大人から〈いつかハッピーになるから大丈夫〉と言われても、私にはぜんぜん響かなかった
――『トンネルを抜けたら』に収録されている“Blue.2”という曲が、いまでもいちばん大事な曲だとTwitterに書かれていましたね。
「あの曲は、中学生の女の子2人が部活動の帰りに人身事故を起こした事件があって、テレビでそれを知ったときに書いた曲なんです」
――そのニュースは僕も覚えています。確か、いまから2年ほど前でしたね。
「私も中学生の頃は、いまならぜんぜん気にしないようなことがすごく気になってたし、〈明日がくるの、イヤだな。死にたい〉と思ってたときもあって。というか、けっこうみんなそうだと思うんですよ。実際、私のまわりにも学校に行かなくなった子がいたし。そんなときに大人から〈いつかハッピーになるから大丈夫〉とか言われても、私にはぜんぜん響かなかった。むしろ、私とあなたは違うと思ってて」
――わかります。
「でも、こうして大人になっていくと、自分がそういう気持ちだったことを忘れちゃうじゃないですか。それで〈昔はイタかったな〉みたいに振り返ったり、いまそのことで悩んでいる人たちを〈メンヘラ〉とか言ったりする人もいる。でも、実際にはそれで命を落としている人がいるんですよね。
だから、私はいまつらいと感じている人が〈自分もここにいていいんだ〉と思えるような曲、〈一緒に泣いてもいいんだ〉と思ってもらえるような曲を作りたかった。その気持ちをこれからも忘れたくないんです。だから、あの曲はすごく大好きなんです」
――音楽を作り続ける理由のひとつを、あらためて確認させてくれる曲?
「もちろんそれがすべてじゃないですけど、そういうことも羊文学を始めた頃から思ってきたことではあります。すごく大切なことだなって」
羊文学はもっと泥臭かったし、もっと必死だったんじゃないかって
――では、2枚目のEP『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』(2018年)を出す頃には、どんなことを考えていましたか。
「まず、その頃までの私は怒りを音楽にぶつけまくってたんですよね。怒りやつらさを爆音で発散している感じだった。でも、そういう題材もいつかは尽きるんだろうなって。それこそ思春期にいつか終わりがくるのはわかってたし、私は長く音楽をやっていきたいと思っていたから、もっと視点を広げたかったんです。それで作ったのが、『トンネルを抜けたら』に入ってる“Step”や『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』の曲たちで」
――なるほど。
「あと、それまでの曲では自分がなにを叫ぶかってことを重視してきたけど、Tempalayやドミコのライブを観たときに、私たちも演奏面でもっといろんなことをやりたいなと思うようになって。で、いまはまた初心に戻ってる時期で……。すみません、なんか話に全然まとまりがないですね」
――いや、すごく興味深いです。ぜひ続けてください。
「今回のアルバム作っていたときに思っていたのが、〈最近はちょっとかっこつけすぎてたな〉ってことで(笑)。もっと羊文学は泥臭かったし、もっと必死だったんじゃないかって。そんなことを思っていた時に、モーンというバンドと出会ったんです」
――スペインのガレージ・ロック・バンドですね。
「モーンは私たちと同い年くらいなんですけど、彼女たちの音楽を聴いた時に〈もともと私たちもこれくらいにストレートな音楽をやってたはずなのに、最近はちょっと気取りすぎてたな〉と思って。それで作った曲が“ドラマ”なんです。だから、今回はけっこうパンク精神というか、そういう気持ちで選曲していく感じでしたね。
あとはもう、一枚を通してしっかり聴いてもらえるものにしたいなって。こうして自分の作品を作るときは、何かひとつ大きなテーマがあって、通して聴いたときに大きな物語が伝わるようにしたいな、みたいなことをいつも考えてるんです」