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世の中にない音を作ることは一種の美学、ロマン

――リード曲の“Bluemin’ Days” はYogeeがもともと持っていたブルーアイド・ソウル的な爽やかさを醸しつつ、さらに前へと進んで行くような力強さを持った曲になりましたね。

「想像した情景とそこに置く歌詞から音が派生して出来上がっていきます。最初の〈トゥルルル~〉というギターは、籠っていた洞窟から出てきたら、陽の光が指してヒュッと風が吹くイメージで、かつ優雅でウキウキしてドキドキするようなフレーズ。音作りに関しても、これがたとえばファズを使っていたらサイケデリックになっちゃうし、ちょっと違うんですよ。サイケな音になると、恥ずかしいながらも出した感情がまた引っ込んでしまう。今回はエンジニアが柏井(日向)さんに変わって、良い意味で悠長というか、余裕のある突っ込みすぎない音になった。その音の隙間に僕らが愛してやまないリヴァーブが染み渡る(笑)。いま思うと『WAVES』では、音を情熱と共に詰め込んでいたんですよね」

――その音の余裕みたいな話に絡めていうと、続く“Boyish”はブラジリアン・ポップス調のパーカッシヴなリズムですが、あくまで軽快。グルーヴィーなんだけどダンスが強制されていない感じです。

「なるほどー。それはめっちゃわかる気がする」

――いわゆるダンス・ロックでもなく、今様のブギーでもない。そういう音楽が時に持ってしまう〈ダンス圧〉がなくて、隙間があるのがすごく良いと思いました。

「もっとダンスを狙うなら、バスドラをブリブリに出しますよね。俺はみんなが思い思いに踊っているのが素晴らしいと思うし、お客さんには好きにしてほしいんですよ。泣こうが笑おうが、ウットリしようが激昂しようが、俺はすべて素晴らしい感情だと思うし、その自由さが音楽のいちばん素晴らしいところだと思うから。たとえば俺が〈おいで〉と言ったとき、来てくれるのも嬉しいし、〈ちょっとまだかも〉ってとどまってもぜんぜん良いし、どれもが素敵だなと思っています。それが曲にも出ているんですよね」

――自由度の高いグルーヴだったり、隙間のある音作りだったり、それは最初に角舘さんが言っていた、〈いま、ないがしろにされている〉ものを作りたいという視点の反映でもあるんじゃないですか?

「〈ないがしろにされている〉というワードもなんだかおこがましいっすよね。もうちょっと平たく言うと、〈そう思っている人がほかにもきっといるはずだ〉という感じかな。そうですね……いまない音を作るというのは、ミュージシャンなら誰しもがいちばん楽しむポイントですよね。くるりの“その線は水平線”、聴きました? ギターの音とか、もうヤバイですよね。俺たちには絶対に出せない。好きなミュージシャンがヤバい音を作ったときは、もう頭を抱えちゃいます。次、俺たちはどうしよう?って。でも、音楽を作っている時点で同じ目線にいるじゃないですか。みんなが、〈僕の大好きなソウルはこうあるべきだ〉とか、〈オルタナティヴとはこうである〉とか考えて鳴らしていて、それは昔聴いていた音楽に対する感謝や恩返しだと思う。それこそ世の中にない音を作るというのは、一種の美学――ロマン。そういうこだわりみたいなのが、俺はいちばん大事だと思うし、今作にもそういうものが香っていると嬉しい」

くるりの2018年のシングル“その線は水平線”
 

――録音物へのこだわりは、〈Sinking Time Version〉と付けられた“Summer Of Love”にも強く感じました。宅録的なローファイな音ですが、角舘さんの声やベースがすごく生々しくて。

「このヴァージョンは、Think=考えるとSink=沈み込むをかけていて、つまり落ち込んでいる状態ってことですね。これは俺が1人で録った音源なんですよ。『SPRING CAVE』というくらいだからケイヴで録ろうって、俺の部屋でテープレコーダーで録っているんですよ。最初から絶対にテープで録りたい!と思って自分でレコーダーを買ったんですけど速攻で壊れてしまって……。〈絶対に持っているだろう〉と思って曽我部(恵一)さんに連絡したら、やっぱり持っていて(笑)。曽我部さんからお借りしました」

――確かにこの曲を聴いたとき、曽我部さんっぽいなと感じました。で、最後には“Ride On Wave”のSweet Williamによるリミックスを収録して。Yogeeは前EPでもDorianがリミックスを手掛けていたし、リミックス文化への愛着を持っていますよね?

