CRCK/LCKSが新EP『Double Rift』をリリースした。

昨夏リリースの前EP『Lighter』以降も〈SUMMER SONIC 2017〉への出演やNegiccoのバックバンドを務めるなど、快進撃を続けるCRCK/LCKS。また、ヴォーカル/キーボードの小田朋美はceroのサポートやSPANK HAPPYの新・歌姫としても注目を集め、ドラムスの石若駿はKID FRESINOや(かねてより大ファンを公言していた)くるりに参加、リーダーの小西遼はあっこゴリラ・バンドや韻シストをサポートするなど、ポップス界のキーパーソン的な存在感を放つメンバーも多数。ジャズやクラシックを出自とする実力派が集結した〈スーパー・ミュージシャンによるスーパー・バンド〉……と言うよりは、〈ポップ・バンド〉として大きく飛躍した一年だったと言えそうだ。

そんな中リリースされた『Double Rift』は、〈スーパー・バンド〉たり得るテクニカルな演奏と表現力を増した小田の歌声を最大限生かしながらも、より軽やかな聴き心地となったクラクラ流ポップスを7曲収録。一部の楽曲で俳人の佐藤文香、詩人の文月悠光による詩を歌詞として使用するなど新たな試みもあるなかで、常にチャレンジングな姿勢で進化してきたCRCK/LCKSサウンドを更新しており、リリース直後7月15日に行われたレコ発ライヴも満員御礼で終了したばかりだ(レポートも後日掲載予定)。

Mikikiでは活動初期から彼らの動向をレポートしてきたが、今回もリリースを控えたある日に取材の機会を得、小田と小西へのインタヴューを実施。インタヴュアーはWEBメディア・BuzzFeed Japan所属のライターである嘉島唯が担当した。とあるイヴェントのためだけに結成されたはずだったバンドは彼らにとって〈遅れてきた青春〉であり、この後のインタヴューで小西が〈ホームである〉と言うまでに、今や各メンバーがそれぞれの活動のなかで重きを置く場所となった。そんなCRCK/LCKSならではのバンドのあり方とポップスへの想いを、音楽を含むカルチャーや社会について考え執筆してきた嘉島ならではの視点で迫った。 *Mikiki編集部

CRCK/LCKS 『Double Rift』 APOLLO SOUNDS(2018)

 

〈バンド〉と聞くと、どんなイメージを持つだろうか? 一蓮托生のような強固な繋がりで音楽を作る様が描かれたマンガが流行ったのも久しいが、CRCK/LCKSはそんな一般的なバンドのイメージを覆す成り立ちをしている。

全員が各々別の活動もしているのだ。みずからリーダーを務めるバンドを率いる者もいれば、ソロ活動したり、バックバンドを務めたりもする。それぞれがバラバラな活動をしていると、バンドとしての活動はどうなるのだろうか? 音楽性の違いも見えてきそうだ。

「バラバラだからよかった」。

ヴォーカルを務める小田朋美と、リーダーの小西遼は言う。取材現場で顔を合わせると、小西は開口一番「最近、クラクラ以外の仕事はどう?」と訊く。小田は「最近はceroのツアーで忙しくて」と答える。CRCK/LCKSという同じ屋根の下にいながら、2人の雑談には、他のバンドの名前が自然と出てくる。

そんな、一見バラバラに見える彼らは、7月11日にニューEP『Double Rift』をリリースしたばかりだ。結成から3年、3枚目の作品になる。小西曰く、「今までで一番制作時間がかかった」。互いに別でも仕事を持つ彼らは、一体どうやって〈バンド〉であり続けるのだろう?


 

(左から)小田朋美、小西遼
取材協力:浅草橋天才算数塾

深夜のLINEではじまる曲作り

――単刀直入に、それぞれに忙しい状況でどうやって曲を作るのでしょうか?

小西遼(サックスなど)「昔だったらビールを持ってオダトモの家に行ったり、2人でスタジオに入って暗くなってから終電までの間に曲を作っていました。でも、最近はお互い仕事をしてるからそれが終わった後、深夜帯になってから曲を作りはじめます。今作からは曲の作り方も変わりました」

小田朋美(ヴォーカル/キーボード)「コンピューターの導入によってね(笑)」

小西「俺がPCを新調して、DAWを導入したんですよ。それで、コーライティングするようになりました。会わなくても遠隔で一緒に作業する、みたいな」

小田「いつも小西がCRCK/LCKS(以下、クラクラ)のグループLINEでアイデアを送ってくるんですよ。焦っているのか、10個くらいの案を一気に」

小西「〈作らないとやばい……! みんなで考えようぜ!〉っていうテンションでLINEを送るんですけど、ほとんど既読無視されますね(笑)」

小田「誰も返さないから……送ってもスタンプくらい? かわいそうだなと思って、私が返すんです(笑)」

小西「とにかく案をいっぱい送って、そのうちの1〜2個が採用される。俺がベーシックを作ったらオダトモがメロディーを作って打ち返してくれるんですよ」

小田「寝る前にグループLINEを見直して、小西が送ってくれていた曲を全部聴くんですけど、その中でいくつか〈これはいけるかもしれない〉と思うものがあったりするんです。正直、すっごく眠たいし、寝たい。でも、今しかできないと思って、そのまま一人でスタジオに入って歌を入れて送ってみるんです。そうすると、小西からすぐ〈めっちゃいい〉って返事が来るんですよ」

小西「それで、その場で俺がハモをつけたのを送るんです」

小田「送った時点で〈流石にもう寝よう!〉って思うんですけど、すぐに返事が来るから、次に歌詞を送って……」

小西「夜中の1時くらいから作りはじめて、朝の7時に完成、みたいな。それで出来たのが今作の“No Goodbye”という曲なんです」

――そういえば、ファーストEP『CRCK/LCKS』(2016年)でも、クラクラの代表曲とも言える“Goodbye Girl”という曲がありますよね。“No Goodbye”はそのアンサー・ソングというか、対になっているのですか?

小田「いえ、そうではないです。ただ、思えばいつも私〈Goodbye〉って言ってるんですよね。“Goodbye Girl”から始まって、2枚目の『Lighter』に入っている“Get Lighter”の歌詞でも〈Goodbye〉と言ってて。自分のソロ・アルバムも『グッバイブルー』(2017年)だし。〈私、『Goodbye』って言うことに対して執着があるのかしら?〉って思ってます」

小西「“No Goodbye”に〈さよならなんていらない〉という歌詞があるんですよ。だから俺としては〈(小田は)グッバイはもういいっていうことなんじゃないかな〉と思って、タイトル案で〈No Goodbye〉と提案したんです。次を作ってみないとわからないけど、この〈Goodbye〉の流れは一旦打ち止めかなと俺は思っていますね。“Goodbye Girl”のアンサー・ソングではないけど、“No Goodbye”はライヴの序盤戦でやるようなクラクラっぽい曲になったと思う」

――Goodbye期終了。

小西「そうそう。Goodbye三部作かもしれない。結成から3年経つし、初期Goodbye三部作(笑)。今後中期Goodbye三部作ができるかもしれないけど(笑)」