アンドレ3000(OUTKAST)が、アイデンティティを築いていく1年を熱演!
ロック・ギターの概念を変えてしまった革新的な演奏で、60年代後半のロック界にセンセーションを巻き起こしながらも、27歳の若さで亡くなった史上最高のロック・ギタリスト、ジミ・ヘンドリックス。彼の生涯を描いた映画は、ドキュメンタリーこそ何本もあるけれども、劇映画は00年にTV映画が1本作られただけのはずだ。人種間の緊張が高まる時代にその聴衆のほとんどが白人である最初の黒人ロック・スターとなり、激動の60年代の幕を引くように世を去った天才アーティストとくれば、映画の題材にも最適とも思われるが、ひとつには、ジミのカリスマを再現できる主演男優を見つけることがむずかしいのだろう。
日本で4月に公開される「JIMI:栄光への軌跡(原題:Jimi:All Is By My Side)」はジミ・ヘンドリックス役にアンドレ・ベンジャミン、つまりアウトキャストのアンドレ3000という適任者を起用した待望の伝記映画である。監督と脚本は昨年のアカデミー賞において『それでも夜が明ける』で最優秀脚色賞を獲得したジョン・リドリーで、彼の監督デビュー作となる。
ただし、この映画は大きな難問を抱えて制作された。ジミの権利を管理する財団ヘンドリックス・エクスぺリアンスが自作曲の使用を許可しなかったのだ。つまり、《紫のけむり》も《風の中のマリー》も聴けないヘンドリックス映画なのである。だが、リドリー監督はヒット曲、代表曲を使えない制限を逆手にとって、ジュークボックス・ミュージカル的な伝記映画とはまったく異なる興味深い作品を作った。
本作で描かれるのは、66年5月頃、ジミがまだカーティス・ナイトのバンドでギターを弾いていた時期から、ロンドンに移ってデビュー、まず英国で大評判となり、本国での人気を爆発させるきっかけとなった67年6月のモンタレー・ポップ・フェスティヴァル出演に向かうところまでの1年少しという短い月日だ。彼が我々の知るところの「ジミ・ヘンドリックス」のアイデンティティを築いていった、興味深くも、これまではあまり詳しくは語られなかった時期にスポットライトを当てている。
多くの人びとが、ジミはアニマルズのベーシストだったチャス・チャンドラーに見出され、彼がマネジャーとなって英国に連れて行ったと考えているが、実のところクラブ出演していた彼を最初に見出して、チャンドラーに紹介した人物がいた。それが、英国人モデルで、当時キース・リチャーズの恋人だったリンダ・キースである。熱心なブルーズ・ファンで音楽をよく知っていた彼女は、ジミの舞台上でのパフォーマンスやファッション、髪型を変えるように助言を与え、LSDを体験させるなどして、大きな影響を与えた。演じるのはイモージェン・ポッツ。音楽関連映画ではジェフ・バックリィを描いた『グッバイ・アンド・ハロー 父からの贈りもの』に出演していた女優だ。
映画の前半はリンダがジミと並ぶ存在感を放つし、ロンドンに移ってからは、キャリアの進展と同じくらいに、恋人となったキャッシー・エッチンガム(へイリー・アトウェル)との日々が描かれる。本作は彼を取り巻く女性たちとの関係から、ジミの人間性を浮き彫りにしようとする。ポッツとアトウェルは好演だ。
また、1年少しの限られた時期を描いていても、父との国際電話の場面で幼い頃の父との関係を想像させたり、英国の黒人運動家マイケルXとの会話で、ジミがその数年後に米国の黒人急進派から黒人社会との連帯を求められる政治的プレッシャーの問題を先取りしたりと、ジミがどこから来てどこへ行ったかも示される。
もちろん観客を画面に引き込むのは、ジミに扮するアンドレである。見た目もとてもよく似ているし、話し方や表情、体の動きなどもうまく真似て、ジミになりきった。演奏曲目がジミの自作でないので、エリック・クラプトンとの初対面となったクリームとの飛び入りジャムやビートルズが客席にいたサヴィル劇場でのコンサートなどの有名な演奏場面は史実通りに再現されている。
なお、アンドレはミュージシャンなので、一応ギターを弾いているが、実際に聴こえてくるのは、映画の音楽を担当したワディ・ワクテルの演奏だ。映画内のジミ・ヘンドリックス・エクスぺリエンスの実際の演奏は彼とリーランド・スクラー、ケニー・アロノフという強力トリオによるもの。ワディはリンダ・ロンシュタット・バンドからキース・リチャーズのエクスペンシヴ・ワイノーズまでで活躍してきた有名セッション・ギタリストで、レスポールのイメージが強い人だが、ここではジミのストラトキャスターの音を再現している。そして、ジミの自作曲が使えないところは、似たコード進行でファンならおなじみのメロディをそこに聴き取ってしまうようなインスト曲をうまく挿入している。
MOVIE INFORMATION
映画「JIMI:栄光への軌跡」
史上最も偉大なギタリスト
彼はいかにして見出され、伝説となったのか─
ロック史上最高のギタリストとして
歴史に名を刻んだ一人の男の光と闇を描く!
監督・脚本:ジョン・リドリー 「それでも夜は明ける」脚本
出演:アンドレ・ベンジャミン(OUTKAST)、ヘイリー・アトウェル、イモージェン・プーツ/他
配給:東京テアトル(2014年 イギリス 118分)
◎4月11日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー