SALUの新作『COMEDY』は、彼のなかで生じた〈もがきと気付き〉が、ヴァラエティー豊かな楽曲群で表現された一枚だ。前作『In My Life』では自問と葛藤を繰り返す自身の心境を〈自分ではない誰か〉のように、どこか客観的に淡々と表現していたSALUだが、本作ではそれが主観的な表現に変わり、歌詞の一字一句に本人の意思と血が通ってきた印象を受ける。アルバムで最初に出来た曲は“BMS”。最後に出来た曲は“100th Monkey”。この2曲の間に〈もがき〉から〈気付き〉への変化があったという。
「“BMS”で〈誰も知らない真の自分がHello/ここから先は自分に任せろ〉と書いてるけど、自分ではあんまりよくわかってなかった。だけど、“100th Monkey”を書いたときに〈内から誰かがノックノック/岩戸を開く鍵はすぐそこ〉っていうフレーズが最初に出てきて。現状を打破したいとか、自分の殻を突き破りたいみたいな意識が潜在的にあって、無意識のうちにそれが言葉に現れてきたっていうことなんだと思いました」。
本作のテーマは、〈視点=アングル〉。「物事はひとつの方向からは決めつけられないっていうことを、どの曲も歌ってる」と語る。サウンドのトータル・プロデュースはBACHLOGICが務めているが、リード・トラックの“Goodtime”は、〈BACHLOGICがこんな曲を作るのか!?〉という意味でも話題になりそうな、爽快なこみ上げ系ポジティヴ・チューン。〈dビデオ powered by BeeTV〉のCMで自由奔放な女子を演じて注目された女優の小松菜奈らが出演したMVも、キャスティングとSFチックなストーリー展開の両方で反響を呼びそうだ。
「“Goodtime”を作ったくらいから、〈見る方向によって物事は変わる〉っていう部分の、逆の方向からの視点が加わりはじめて。マイナスにばかり捉えてた部分も反対側から見るとそうでもないってことを書いてるんです。試練は経験に変わるんだから、ずーっとラクなことしかない人生よりは、辛いことがあってもそれを笑い飛ばしちゃう感じでいようよっていう曲。それを女の子と過ごす時間になぞらえて書いてます」。
映画好きなSALUとあって、今回は「映画を結構意識して作った」とのこと。ヒューマン・ドラマやラヴコメ、SF、ホラーといった映画のカテゴリー名が浮かぶ曲もあるし、“Goodtime”には〈人生は映画〉という歌詞も出てくる。“Weekend”には映画のタイトルや俳優名が具体的に多出。物事は多面的だというモチーフを要約した重要曲“Sphere”に出てくる〈マシュー〉と〈ジミー〉は、あの名優が映画で演じた役名のことだ。
「サビで〈多面体〉って言ってるんですけど、まず自分にもいろんな面があると。で、その自分という存在は、広く多面的な宇宙のなかのひとつの面、もしくは点でしかないと思ったときに何も怖くなくなったんです。目に見えないだけで全員空気で繋がってるわけだし、世界は全部繋がってるなって。そう考えたときに“BMS”とか“Comedy”を書いたときにあった〈どっちの味方に付けばいいんだ?〉みたいな悩みが吹っ切れた。で、多面体の面をバーッと増やしていったら、最終的に球になるんじゃないかと思って“Sphere”としたんです」。
本作までは「(自問の)答えを出すまでのプロセスを書いてた」と振り返るSALU。では、本作を通じて伝えたいことは何なのか。
「〈幸せって何?〉って感じですね。〈僕の幸せはこれですよ。あなたの幸せはなんですか?〉って。伝えたかったというより、そう問い掛けたかったっていう感じですね、このアルバムは」。
▼SALUが客演した作品を一部紹介
左から、SEEDAの2011年作『瞬間 -IN THE MOMENT-』(ユニバーサル)、AKLOの2012年のシングル『HEAT OVER HERE REMIX』(One Year War/Manhattan/LEXINGTON)、NORIKIYOの2013年作『断片集』(諭吉レコード)
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