの音楽を聴いて、ロックの要素もあるなと思って。それから、ブラジル音楽も聴けるようになりました」

ジョアン・ジルベルトの59年作『Chega De Saudade』表題曲。ジョアン・ジルベルトは2019年7月6日に逝去。取材はそれが発表される前だった

――『Chega De Saudade』は、〈ボサノヴァを発明した〉とも言われるアルバムですね。UKのインディー・レーベル、エル(él)が再発していますし、インディー・ファンからも愛されています。

「ネオアコ好きな人にも聴いてもらいたいですね。本当に掛け値なしの、歴史的名盤なので。

アナログ・レコードの音を表現するときに〈丸みがある〉〈ぬくもりがある〉って言いますけど、そういうことがいちばん伝わりやすいアルバムかなあって思います。なので、初めてレコードを聴く方にもおすすめしたいです」

――続いて、2枚目です。

「タワレコメンに選ばれた作品ですが、TOWER VINYLでも推しているのがドラッグディーラーの『Raw Honey』

どこかのサイトでジャケットを見て、気になって……USのサイケデリック・バンド、ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ『The United States Of America』(68年)のオマージュって言われていますね。

THE UNITED STATES OF AMERICA The United States Of America Columbia(1968)

 で、音を聴いたら〈これはヤバい!〉って思って、すぐ発注しました。イニシャル(初回出荷枚数)は本当に少なかったんですけど、新宿店と渋谷店で展開を始めて、タワレコメンにまでなりました」

――レーベルはメキシカン・サマー。音楽的にはどうでしょう?

「完全に70年代のサウンドです。もう、聴いた瞬間に耳に馴染みました。70年代のシンガー・ソングライターとかが好きだったら、間違いないと思います」

ドラッグディーラーの2019年作『Raw Honey』収録曲“Fools”

――アナログで聴きたくなる音ですね。

「そうですね。盤が回って音が鳴っているんだなっていうのが、すごく感じられるレコードです。大きいスピーカーでストア・プレイしていたとき、〈これ、いつの(時代の)人なの?〉って年配の方からお問い合わせがありました」

――ジャケだけ見たら、〈再発盤?〉って思いますよね。

「そうなんですよ。レコードのいいところって、私はやっぱりジャケットだと思うんです。オブジェクトとしての魅力がそこにあると思います」

――では、3枚目です。ジョイ・ディヴィジョン『Unknown Pleasures』(79年)。

「このアルバムは、今年リリース40周年なんです。内容は2015年にリイシューで出たのとまったく同じですが、もともと黒いジャケットが白になっていて、盤の色は赤。すごく売れています。UKチャートでは5位に入ったとか」

――超暗いアルバムなのに(笑)。

「リリース日がマドンナやボス(ブルース・スプリングスティーン)の新作と同じで、そのあたりの作品が上位にランクインしているなかに、いきなりこのアルバムが5位に入っているっていう(笑)。レコードでしか出していないんですけど」

ジョイ・ディヴィジョンの79年『Unknown Pleasures』収録曲“I Remember Nothing”。リリース40周年を記念して制作されたビデオ

――CDのリイシューはなかったんですね。それで5位はすごい。カラー・ヴァイナルは欲しくなりますよね。

「私、カラー・ヴァイナル大好きなんです! 〈カラー・ヴァイナル〉って言われると、〈あっ、じゃあ買います!〉ってなっちゃう(笑)。

限定盤なので、買うならいまのうちかなと思います。これも、モノとして手に入れたくなるレコードの良さを感じる一枚です。品番も凝っていて、リリース当時は〈FACT 10〉だったのが、〈40〉が付いて〈FACT 10 40〉ってなっているんです。ロマンがあるなって思いました」

――いいですね! Spotifyで品番は見られないですからね。

「入荷したとき、壁一面にばーって並べたんですよ。壮観でした。1枚だけ黒いオリジナルのを紛れ込ませたりして。でもどんどん売れていくので……」

――抜けちゃうんですね。

「〈うれしいけど、売れないで!〉って思いました(笑)」

――では、4枚目をお願いします。

「これもカラー・ヴァイナルで、オーヴィル・ペック『Pony』です。

私、サブ・ポップのTwitterをフォローしているんですけど、彼の話題ばっかり流れてきて。気にしたら負け、みたいなルックスじゃないですか? 負けてしまいました(笑)。レザーのマスクにフリンジっていう、常にこの格好でライヴもしているらしくて。そんな彼が自称している肩書きが、〈サイケデリック・アウトロー・カウボーイ〉なんです」

――おもしろい(笑)。音楽的には?

