ロック、いや、ポップミュージックの在り方すら変えてしまったかもしれない、レディオヘッドの金字塔的傑作にして壮大な実験作『Kid A』(2000年)と『Amnesiac』(2001年)。リリースから20年が経った2021年、双子の関係にある両作がひとつの作品になり、未発表曲などを多数加えた『Kid A Mnesia』としてよみがえった。これを記念して、Mikikiはアーティストや表現者たちに依頼をし、〈レディオヘッド『Kid A Mnesia』と私〉というテーマで2作についての思いを綴ってもらった。それぞれの『Kid A Mnesia』観を楽しんでいただければと思う。 *Mikiki編集部
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レディオヘッド『Kid A Mnesia』と小西遼(CRCK/LCKS/象眠舎)
僕にとって最初のレディオヘッドとの出会いは大学のとき。
その頃、僕は音楽大学に通っていて、毎日楽器を練習したり、バンド練習をしたりした後は友達の家を転々としながら朝まで飲み歩いていた。
そんななかで、ある先輩は膨大な量のCDを家に蓄えていて、どんな音楽のジャンルであっても名盤とされるものは全て持っていた。そこでの飲み会の最中に、『OK Computer』と、『Kid A』のどちらが名盤か、みたいな話になっている時、僕が〈レディオヘッドってなんですか〉と言ったものだから、その場は騒然としてしまって、先輩が『Kid A』をかけてくれたのだとと思う。なんだよ名盤って、人に薦められた音楽なんて聴けるか、自分で見つけたいんだよ、自分の好きな音楽は、などと思ったのも覚えている。というかその頃の自分は大分生意気だったので、常にそんな感じではあったが。
ただ、聴いた瞬間、なにやら寂しい音楽だな、と感じた。
しかしそれは悲しかったり、物足りない寂しさがあったりしたわけではなかった。今思い返して言葉にするならば〈孤独を理解してくれている〉ような寂しさであった。孤独に寄り添うような寂しさではなくて、なあ、俺たちはどこか孤独なままだよな、と言っているような。
それからすぐに、レディオヘッドをあちこちで見かけるようになった。僕の大好きなピアニストのブラッド・メルドーが“Knives Out”をカバーしたり、ロバート・グラスパーが“Everything In Its Right Place”をカバーしたりしていたのだ。そこから〈孤独の音楽〉だったレディオヘッドの印象は、複雑な構造を持ち音楽的なアイデアに富んだバンドへと変わり、歌や歌詞の印象から楽器の音やその音列に更なる興味が深まっていった。メロディー、リズム、どれをとっても素材として色褪せることがない。どこか不思議で、でも心に刺さってくる寂しげな音楽。
その後、挾間美帆との共同ビッグバンド企画〈Com⇔Positions〉においてビヨークの”I’ve Seen It All”をアレンジするにあたって、映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」版は違うもののアルバム版に参加して共演関係にあったトム・ヨークを面白がって、アレンジに“Everything In Its Right Place”をマッシュアップしたり、〈FUJI ROCK〉でトムのソロを観たりはしたものの、レディオヘッドの盤からは少し距離を置いていたように思う。
しかし今回Mikiki編集部からの話をお受けして、この『Kid A Mnesia』を再訪してみると(ライナーノーツにはただの〈revisit〉ではないと明記してあるものの(笑))、その音楽の先進性、孤高性の高さに唖然とした。音色の配置、言葉の置き方、対となるアルバムの中にあるバンド性という矛盾、その全てが長い年月を経ても尚高く聳え立つ北欧の針葉樹林のような歴然たる完成度と寂寥感を湛えている。胸に迫るその作品としての強さに、なるほどこれが〈名盤〉かと納得した。
決してシンプルとは言えない構造性やアイデアを内包してはいるものの、一聴した瞬間に心に深く刺さってくる印象的な音色、バンドアレンジ、その上で気持ちよく揺蕩う言葉と旋律。セッションで作られているような勢いやリラックス感もあるのと同時に、聴き込むほどにその精密さに驚嘆せざるを得ない。僕はこれからまた繰り返し聴くだろうな、このアルバムを、と『Kid A Mnesia』を聴きながら確信している。
サブスクリプション全盛である今の世にこうして語りかける意味があるのかどうかわからないけれど、自戒を込めて、この先人たちが残した芸術作品は、今こそ再訪すべきアイデアと情熱に溢れたアルバムのように感じる。少なくとも僕にとっては。
