インタビュー

ようやく新しい野佐怜奈が始まった―恩人・松永天馬と語る、初カヴァー作『ENDLESS PARTY』

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なかじまはじめ(左端)とのスリーショット
 

いまの時代に足りないものは〈ズレ〉(松永)

――僕個人としては今回収録された楽曲やサウンドが青春ど真ん中だったので、パワー・ステーション的なドラム・フレーズが飛び出してきたりすると嬉しくて反応しまくっちゃいました。

なかじま「マッシュアップでいろいろとそういった小ネタを入れ込んでいるので、それを発見しつつ、ニヤニヤしながら聴いてほしいですね」

野佐「でもこのアルバム、アーバンギャルドと比べるとなんてオーガニックなサウンドなんだろうと思いますね」

松永「たしかにうちはかなりケミカルな音楽ですからね」

野佐「ケミカルな世界に、シャンソンを通過したよこたんのヴォーカルが入るとすごく輝くんですよね」

松永「実はアーバンギャルドの歌詞には自然がいっさい登場しないんですよ。人に指摘されて気付いたんですが、確かにそうだなと思って」

――ああ、なるほど。最新作『少女フィクション』を聴いても、人工美を賛美するような歌詞が多いですよね。

松永「〈花〉というフレーズが出てきてもどこか造花のような、プラスティックで出来たような花なんですよね。特に意識はしていないんですが、東京という街で生まれ育って、そういうところをバックグラウンドにしてきたからなのかなと。つまりずっとサブカルチャーな世界で生きてきたってことでしょうね。サブカルって都市文化ですから。そういう血筋なのかどうかわからないですけど」

アーバンギャルドの2018年作『少女フィクション』収録曲“あたしフィクション”
 

――野佐さんは、オーガニックなサウンドだという意識はあったんですか?

松永「無印良品の服とかどれぐらい持ってるんですか?」

野佐「あまり持ってないです(笑)」

松永「でも今回、生楽器をかなり使ってますよね。いまニューウェイヴ系のサウンドはほぼプログラミングで作られているなか、あえて生音をたくさん使っているところは印象的ですね」

野佐「実は、ほぼ生楽器なんですよ。今回アーバンギャルドのおおくぼけいくんにも3曲ほどキーボードを弾いてもらっているんですけど、すごく驚きました。音が派手!と」

松永「(おおくぼが演奏した)“ニュアンスしましょ”とか、完全に一風堂の“すみれSeptember Love”……」

なかじま「そんなふうに思ってもらえるのを狙ってたんです(笑)」

松永「文脈がいろいろ重なっているというか、1曲に何層ものレイヤーがかかっているような作りになっていますよね。オリジナル、サウンド的な元ネタ、2018年にそれを鳴らし聴かせる位相という部分を含め、幾つものスパイスがブレンドされている」

野佐「打ち込みじゃなくて生楽器を多用してって話に繋がるんですが、天馬さんとの“さいざんすマンボ”も最初のセリフ部分を別々に録ったこともあって、お互いのタイミングがバラバラなんですよ。でも、逆にそれがおもしろく感じられて」

松永「僕は、いまの時代に足りないものって〈ズレ〉だと常々感じていて。〈ズレ〉に対してみんな神経質になり過ぎてますよね。レコーディングでも〈ズレ〉をいくらでも編集できちゃうし、メロディーだってオートチューンをかけられちゃう。ライヴでなぜみんなあんなにノレるのかっていうと、〈ズレ〉の気持ち良さを味わえるからだと思うんです。そういう気持ち良さってやっぱり生楽器にしか出せないと思うし、そこを恐れなく反映させていることがオーガニックたる所以なんでしょうかね」

野佐「あ、きちんとまとめてくれた(笑)」

 

新しい野佐怜奈がようやく始まった(野佐)

――ちなみに、お二人は80年代のヒット曲にどんな魅力を感じていらっしゃいますか?

松永「90年代はシンガー・ソングライターが自身のアイデンティティを歌詞に反映させることが重要になっていくわけですが、80年代は名うての職人が書いた曲を新人シンガーが歌うという、日本の好景気が反映されたコラボ感というか、とても贅沢な、資本主義的なコラボレーションが成立していて。職人芸と若い力がマリアージュしたものが化粧品のCMソングとして華やかに使われたりしていて、歌謡曲がとても幸福だった時代ですよね。当時の歌謡曲のコンピなんかを聴いていても、全体的に多幸感で窒息死しそうになる(笑)。

YMOみたいなひねくれた大人が若手にたくさんいい曲を提供していたし、自身のバンドの“君に、胸キュン。”と提供した松田聖子の“天国のキッス”(細野晴臣が作編曲)が同時期にチャートの首位を争ったりしていて。そういった楽曲制作にまつわる〈幸せな結婚〉を、現代的にリニューアルしてみせたのが今回の『ENDLESS PARTY』かなと思いますね」

野佐「80年代は過去と未来が激しく交錯した時代だったんじゃないかと思っていて、今回カヴァーした“ROBOT”のようなテクノ歌謡とか、それまで生バンドでしか作れなかったサウンドに電子音楽と融合した魅力的な音楽が生まれたのかなって」

