モノクロームの世界から現れた彼女は、その歌声だけで聴く者の耳を惹き、心を揺さぶり、優しく包み込んできた――そんな奇蹟の軌跡を封じ込めた待望のファースト・アルバム!
詞や曲を書くこと以上に〈歌〉が大事
やっとお届けできるなぁと思っています――2016年のメジャー・デビューから1年半あまり。5枚のシングルを経てきたなかで、豊かな感性を持った歌声をじわじわと多くのリスナーの耳に浸透させてきたUruが、ファースト・アルバム『モノクローム』を完成させた。
「シングルの曲はリリースした当時のこととかも思い返しながら、これまで作ってきた一曲一曲、アルバムに一枚一枚写真を貼っていくような感覚で聴き返しています」。
作品の充実感を物語るように、自然で朗らかな笑顔を見せながら話す彼女。全14曲で70分強。たくさんの音楽を聴き、たくさんの歌を歌い、たくさんの曲を書き――それだけでは到達し得ない魅力を持った彼女の歌声と共に過ごせる、これまでになく長く幸せなひととき……。
「曲に合った表情が付けられたらいいなって思いながらいつも歌っているんですけど、自分の経験とか知識のなかにあることや、ドラマの主題歌であれば原作を読ませていただいたときに感じたことだったりが自然と声に反映できたかなって思います。詞や曲を書くことも大事ですけど、歌がいちばん。それしかないっていうぐらい意識して」。
初出となる楽曲が4曲。まずは冒頭を飾る“追憶のふたり”。ミステリー作家、中村文則の原作を映画化した「悪と仮面のルール」の主題歌にもなっているミディアム・スロウのナンバーで、いつもにも増して色香の漂う歌声に息を呑まされる。
「本編を観させていただいてから作った曲だったので、想像がたくさん膨らんでいて、歌詞もそこまで根を詰めずに書けました。人間誰しもが持っている、だけどいつもフタをしているような部分を描いた作品だと思ったので、歌詞もちょっとミステリアスな感じを出しつつ、ラヴストーリーという映画の根本からはズレないようにと。〈あなたを愛した 確かな時間があったから どんな運命だって 許せてきたでしょう なのにこんなに胸が苦しいのは〉――儚さだったり切なさだったりを感じられるような歌い方を意識したので、“しあわせの詩”(4枚目のシングル)と比べていただくと、印象の違った感じが楽しめると思います」。
“鈍色の日”は、ファンタジアを湛えた美しいバラードで、優しくてどこか懐かしさを感じるメロディーは、ゆらゆらと揺れる水面に身体を浮かべているような感覚をもたらしてくれる。それは彼女の歌声だからこそ生み出せる佇まいでもあり。
「川口大輔さんが作ってくれた曲なんですが、デモをいただいて、私が仮歌を入れて送り返したときに、この曲をあまりゴチャゴチャしたものにはしたくないっておっしゃられて。歌詞もシンプルに、歌の良さを引き出したい、と。私の中では、砂壁に囲まれた四畳半の部屋、鬱々とした黒にも白にもならない空間で外をボーッと眺めつつ、物思いに耽っているっていうイメージだと伝えたんですけど、そのニュアンスをそのままアレンジに活かしていただけたんじゃないかと思います」。
明るいコード感の“fly”は、フォーク・タッチの清々しいナンバー。
「アルバムのなかではいちばん最近書いた歌詞です。背中を押すような歌詞ってなかなか書けなくて、でも、そばにいて〈わかるよ、そうだよね〉って言ってるような感じにはしたかったんです。悩みを打ち明けられても一緒に吊られて落ち込むのではなく、そばで寄り添ってるような……『ラチとらいおん』っていう絵本があるんですけど、これはそのライオンの目線になってる曲です。私自身が何かで落ち込むようなことがあったとき、そのときに自分を励ませるような曲にもしたくって」。
自分なりの色をもっと見つけていきたい
もう一曲、“アリアケノツキ”は、もう会うことができない人への思いを綴った、切なくも儚いバラード。ライヴでは毎回披露してきた、ファンの間ではすでに名曲と賞されている楽曲だ。これら4曲を含む14曲に加えて、『モノクローム』には〈おまけ〉というにはもったいないぐらいのボーナス・ディスクを添えた2タイプの初回盤が用意されている。ひとつは、シングル5曲のMVに加えて、デビュー後初のライヴとなった東京グローブ座公演からオリジナル楽曲8曲を抜粋したライヴ映像。そしてもうひとつは、Uruの原点となったカヴァー曲を収めたもの。デビュー以前に14万人以上の登録者数を集めていたYouTubeの公式チャンネルで、彼女はこれまでに100曲以上のカヴァーを聴かせてきたわけだが、そこでも取り上げていた中島みゆき“糸”をはじめとする7曲に、小田和正“たしかなこと”の新録カヴァーを加えた8曲が聴ける。
「ライヴのサポートや私の曲の作曲もしてくれているHidenoriさんに弾いてもらった曲もいっぱいあるんですけど、自分でピアノを弾いて、レコーディングをして、ミックスをしてっていう作業は久しぶりでしたので、YouTubeのときを思い出したりしながら。歌い直しはしているんですが、どちらが良いとかではない違いも楽しんでもらえると思います」
YouTubeでの映像はモノクロに統一され、顔もハッキリとは見せない、言わば歌声以外の情報を極力廃したものだったが、アルバム・タイトル『モノクローム』も、もちろんそこに繋がっている。
「タイトルを決めるときに〈これがUruです〉っていうのがわかるようなものにしたいなと思って、YouTubeではずっと白黒の世界にいましたし、そこが出発地点だったので、単色=モノクロ、それしかないなって。あとは、白黒の世界から飛び出していっていろんなことを経験させてもらってる、これからもっと自分なりの色を見つけていきますっていう意味も込められています」。
聴いた人が、各々の感性で色付けをしていく、温度を感じていく、そういった意味を付け加えてもいいだろう。存在は大きいが、Uruの歌声はいつも、包み込むように優しく寄り添ってくるものだから。本領発揮と言ってもいいアルバムでひとつの区切りをつけたこれからも、手に取った人たちとの素敵な関係はもっともっとたくさん生まれそうだ。
「これから……2018年はどんな感じになっていくんだろう?っていうのはありますね。ずっとアルバムの作業をしていたので、新しい曲を書く時間があまりなかったんですけど、まずは新しい曲を作りはじめようかなと思っています。そうですね、散歩しながらアイデアを膨らませて……外は寒いですけど」。