よりディープに音と言葉を染み込ませることでもたらすフィジカル&スピリチュアルな昂揚感

 全国各地のフェスやイヴェントに出演し、今年2月にはXXのオープニング・アクトとして幕張メッセのステージに立つなど、密室的なライヴハウス/クラブを飛び出して活躍の場を大きく広げているD.A.N.。これまでの日本の〈バンドによるダンス・ミュージック〉の歴史に倣うならば、ここからスケール感をアップし、BPMを上げ、より肉体的に進化することによって、たくさんのオーディエンスや開けた空間を支配しようとしたことだろう。しかし、彼らのメンタリティーはやはりそうではない。セカンド・アルバム『Sonatine』に収録されているのは、前作以上にメロウでロマンティックな楽曲の数々。もちろん、ダンス・ミュージックとしての機能性が損なわれているわけではないし、スケール感に関しては確実に上がっている。しかし、彼らは聴き手に対してよりディープに音と言葉を染み込ませることによって、フィジカルとスピリチュアル、両方の昂揚感を誘う。

D.A.N. Sonatine SSWB/BAYON PRODUCTION(2018)

 代表曲“Ghana”によって彼らの代名詞となった台詞のサンプリングがさまざまなパターンで使われている本作。“Start”で冒頭からそれを印象付けると、続いて煌びやかなシンセがムーディーな雰囲気を醸し出し、後半に向けてトランシーに展開していく“Chance”によって、アルバムの方向性がはっきりと示される。キリンジや宇多田ヒカルをフェイヴァリットに挙げる櫻木大悟の歌詞は、どこか内省的ながらも〈意味もなく あなたといたい〉とこれまでになくストレートな言葉を繰り返し、よりインティメイトな世界感を作り上げていく。

 サンダーキャットばりのベース・ミュージック的な小品“Cyber phunk”、アブストラクトなインタールード“Debris”、オルタナティヴR&B風のトラックに、タブラとクラップの小技が効いている“Replica”などを挿んで、ハイライトとなっているのが10分超の長尺曲“Borderland”。本作随一のダンス・ナンバーであり、前半は市川仁也と川上輝のリズム隊がより強靭になったビートを叩き出すが、シンセのブレイクを通過した後半ではBPMが半分になり、より瞑想的な曲調へと移行。ここでも櫻木は〈とにかく会いたいと思う〉〈この気持ち何だろう 言葉じゃ伝わらない〉と感傷的に綴り、ラストは微睡みのチルアウト・ナンバー“Orange”でゆったりと終幕へ。より深くエモーションへと訴える、堂々たる仕上がりだ。