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いつも〈いまこの時代〉が気になる音楽家・冨田恵一

――そして、最後に“緩やかな毒”。歌が吉田沙良、歌詞は角田隆太なので、実質的には、ものんくるとの仕事とも言えます。

「僕はT.O.C.バンドっていうジャズ・バンドを最近やってるんですけど、そのベーシストが角田さんなの。そのバンドで今年やったイヴェントで、沙良さんが別のバンドのゲストに出て歌ってたんですよ。そのライヴで歌ってた沙良さんが、ものんくるでの歌い方と違ってて。その時に聴いた印象がすごく残ってて。アルバムで最後に完成させたのは“rain on you”だったけど、作曲順でいうとアルバムで最後だったのがこの曲だったんです。あの時の沙良さんの歌を思い出して打診した時に、自動的に歌詞は角田さんにお願いすることが浮かびましたね。角田さんの歌詞ってすごくいいと思ってたんで」

――ものんくるをやってるけど、今回のオファーとしては別というのは、彼ら二人にとっても新鮮な作業だったかもしれませんね。

「もちろん、音楽自体も全然違うしね。やっぱり沙良さんはスキルが高い人だから、アプローチはいくつでも用意できる。彼女が言ってたことは〈曲による〉ということ。〈自分のスタイルがこう〉ではなく、〈その曲はどう歌えばベストなのか〉を考えて、“緩やかな毒”にはこれが合うと判断したんでしょうね」

――この曲は歌詞がドラマチックですけど、これもオファーの段階では何も伝えてないんですか?

「歌詞については、何も言ってないと思いますね。覚えてるのは〈かわいいとかより、全体的にはオーセンティックな感じになると思う〉と伝えたくらい。あとは僕が最後に書いた曲だから、アルバムのヴァリエーションの中にないタイプを意識したと思う」

――そして、最後に“Outroduction”に至るという構成で、トータルでもそんなに長い時間のアルバムではないんですけど、どこに行くかわからないスリルがいつも以上にあって、濃密な時間でした。ライヴは『SUPERFINE』の時以上に大変でしょうけど。

「ライヴも決まってますからね、これからいろいろ考えなくちゃいけないから大変です。そういえば、松永さんが以前、僕のライヴのことで何かツイートしてくれてましたよね」

「僕もわりといつもそういうことを考えてるんです。昔は7分の曲でも最初から最後まで聴かせることが僕の価値観だったけど、最近は〈すげえ満足した!〉と思ったけど、タイムを見てみたら3分50秒しかなかった、みたいなことのほうがいまの僕の価値観になってる。だから、時間は絶対的なものだけど、印象としての時間は全然違う。音楽で重要なのはそこだろうなと思ってるんです。そのことをツイートされていたので、すごく印象に残ってます」

――今回もインタールードがそういう役割を果たしていて、それぞれは1分半くらいで短くフェードアウトしたりしてるんですけど、不思議とそうは思えないんですよ。

「そう思わせるために何をどう配置したらいいか、いつやったらいいのか、どれくらいの分量でやったらいいのかを考えるのが、音楽家だと思うんです」

――そうですね。でも、総体的に言うと、冨田ラボは、いつも〈いまこの時代〉が気になっている。それが最高だなと思います。

「もちろん気にはなってるんでしょうね、ポップスをやっている人間ですから。ただ、最先端を追っかけるのは大変だと思うんですよ。僕にはそれはできない。でも、幸か不幸か、リアルタイムの音楽で〈これは本当にかっこいい〉と思うものに出会っちゃったわけだから。そうなったら音楽家は、というか僕は、自分の音楽とうまく結びつけようと考えます。あと、年齢を重ねてくると〈時代は関係ないよ〉みたいに思ってやっていた頃のことも、結局は時代の影響を受けていたんだと、俯瞰して見ることができるようになりましたね」

 


LIVE INFORMATION
冨田ラボ 15th Anniversary LIVE 〈M-P-C “Mentality, Physicality, Computer”〉
2018年11月2日(金)東京・マイナビBLITZ赤坂
開場/開演:18:00/19:00
出演:冨田ラボ
ゲストシンガー:AKIO/安部勇磨(never young beach)/城戸あき子(CICADA)/Kento NAGATSUKA(WONK)/坂本真綾/髙城晶平(cero)/chelmico/長岡亮介(ペトロールズ)/Naz/七尾旅人/bird/堀込泰行/吉田沙良(ものんくる)/Ryohu(KANDYTOWN)