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特定のスタイルや時代に属していない共作曲“We'll Be OK”

――そしてさらに、ポップ・エトセトラが10月にリリースした『ハーフ』には、2人の共作曲“We’ll Be OK”が収録されています。北海道でのレコーディングの流れで生まれた曲なんですか?

クリス「そういうことをやりたいっていう話はしたけど、本格的に作りはじめたのは、『Moon Boots』が完成してからだね。ユウキが作ったAメロのアイデアを出発点に、2人で膨らませたんだ」

尾崎「あくまでポップ・エトセトラのアルバムに収録される曲だってことを、僕はすごく意識しました。クリスの音楽は全曲知っているっていうくらい聴いているし、僕が書きたいものを書くのではなく、クリスが〈いいね〉って感じてくれそうなものを作ろうとした。〈これならバックトラックを付けやすいんじゃないかな〉と思えるメロディーを考えたような面もあって」

クリス「当初ユウキが〈70年代のLAっぽい曲にしたい〉と提案して、いくつかアイデアを考えたんだけど、結果的には全然違うものになった(笑)。正直言ってどんな曲が生まれるのか見えていなかったんだ。まさにそこが素晴らしいと思う。やりたいことが明確だった『ALARMS』のときとは違って、よくわかっていなかったからこそ、特定のスタイルや時代に属していない曲が誕生したんじゃないかな。僕は随分長い間音楽を作っているけど、こんなふうにユニークなものが生まれて驚かされることは滅多にないから、本当に嬉しかったよ」

尾崎「僕が〈LAっぽい曲〉を提案したのは、『ハーフ』(のほかの楽曲)から暖かい日差しみたいなものを感じていたからなんですよね。でも、僕ら自身の中にそういう感覚がなかったんだと思う。寒い場所で育つと、冷たい音になっていくもので、出来上がった曲は全然ホットな感じがしない(笑)。でも、僕も想定外の曲になったところがおもしろいと思っています」

――ちなみに、日本限定のアルバムとして『ハーフ』を制作した理由のひとつは、シングルが重視されているアメリカと違って、日本のリスナーはいまもアルバムへの愛着が強いことにあるそうですが、尾崎さんもそういう印象を持っていますか?

尾崎「そうですね。僕らも〈アルバムが好きだ〉という話をクリスにいつもしているし、シングルは嫌いだと言っちゃったりしたから、余計にそういうイメージが強まったんじゃないかな(笑)」

クリス「アメリカではインターネット経由で音楽がタダでも手に入ると知った途端、みんな盗みはじめたんだよね。とにかく悪人だらけなんだ(笑)。それなのに日本人は、タダで手に入ると知っていながらも盗まない。いまもアルバムを大切にして、買ってくれていて、本当に素晴らしいことだと思うよ」

尾崎「『Moon Boots』のレコーディング中、お酒を呑みながらまさにその話をしていたんですよ。こういう流れにミュージシャンは抗うのか、抗わないのか、抗うとしたら、それだけのエネルギーを割く必要はあるのか……と。今後日本もアメリカを追いかける形でそうなっていくと思うし、だからこそポップ・エトセトラが『ハーフ』をリリースしてくれて嬉しい。僕はやっぱりアルバムを聴きたいから、アルバムを出し続けて欲しいな。僕らも出し続けたいし」

『ハーフ』収録曲“Broken Record”

 

“ばらの花”なのに、あのイントロがない!

――クリスは今回、歌詞を独自に英訳して日本人アーティスト、くるりとYEN TOWN BANDの曲をカヴァーしています。尾崎さんはGalileo Galilei時代に、The 1975やフェニックス、スミスなどの楽曲で逆の試みをしていましたよね。

尾崎「そうですね。あれも『ALARMS』をクリスと作った影響から始めたんです。英語でカヴァーをしても、僕自身が英語を喋れないし、なおかつ歌うなんてすごく難しい。歌詞を翻訳して理解したうえで歌うことで、アーティストの気持ちがわかったりするから、僕にとっては自分がリスペクトする人たちに近付く方法なんですよ。クリスも同じような理由でカヴァーしているんだろうけど」

クリス「ただ、アプローチが違うよね。Galileo Galileiによる日本語での洋楽カヴァーを初めて耳にしたとき、サウンドが原曲にかぎりなく近いことにびっくりした。同じサウンドを鳴らすために、技術的な面でかなり試行錯誤をしたんだろうってことがわかったよ。その点僕らの場合は、日本語の歌詞を理解しきれていないからなのかもしれないけど、原曲にアーティスティックな解釈を加えるようなアプローチだね。

例えば、くるりの“ばらの花”をカヴァーするにあたって、原曲にあったイントロをばっさりカットしたんだけど、ユウキに〈あのイントロが有名なのに!〉って指摘されたよ(笑)。そういう事情を知らなくて、僕らなりに曲から感じたムードみたいなものを表現してみたんだ」

尾崎「あれは本当におもしろかった。〈イントロがない!〉って(笑)。(くるりの)岸田繁さんに聴かせたいな」

――そもそも“ばらの花”は、Galileo Galileiのメンバーがクリスのために作ったミックステープに入っていたそうですね。

尾崎「『ALARMS』を作ったとき、〈みんなが聴いている音楽を教えて〉とクリスに言われたんです。その1曲が“ばらの花”で、ほかにキリンジとかも入っていたんじゃないかな」

クリス「あと、スーパーカーもね」

尾崎「どれも中高生の頃にハマっていたアーティストなんです。僕らの音楽的なルーツだから知ってもらいたかったんですけど、いまになってカヴァーしてくれるとは思ってなかった!」