『ENDLESS PARTY』収録曲、榊原郁恵の80年のシングルのカヴァーである“ROBOT”。ビデオには松永が友情出演
 

松永「歌謡曲にニューウェイヴ的な電子音楽の要素が入ってきたってことですね。テクノ歌謡もそうですが、打ち込みかと思ったら手弾きの生音だったりすることが当時の曲には多い」

野佐「そういう絶妙な音のバランスは今作で出せた気がしています」

なかじま「〈ニューウェイヴ〉って新しいことをやるってことじゃないですか? 今回も、何かと何かをかけ合わせて新しいものを作れたらということで、野佐怜奈に“さいざんすマンボ”をぶつけてみたらこんな不思議なものができた。そういう意味でこれはニューウェイヴじゃないかと思うんです」

松永「ミスマッチによる新しさ。80年代でいえばいちご大福みたいな」

※昭和後期に考案され、80年代に「ザ・ベストテン」で司会の黒柳徹子が紹介したとの情報がある

なかじま「そうそう。だから実験みたいなもので、ぶっちゃけ完成形がどうなるのか、出来上がるまでわからなかったです」

――計算を超えたところに生まれるものを求めて作業を進めていったと。

なかじま「計算はなかったですね。おもしろくなるかも、という直感に従いながら進めていきました。だからやってみないとわからないところもあったし、やりながらどんどん変わっていったんだけど……失敗はなかったですよね?」

――いやいやいや、バッチリ成功していると思いますよ。ところでニューウェイヴに向かったきっかけはなんだったんですか?

野佐「Gucciさんがニューウェイヴのイヴェントをやられているんですが、ブルーヴァレンタインズの活動が終わった後のライヴ・メンバーだったなかじまさんとベースの勝原大策さんとの3人で、〈野佐怜奈とリズムキングス〉としてイヴェントに出なよって言ってくださって。それがきっかけですね」

※野佐怜奈作品のトータル・コーディネイトを務める山口“Gucci”佳宏

――今作はこれまでの一連の流れの区切りでもあると言えるわけですか。

野佐「区切りでもあるし、ここから新しい野佐怜奈がようやく始まったって感じもしていて」

松永「野佐怜奈・第2章ですね!っていうとEXILEみたいですが(笑)」

野佐「いままでは歌が歌えたらそれだけで幸せだったんです。でも、今作の制作を通して、作品を作り上げる幸せや、自分は歌手なんだということを改めて感じられたんです。それは、なかじまさんが引き合わせてくださったミュージシャンの方など、私を良いと思ってくださる方々とのいい出会いの連鎖によって実感できたところがあって。だから『ENDLESS PARTY』はすごくあったかいアルバムなんですよね」

――キーワードはハートフル&オーガニックだったんですね。

野佐「ああ、そのことにいま気が付きました(笑)。実を言うと、天馬さんも私にとって恩人なんですよ。人づてで私の歌をすごく褒めてくれていると聞いていたんです。もったいない、というようなことを言ってくれていると。悩んでいる時期もたくさんあったけど、天馬さんがそういうことを言ってくれているのなら頑張らなきゃって思ってたところがあるんです。天馬さんのプロデューサー的な目ってすごく鋭いし。だから私、本当はずっと相談したかったんです(笑)」

松永「そうやって人を騙す、悪い男なんですよ!!(笑)」

野佐「(笑)。でもまぁ、今回こういう形でお話ができるとは。ありがとうございます」

――こうやって相談ができる仲にもなったことだし、両者のコラボレーションはこれから先もいろいろ続いていくのかなぁ、なんて期待しちゃいますが。

松永「今後も歌詞提供はぜひさせていただきたいし、野佐さんはもっといろんな人を巻き込んでいくのがいいんじゃないかなって思いますね。歌の力でいろんな人を巻き込みながら世界を広げて、時々深夜のツイートで炎上すると(笑)」

――今回初めてじっくりお話してみて、もっと互いに秘密を暴きたいと思ったりもするんじゃないですか?

野佐「もっと暴きたいですね。でもこの距離感がいいのかもって気もするかな」

松永「僕もそう思いますね。基本的に曲提供をする場合は、その相手にオーダーメイドをする気持ちで作っているんですね。例えば相手が好きなものを想像したり、相手のことをググったりSNSを隅から隅まで読んだ上で書いていて……いわばストーカーみたいなものです(笑)。妄想を膨らませながら片思いをするってことですよね。その片思い力をキープするために、野佐さんともできるだけ接しないようにしたいと思います。だから極力話したくないですね!!」

野佐「なかなか縮まらないですね……(笑)」

 


Live Information

■野佐怜奈
アルバム・リリース・パーティー Endless Party Night!!

2018年6月14日(木)東京・西麻布 新世界
開場/開演:19:30/20:00
チケット(1ドリンク代別途500円):前売3,000円/当日3,500円
※松永天馬も出演します!

★上記、そのほか野佐怜奈のイヴェント情報はこちら

■松永天馬
松永天馬主催「松永天馬対川本真琴」

2018年6月24日(日)東京・四谷アウトブレイク
開場/開演:17:00/17:30
チケット:前売4,300円/当日4,800(+1ドリンク代)
出演:松永天馬、みちこ(川本真琴+豊田道倫)
ゲスト:いまみちともたか

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