PROFILE: 小西 遼(CRCK/LCKS/象眠舎)
88年、東京生まれの作編曲家、サックス・フルート・クラリネット・シンセサイザー奏者。洗足音楽大学を前田記念留学生奨学金を受け卒業、米バークリー音楽大学を首席で卒業。ボストン・NYに滞在中、表現集団〈象眠舎〉を立ち上げる。帰国後、自身のバンド〈CRCK/LCKS〉を結成、挾間美帆とビッグバンド作曲企画〈Com⇔Positions〉を立ち上げる。また村上“ポンタ”秀一とのトリオ〈Pontadelick〉に加入。EWIを使ったボコーダー演奏をスタイルのひとつとし、定評を得ている。2020年、リモート制作を中心とした企画〈TELE-PLAY〉をスタートさせる。国内のフェスに多く出演するほか、Chara(バンドマスター)、cero、bonobos、TENDRE、あっこゴリラ、中村佳穂、韻シスト、sora tob sakana、Negiccoのサポート・制作に携わる。さらに演劇・映画・映像作品への楽曲提供など多岐にわたる活動をしながら、自身の制作も精力的に続けている。
オフィシャルサイト:https://www.ryokonishi.com/
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YouTube(象眠舎):https://www.youtube.com/channel/UCyLqzKova6VzpfXmXOeYDpw
RELEASE INFORMATION
リリース日:2021年11月5日
配信リンク:https://radiohead.ffm.to/kid-a-mnesia
■国内盤3CD
品番:XL1166CDJP
価格:3,850円(税込)
国内盤特典:歌詞対訳・解説付/ボーナストラック5曲収録
高音質UHQCD仕様
■輸入盤3CD
品番:XL1166CD
価格:3,190円(税込)
■限定盤3LP(レッドヴァイナル)
品番:XL1166LPE
価格:7,690円(税込)
■通常盤3LP(ブラックヴァイナル)
品番:XL1166LP
価格:7,690円(税込)
■日本盤3CD+Tシャツ
品番:XL1166CDJPT1
価格:8,250円(税込)
サイズ:S-XL
■限定レッドヴァイナル+Tシャツ
品番:XL1166LPET1
価格:12,090円(税込)
サイズ:S-XL
TRACKLIST
Disc 1 - Kid A
1. Everything In Its Right Place
2. Kid A
3. The National Anthem
4. How To Disappear Completely
5. Treefingers
6. Optimistic
7. In Limbo
8. Idioteque
9. Morning Bell
10. Motion Picture Soundtrack
Disc 2 - Amnesiac
1. Packt Like Sardines In A Crushd Tin Box
2. Pyramid Song
3. Pulk/Pull Revolving Doors
4. You And Whose Army?
5. I Might Be Wrong
6. Knives Out
7. Morning Bell/Amnesiac
8. Dollars And Cents
9. Hunting Bears
10. Like Spinning Plates
11. Life In A Glasshouse
Disc 3 - Kid Amnesiae + b-sides
1. Like Spinning Plates (‘Why Us?’ Version)
2. Untitled v1
3. Fog (Again Again Version)
4. If You Say The Word
5. Follow Me Around
6. Pulk/Pull (True Love Waits Version)
7. Untitled v2
8. The Morning Bell (In The Dark Version)
9. Pyramid Strings
10. Alt. Fast Track
11. Untitled v3
12. How To Disappear Into Strings
13. Kinetic *
14. Fast-Track *
15. Cuttooth *
16. The Amazing Sounds Of Orgy *
17. Trans-Atlantic Drawl *
*日本盤ボーナストラック