【ハマ・オカモトの自由時間 ~2nd Season~】第1回 JAPAN 『Oil On Canvas』
ハマ・オカモト先生が聴き倒しているソウル~ファンクを自由に紹介する連載がMikikiにお引越ししてリニューアル・スタート!
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- 2014.06.18
【今回の課題盤】

――ということで、今回は、ジャパン。
「え……いいんですか、いきなり入って? 〈リニューアル一発目ってことで……〉みたいな導入はいらないんですか(笑)?」
――あ、そうか(笑)。
「(笑)」
――では仕切り直しまして、ご挨拶をお願いします!
「だいぶピンポイントな層の方々にとっては悲報だったというbounceの連載〈ハマ・オカモトの自由時間〉が終了しまして、ちょっとした潜伏期間を経てMikikiで戻ってまいりました。これまでは〈先生〉っぽい目線でやっていましたが、〈2nd Season〉では若干構成も変えて……」
――そうですね、bounceではスペースの都合もあってハマくんの一人語りスタイルでお届けしてたんですけど、Mikikiではもうちょっとハマくんの語り口も良い感じで載せられるといいなと思いまして、僭越ながら〈合いの手〉担当がしゃしゃり出させていただくことになりました。
「はい。今後は動画も交えて紹介していくので、より読みやすくてわかりやすい感じになるかなと」
――よろしくお願いします!
「引き続きブラック・ミュージックを紹介していくというテーマは変わりませんが、とはいえ僕もそればかり聴いているわけではないので、たまには寄り道してもいいかなと思っています――ということでリニューアル一発目は……ジャパン。最初から寄り道してる感じですが(笑)、これはニューウェイヴというカテゴリーに入るんですかね?」
――そうですね……大きくニューウェイヴで括られますよね。70年代半ばから80年代の初頭にかけて活動していたイギリスのバンドです。
「それで今回は、ジャパンの解散ツアー(82年)のライヴ音源を収めた『Oil On Canvas』というアルバムを紹介しようかと」
――ジャパンといえば単純にもう……デヴィッド・シルヴィアンが……。
「ヴォーカルの。坂本龍一さんとのコラボレーションなども有名ですしね。僕初めて見た時〈汚ない髪だな~〉と思って(笑)」
――ハハハ。
「髪が蝉の腹みたいになってるし、パサパサだし」
――蝉の腹?

ニューウェイヴィーなモードからのミック・カーン
「ジャパンにはミック・カーンというベーシストがいまして。ちょっとマニアックなことを言うと、フレットレス・ベースを使う人なんですね。一般的に、皆さんがよく見ているものは〈フレッテッド〉と呼ばれていて、フレットとは〈正確〉という意味なんですけど、正確な音程が取れるように銀の棒がネックに打ち込んであるベースです。つまりフレットレス・ベースはその棒がないもの。ウッド・ベースも同じくフレットレスで、ウッド・ベースとかなり感覚が近いエレキ・ベースのことです」
――やっぱりフレッテッドのものより弾くのは難しいんですか?
「そうですね、指のちょっとした角度だけでシャープかフラットか分かれてしまう。かといって、フレットレスを使っている人がみんなピッチがいいかというとそうでもなくて、ロン・カーターっていう有名なウッド・ベースの奏者がいるんですけど、その人はすごくピッチが悪い。でもそれがカッコ良かったりしますね」
――ふーん。
「で、ジャパンのミック・カーンがそんなフレットレス奏者のなかでもヤバイという話は、中学生くらいの頃から聞いていたんですけど、何となくまだ(聴くのは)早いんじゃないかなという感じがしていて……あるじゃないですか、名前は知ってるけど聴いたことないもの。すっげえイイって言われてるけど、実は聴いたことないんだよね、ということ」
――あー、ありますね。聴いた気になってる感じのとか。
「実は僕、U2をあまり聴いたことないんですよね。あとオアシスなんかもそうですね」
――いいんじゃないでしょうか、あえて聴かなくても(笑)。
「ハハハ。まだあるんですよ……何だっけ、まあいいや。で、ちょっと前に邦題が〈錻力(ぶりき)の太鼓〉っていうジャパンのアルバムを買って」
――81年の5作目かつラスト・アルバムの『Tin Drum』ですね。やっと聴く気になった感じだ。
「そうです、そうです。4月にOKAMOTO’Sのツアーが終わって、自分の新しい方向性を考えた時に、何かを見て刺激を受けるっていうこともなかなかなくなったなと思ったんですよね。それで、最近自分のなかでちょっと〈ニューウェイヴ感〉があって、格好や髪形で」
――んー、なるほど、ハマくんの最近の衣装とか。
「そうそう。そんなタイミングで、3年前に初めてベース・マガジンの表紙を何人かの方たちと合同でやらせてもらった号がちょうどミック・カーンの追悼(2011年逝去)特集だったことを思い出したんですよ。で、その掲載誌を引っ張り出して読んでみて、おもしろいなと思ったのがこの『Tin Drum』で」
――ニューウェイヴィーなモードだなというところから、ふとミック・カーンが浮上してきたわけですね。
