シューマンの清らかさ――すばらしく特別な世界
「シューマンは私の青春とともにある作曲家。作品のなかに入り込んで共感し、喜びや悲しみ、嘆きや心の不安などさまざまな感情を抱き、音楽にハマっていました。いま再びシューマンと対峙することで、以前は見えなかったものが見え、感じることができ、作品により近づくことができるようになったと思います」
仲道郁代がデビュー30周年を迎え、シューマンの『ファンタジー』と題するアルバムをリリースした。これは2017年4月、カラヤンが愛したことで知られるベルリンのイエス・キリスト教会で収録され、20年に渡って彼女のレコーディングを手がけているプロデューサー、フィリップ・トラウゴットとの録音である。
「トラウゴット氏とは長年のおつきあいにより、信頼関係が成り立っています。彼は学者肌で、作品の奥深い面などを語ってくれます。この教会は木造りのとても温かな響きが特徴で、木に音が染み込んでいく感じ。じっくりシューマンと向き合うことができました」
収録作品は《ロマンス》《交響的練習曲》《幻想曲》。
「《交響的練習曲》も《幻想曲》高校生のときから演奏しています。今回、改めて感じたのはシューマンの清らかさ。シューマンは死ぬまで美しく清らかな世界に存在した人で、作品がそれを物語っています。演奏していて光の色が突然フワッと変わる。エドウィン・フィッシャーが著作で〈シューマンの音楽は天の花園が見える〉と書いていますが、まさにそうした瞬間が味わえます。花の香り、光などあまりにも美しく哀しくもあり、客観的ではいられない。理屈ではないすばらしく特別な世界です」
11月5日には東京文化会館小ホールで録音した作品をメインに据えたリサイタルを行う。さらに2018年から27年の10年間を俯瞰し、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンをはじめさまざまな作品をプログラムに組むシリーズを予定している。その目は、すでに次なる10年を見据えているようだ。
「私は常にオープンかつフレッシュでいたいと願っていますが、今回のシューマンの録音で新たに作品と向き合うなか、自分がピュアな状態でいられることにうれしさを感じました。モーツァルトやベートーヴェンや古楽作品に関して、それぞれ専門家の先生方からいろんなことを教えていただき、演奏に反映させてきました、すべてが財産です。今後、演奏家としてどう歩むか、いまそれを真剣に考え、次なる40周年に向けて自分の在り方を探求しています。久しぶりにシューマンに戻ったことで、自分のなかでいろんな考えが芽生えました。ここから新たな地平に向けて進んでいきたいと思っています」
LIVE INFORMATION
<デビュー30周年プロジェクトⅡ>オール・シューマン・プログラム
○11/5(日)14:00開演 東京文化会館 小ホール【完売】
仲道郁代 ピアノ・フェスティヴァル~5台ピアノの響演 名手たちの60指、乱舞!~
○2018年3/16(金)19:00開演 東京芸術劇場
出演:上原彩子/小川典子/金子三勇士/清水和音/萩原麻未/仲道郁代