「前提として、俺はブレイクビーツやダンス・ミュージック自体がめちゃくちゃ好きなんですよ。SEでもずっとマッドリブを使っているし、LPを買うとなればなんだかんだでヒップホップやファンクを買うことが多い。そして、そういう側面からYogeeを見たいというのはアーティストの我儘としてあるんです。たとえばDorianさんとやったときは、バンドでの楽曲にはなかったセクシーさをDorianさんが引き出してくれて、まるで俺らにスーツ着せてくれて香水をふりかけてくれたような感覚だった。今回のSweet Williamさんに関しては、俺らってバンド・サウンドにエレピを入れたいと思うことが多いんだけど、彼が楽曲で使うエレピの音がすごく好きで、なんだか俺らの言いたいことをわかってくれている気がしたんですよ。今回は、彼のお気に入りのバーに連れて行ってくれた感じでしたね」

――DorianもSweet Williamもトラックメイカーでありつつ、どこか内省的でシンガーソングライター的な雰囲気のある作家だと思うんです。だから、角舘さんの歌と相性がいいのかなと思います。孤独を大事にしている者同士というか。

「そうだといいですね。孤独は好きです。みんなでいるときのことが楽しみになるというか。ずっと一緒にいすぎると麻痺しちゃうから。考え込むときは1人がいいですね」

――そうした孤独な経験から、世代や時代を越える可能性を持ったポップ・ソングが生まれるんじゃないですか?

「孤独であるがゆえのひとりよがりな状態のなかに、〈いまが成長段階なんだろうな〉というのが垣間見られたり、〈そこから吹っ切れたな〉とわかったり、そういう変化していく瞬間を俺はすごく美しいと思っています。それは人が成長した瞬間だし、冬から春に変わる瞬間とも似ていて、“Bluemin' Days”で歌いたいことのひとつでもあった。ブルーな気持ちから〈花束をあげよう〉と思うまでの過程。それって本当に美しいから」

――これまでのYogeeは結論が出ない状態とそこに息吹く可能性を歌い続けてきた。だからこそ、今EPでの〈花束をあげよう〉という意思表明は感動的でもあった。ただ、その花束を〈もらう〉かとうかは聴き手に委ねられている。

「選択する余地のあるものが好きですね。強制されたくなくて音楽やっているというのもあるし」

――そういうスタンスに共感できて、かつ理想的なモデルだと思えるバンドはいますか?

「そうだな……。俺はMr. Childrenだと思います。桜井(和寿)さんの心象風景と、時に出る男ならではの怒りがすごく人間らしいなと。ただ、あくまで桜井さんは〈Shall We?〉なんですよね。ライヴを観ていてもリードの仕方が上手だし、ジェントルというか〈行くぞオラー!〉じゃなくて〈Hey!〉や〈おいでよ!〉というニュアンス。あの感じが俺はすごく好きですね」

――なるほど。意外でいて、すごく納得できました。

「『深海』(96年)というアルバムを最初に聴いたときに〈怖い〉と思ったんですよ。先に“箒星”を聴いていたんですが、まさか“箒星”を歌っているバンドとは思えなくて。でも、それを出すじゃないですか。人間の感情がたくさんあることを肯定してくれる音楽って実はあんまりなくて、特に日本だと一つのバンドに一つの感情しか用意されてないような感じもするんですよ。俺はそれに対してはあまりYESとは言えないし、Yogeeは一つだけの感情を歌うバンドになりたくはないんですよ」

 


Live Information
〈Bluemin' Days TOUR 2018〉

3月21日(水)台湾 台北 THE WALL
共演:午夜乒乓
主催:Airhead Records
http://airheadrecords.tumblr.com/
3月22日(木)台湾 高雄 The Locals Inn 草舍
共演:午夜乒乓
主催:Airhead Records
http://airheadrecords.tumblr.com/
3月23日(金)中国 香港 Pearl Ballroom @Eaton Workshop
主催:White Noise Records
http://www.whitenoiserecords.org/
3月25日(日)タイ バンコク Voice Space
共演:The fin and more
主催:Seen Scene Space
https://www.facebook.com/SeenSceneSpace/
※以下ワンマン公演
3月30日(金)札幌 PENNY LANE24
4月1日(日)仙台 Darwin
4月7日(土)福岡 BEAT STAITON
4月8日(日)岡山 YEBISU YA PRO
4月12日(木)大阪 BIGCAT
4月14日(土)名古屋 ダイアモンドホール
4月20日(金)東京 新木場STUDIO COAST
4月30日(月・祝)沖縄 output

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