「そう。フレットレス・エレキ・ベース奏者のなかでは世界でいちばん有名なのはジャコ・パストリアス(ソロのほか、ウェザー・リポートでの活動も知られるジャズ/フュージョンのベーシスト)ですけど、僕個人的にはそんなに好きじゃなくて。すごいプレイヤーだとは思うんですよ、でも音楽的に心をくすぐられないんですよね、まだ。〈まだ〉ね。そんなジャコの対向にいるのがミック・カーンかなと」
――へー。
「まずその『Tin Drum』の“Visions Of China”という曲でヤラれまして」
「このベースの音のデカさ!」
――おもしろい音ですね。
「そうそう、この人の音はフレットレスのなかでもだいぶおもしろい。あと“Swing”っていう曲の映像も観てほしいんですけど」
「これはTV番組に出演したときの映像で、冒頭からもうカッコイイですよね、すごい斬新」
――この佇まいが。
「うん。それにミックのフレーズがめちゃめちゃヘンなんですよね~。16ビートを感じる。〈裏〉を感じるんですね。とにかくそれがすっごくカッコイイと思って。これは絶対何かあると思って調べたら、ジャパンの初期はソウル/ファンク/パンクを上手いこと採り入れて自分のものにしようとしている感じだったみたいなんですよ」
「そんな初期を経て、『Tin Drum』でその形が確立された感じなのでしょうか。個人的には、当時のいわゆるニューウェイヴのバンドを聴いてもあんまりパッとしないのですが、ジャパンに惹かれたのはそのルーツを感じたからなんですよね。なかでもミック・カーンのベースが好みだったと。プレイも良いですが、ステージ・アクションがおもしろいというところも含めて……。ミック・カーンはよく〈蟹歩き〉をすると言われていまして」
――蟹ですか。
「蟹です。それがはっきりわかる衝撃の映像をご覧ください。“Gentlemen Take Polaroids”というジャパンの代表曲で、この『Oil On Canvas』に収録されている音源が使われている映像です」
――(3分10秒くらいで)えー! どういうこと?
「いやもう横に動いてるんですよ。上半身をまったく動かさずに」
――ハハハハハハハ……(笑)。
「これにヤラれちゃって。とにかくこの時代特有の〈ツクツクタカツク〉っていうリズムに対して、裏の、すごく歌を邪魔するヘンなベースを弾きながら、蟹歩き」
抜きの美学
「あと、実はこのラスト・ツアーには土屋昌巳さんがサポート・ギターで入られていたんですが、そこで物凄くズルい土屋さんのソロが捉えられた映像がありますので、そちらもご覧ください。“Methods Of Dance”、これもこのライヴ盤に収録されているものです」
「(3分30秒過ぎくらい)土屋昌巳さん、〈弾かない〉というパフォーマンスです(笑)」
――ハハハハハハハハ(爆笑)!
「弾かないというか、〈静止〉ですね(笑)」
――最初にちょっとした舞いを披露してからの静止(笑)。
「しかもめちゃめちゃ尺が長い。で、〈何か問題ありました?〉と言わんばかりに元の位置に戻る!」
――アハハハハハ! 何事もなかったかのように(笑)。
「きっとこの2つの映像にグッときちゃうと思いますが(笑)、やっぱりさっきも言った通り、ソウル/ファンクに通じるバンドのルーツが見える演奏、ミック・カーンの〈裏〉を感じるプレイや、シンセの感じ、そのへんに僕はグッとくるんですよ。ミック・カーン、久しぶりにイイ!と思った。弾くフレーズも常人が考えるものじゃないですよ、これは。ジャパンはこの人がいないと絶対つまらなかった。存在感がスゴイ」
――やっぱり初期のアルバムも併せて聴くと、ハマくんがイイ!っていうのもジワジワと理解できますね。
「すごく〈ファンキー〉なんですよね。この『Oil On Canvas』に収録されているのは代表曲ばっかりですし、手に取りやすいと思うのでぜひ。ちなみにミック・カーンは、2000年代に入ってビビアン・スーさんと屋敷豪太さん、佐久間正英さん、土屋昌巳さんとでthe d.e.pというバンドを組んでたんですよ」
「普通にTVにも出てますからね。ここで使ってるベースもジャパンで使用していた〈ウォル〉というメーカーのものです。ここでもちょっと蟹ってます(笑)」
――フフフ……蟹。
「実は、ZAZEN BOYSのベースの吉田一郎さんはミック・カーンにいちばん影響を受けたそうです」
――ZAZEN BOYSもニューウェイヴな要素を持ったバンドですよね。
「そうですよね。すごいバキバキなんですけど、“Weekend”あたりでわかる一郎さんの〈抜く〉感じはミックと通じるものがあります。〈抜きの美学〉というか」
――なるほど、確かに!
「ということで、今回はこんな感じで。bounce期に紹介できなかったものもたくさんあるので、今後はそういうものもどんどん出していきたいと思います。ではまた来月!」
ハマ・オカモト
OKAMOTO'Sのヒゲメガネなベーシスト。最新作『Let It V』(ARIOLA JAPAN)も大好評のなか、この夏は〈ROCK IN JAPAN〉をはじめ、フェスへの出演が多く予定されています。そして8月27日には奥田民生やRIP SLYMEらを招いたコラボ・アルバム『VXV』をリリース! それに続き、9月からは初の日比谷野音公演を含む全国ツアーがスタートします。またハマ単独では、星野源の最新シングル『Crazy Crazy/桜の森』収録曲“Crazy Crazy”“Night Troop”に参加。そのほか最新情報は、OKAMOTO'SのオフィシャルサイトへGo!