「カントリーがベースで、〈カントリー・シューゲイザー〉とも言われています。でも、ポスト・パンクやニューウェイヴ的な音でもあって、歌声がモリッシーにそっくり。なので、見た目よりは聴きやすいんです(笑)。

オーヴィル・ペックの2019年作『Pony』収録曲“Dead Of Night”

このアルバムは、奇跡的に〈ルーザー・エディション〉のゴールド・ヴァイナルで入荷しています。〈ルーザー・エディション〉っていう名前も私はすごく好きで……〈ルーザー〉って、サブ・ポップのスローガンじゃないですか。真意はわからないんですが、〈レコードなんかにマジになっちゃっている君たちはルーザーだね〉〈初回盤を手に入れるために、マジになっちゃって〉って意味なのかなあって思っています(笑)」

――なるほど(笑)。

「サブ・ポップの初回盤は、発注してみないと入ってくるかどうかがわからないんです。どれくらいプレスしているのかわからないので、見かけたらすぐに買ったほうがいいですね」

――最後の1枚は、ジー・オウ・シーズの『Live In San Francisco』(2016年)。これ、僕も持っています!

「ほんとですか? 私、このジャケットが大好きなんです! マッドハニーの『Superfuzz Bigmuff』(88年)とか、ニルヴァーナの『Bleach』(89年)とか、モノクロのライヴ写真をジャケットに使った作品がすごく好きで。このレコードには、モノクロ映像で撮られたライヴDVDも付いているんです」

――〈Live In San Francisco〉っていうライヴ・アルバムのシリーズなんですよね。タイ・セガールやディストラクション・ユニットもリリースしていて。

「そうです。(ジャケットを指して)この人(ジョン・ドワイヤー)がやっているキャッスル・フェイスっていうレーベルのシリーズです。オウ・シーズは、他のガレージ・サイケ・バンドとなんか違うんですよね。このときはツイン・ドラムとベース、ギター・ヴォーカルっていう変則的な編成で……とにかくヤバいですね」

ジー・オウ・シーズの2016年作『Live In San Francisco』収録曲“I Came From The Mountain”

――ライヴがめちゃくちゃかっこいいんですよね。最高のガレージ・サイケ・バンドだと思います。

「ライヴで名を挙げてきたバンドですよね。去年もアルバム(『Smote Reverser』)を出していて、それもよかったですね」

オウ・シーズの2018年作『Smote Reverser』収録曲“Overthrown”

――怪物が描かれたジャケットの……。毎回、変なジャケットなんですよね。なんじゃこりゃ、みたいな。

OH SEES Smote Reverser Castle Face(2018)

「そうなんですよ。こういうの(『Live In San Francisco』)でいいのにって思うんですけど(笑)。 あと、20年くらいやっているバンドなんですが、バンド名がコロコロ変わっています

※Orinoka Crash Suite、OCS、Orange County Sound、The Ohsees、The Oh Sees、Thee Oh Seesを経て、現在はOh Sees。なお『Live In San Francisco』リリース時はThee Oh Seesだった

――こんなマニアックな盤もTOWER VINYLに入ってくるんですね。

「あっ……私が発注しています(笑)」

――そういうことなんですね(笑)。

「私はTOWER VINYLで〈モノクロジャケ特集〉をやりたくて」

――いいですね! モノクロジャケ、何が好きですか?

「ヴェルヴェッツ(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)のサード『The Velvet Underground』(69年)ですかね。

THE VELVET UNDERGROUND The Velvet Underground MGM(1969)

今回は、(第1回目の)塩谷(邦夫)さんのような音楽的な統一感はないんですけど、モノとしての魅力を感じるレコードを選んでみました。

私はノー・エイジ(米LAのノイズ・ロック・デュオ)がすごく好きで、彼らは以前、自分たちでLPを組み立てていたらしいんです。あえてダウンロード・コードを付けないとか、モノとしてのレコードにこだわるバンドを応援したくなるし、そういうバンドがもっと増えたらいいなと思います」

――ところで、最近のTOWER VINYLはどうですか?

「中古盤を買う方って、ディガーのイメージがありますよね。でも、私がお話しさせていただくお客様は、〈懐かしいね~〉って言って買っていかれる方が多いんです」

――レコード世代の方ですね。

「そうです。純粋に音楽を聴く媒体としてレコードに触れてきていた方々が、〈昔持っていたイーグルスのレコード、売っちゃったから買いに来たよ〉っていう感じでいらっしゃるんです。なので、TOWER VINYLが目標にしている〈敷居は低くて奥が深い〉に近づいているのかなって思います」

 


INFORMATION
TOWER VINYL SHINJUKU

東京都新宿区新宿3-37-1 フラッグス10F
営業時間:11:00~23:00
定休日:不定休(フラッグスの休業日に準じる)
電話番号:03-5360-7811