冨田恵一の考える〈現代ジャズ〉とは?
話題のT.O.C BANDが〈TOKYO LAB2018〉出演決定!

 あなたは、〈T.O.C BAND〉というプロジェクトをご存知だろうか? 2020年に開催される東京オリンピックのセレモニーへ出演を目指して結成されたバンドである。オリンピックで演奏なんて……、そんな楽観的で無謀にも聞こえる話は、巷に蠢く有象無象のようだし、きっと誰も真に受けないに違いない。しかし、その中核を担うアーティストが日本を代表する作/編曲家にして、〈ポップマエストロ〉の称号を戴く冨田恵一氏なら、話は別。しかもこのバンド、昨年6月に『TOKYO LAB 2017 beyond JAZZ, beyond NEXT!!〉と銘打ったイヴェントにてすでに初演され、この6月29日にはその第2弾なる同イヴェントに出演するのだ。

 このプロジェクトが注目に値する理由が2つある。ひとつは、冨田氏がこの日演奏する楽曲をこのバンドのためだけに書き下ろすということ。昨年は20分に亘る組曲を上梓し、バンド・メンバーと壮大なラージ・アンサンブルを作り上げた。そして2つめはそのメンバー達。現在の日本のジャズ・シーンにおいて、それぞれが重要な位置を占める若手ミュージシャンを贅沢にも9人招聘している点にある。彼らと一緒に冨田氏は何を企み、我々に何を示そうとしているのか?

 「去年のライヴの当日はね、演奏しながら、えらいお客さん盛り上がってるな、と安堵はしたの。展開とかつなぎ部分ではちゃんと反応してくれて。演奏中は結構やることがあって、そんなにはお客さんを見てないんだけど(笑)」と微笑みながら、初の試みを振り返る。

 「去年は20分の組曲1曲というステージで、個人的に興味のあったジャズ系の音楽やメンバーの個性を踏まえて、〈大きなオーディエンス〉にも向けられるような曲を作ろうって。ちょっとショーケース的なね。それで組曲というかメドレー的なものになったの」

 そして、それらを演奏するメンバーはいつものスタジオ系ではなく、新進気鋭の若手ジャズメン達。共演しての感想はどうだったのだろうか?

 「心配までいかないけど、どんな感じになるのかな?とは思ってた。ジャズの人達とはやったことあるけど、今回は世代も違うし、リハーサルも十分な時間が用意できなかったので…。でもイマドキのジャズメンはそんなにジャズだけをやっているわけではないし、僕の曲、スタイルを踏まえて現場に臨んでくれた人が割と多かったから、少ないリハだったけど、なかなかエキサイティングな演奏になったかな。あと、上手いのが当たり前って言われている中でも、個性を確立しつつあるプレイヤーが多いよね。“この人はこんな感じ”とか、一緒にやってるとだんだん分かってくる。まぁ、まだ1回しかやってないけど(笑)」

 このような大人数の、しかもジャズメン達を率いて、自作曲をジャズとして提示することを冨田氏はどう考えているかを質問すると、こんな答えが帰ってきた。

 「現代のジャズって20世紀にジャズと呼ばれていたものとは全然違いますから。最近のジャズって〈この辺まで含まれるよ〉っていうのがもう定着したとは思うんですよ。だから、〈今のジャズっぽいことをやればいいよね!〉っていう段階はとっくに過ぎていると思ってて……。現代のジャズなんだけど、ポピュラーになり得る要素。そのエッセンスに僕は感動するわけで、そこを抽出したいんだよね。その中でも僕がやるからには〈ポップネス〉ということを考えてしまう」

 きっとこの〈ポップネス〉こそが、冨田流ジャズの原泉であり、前述の「大きなオーディエンスに向けた」という言葉とも一致する。ジャズという言葉が広義化し、曖昧になっている中で、氏が手がける意味はやはりこの言葉に集約されるだろう。

 最後に、気になる新曲について(昨年と今年の楽曲的な進化、変化など)聴きどころを問うと、「いや、まだ曲書いてなくて……(笑)。とりあえず、色んな要素が詰まった組曲が2曲になってもちょっと困るので、皆に均等に見せ場があるような曲にしようかな。今話しながら、〈そうか、そういう曲を書かないといけないのか〉と思ってますけどね(笑)。あとね、去年すごくかっこいいSE 16小節分、プログラムがずれてて出せなかったの。今年はちゃんと出せるようにしますから(笑)」

 イヴェント開催まで1ヶ月を切った時期。プロデューサーの心配をよそに、最後までお茶目(=ポップ)なオジサマ(=マエストロ)は、笑顔で答えてくれた。

 今年の〈TOKYO LAB 2018 beyond JAZZ, beyond NEXT!!〉で、〈ポップネス溢れる冨田流現代ジャズ〉をぜひ体感して欲しい。

 


冨田恵一 (Keiichi Tomita)
音楽家、プロデューサー、作曲家、編曲家、Mixエンジニア、マルチプレイヤー(ドラム、ベース、ギター、鍵盤)。セルフプロジェクトの冨田ラボとして今までに5枚のアルバムを発表。最新作『SUPERFINE』は、次世代アーティストと呼ばれる今を輝く若き才能たちと共に新たなポップスの頂きを目指したフレッシュな1枚。キリンジ、MISIA、椎名林檎 ほか数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供する音楽プロデューサー。音楽業界を中心に耳の肥えた音楽ファンに圧倒的な支持を得るポップス界のマエストロ。 www.tomitalab.com/

 


LIVE INFORMATION
SHIBUYA CLUB QUATTRO 30th ANNIVERSARY
“QUATTRO STANDARDS” presentsTOKYO LAB 2018

2018年6月29日(金)東京 渋谷 CLUB QUATTRO
開場/開演:18:00/19:00

 


T.O.C BAND 写真=フジイサワコ

T.O.C BAND Feat. 冨田恵一(冨田ラボ)
冨田恵一(key)井上銘(g)角田隆太(b)石若駿(ds)松下マサナオ(ds)江﨑文武(key) 類家心平(tp)安藤康平(sax)滝本尚久(tb)竹嶋聡(sax)

 


井上銘、西田修大

MAY INOUE×SHUTA NISHIDA presents MEETZ TWELVE
井上銘(g)西田修大(g, electronics)千葉広樹(b)石若駿(ds)

 


角田隆太

Tsunochin's Optimiscape
角田隆太(b, synth)井上銘(g)木村紘(ds)安藤康平(sax/MELRAW)

 


石若駿

Song Book Project
石若駿(p)角銅真美(voice, p, perc.)西田修大(g)小田朋美(key)

 


MELRAW

MELRAW
Kohei Ando (sax,vo,etc) Yuma Hara (g) Akinori Handa (key) Kazuki Arai (bs from KING GNU) Wataru Tanaka (ds) Sara Yoshida (from MONONKUL)

 

www.tokyolab.tokyo
www.creativeman.co.jp/event/tokyolab2018/