10月30日から11月4日まで渋谷駅周辺を舞台に行われた〈SHIBUYA MUSIC WEEK〉。そのフィナーレを飾るイヴェントとして開催されたのが、2010年前後に活動を開始した若きアーティスト12組による、大瀧詠一楽曲のカヴァー・アルバム『GO! GO! ARAGAIN』のリリースを記念したライヴだ。参加アーティストの内9組――キイチビール&ザ・ホーリーティッツ、Spoonful Of Lovin’、bjons、OLD DAYS TAYLOR、秘密のミーニーズ、KEEPON(キーポン)、やなぎさわまちこ、ayU tokiO、柴田聡子が出演。いずれもいま現在、東京を中心とした都市に、新たなポップ・ミュージックを芽吹かせつつある顔ぶれだ。9月にオープンしたばかりの渋谷ストリームホールを舞台に、これら若き音楽家たちが次々に登場するさまは、大瀧作品を見つめ直すという意義と、その道の延長線に日本のポップ・ミュージックの現在、そして未来が繋がっていることをじわりと感じさせるイヴェントとなった。

橋本徹(SUBURBIA)のDJが会場を心地よく彩りながら開演。本作のジャケットが舞台に大きく映し出され、総合司会の長門芳郎(パイドパイパーハウス店長)が登場する。かつてはシュガー・ベイブやティン・パン・アレーのマネージャーも務めていた長門。今回のアーティストのセレクトにも寄与しており、本作のラインナップは、彼から見た、大瀧詠一から連なるピープル・ツリーの、現在の先端部分とも言えるだろう。

この日、出演アーティストは大瀧詠一カヴァーと自身の楽曲の2曲を順に演奏していき、転換中には長門がトークを交えていくという構成で進む。それには、はっぴいえんどが、73年に文京公会堂で行った解散コンサートで、4人のメンバーそれぞれが携わっていた南佳孝、吉田美奈子、西岡恭蔵、シュガー・ベイブら新人アーティストたちを次々に紹介していった風景を彷彿とさせる。また途中のトークには橋本徹や野宮真貴をゲストに迎えたパートもあり、本作にも参加した少林兄弟(この日は出演せず)と野宮がコラボした“東京は夜の七時”の25周年ヴァージョンのMVも上映された。

野宮真貴、長門芳郎
 

幕開けはキイチビール&ザ・ホーリーティッツ。“指切り”と未発表の新曲“鰐肉紀行”を披露した。声は不調ながら懸命に絞り出そうとするキイチビール(ヴォーカル/ギター)に代わり、歌の主軸を取ることとなったKD(コーラス)が踏ん張りを見せる。2曲を何とか終え、長門が〈うん、かっこいいね〉と優しく声をかけた。

キイチビール&ザ・ホーリーティッツ
 

各演者は短いステージだったが、この日全編で八面六臂の活躍を見せたのは鍵盤奏者、谷口雄だ。渡瀬賢吾(bjons)、ポニーのヒサミツ、サボテン楽団とのフォークやカントリー名曲をカヴァーするバンドSpoonful Of Lovin’(大瀧カヴァー“それはぼくじゃないよ”に加えて、細野晴臣の“Black Peanuts”を披露!!)、サポートとして参加しているbjons、そしてこの日は笹倉慎介、岡田拓郎との特別な3人編成であったOLD DAYS TAILORと3バンド連続で出演。現代の〈1人レッキング・クルー〉とでも言えそうな、多くのバンドを下支えする存在であることを知らしめていた。また後半、司会の面でも長門をフォローする立ち回りには緩い師弟関係を見るよう。アーティストと長門をつなぐ潤滑油として、温かい空気を漂わせており、紛れもなくこの日のMVPであった。

Spoonful Of Lovin’
 
bjons
 
OLD DAYS TAILOR
 
谷口雄。ルックス面も大瀧に似ていると、この日の話題に
 

そして、事前から期待を集めていたのは〈最年少の大瀧詠一フォロワー〉KEEPON(キーポン)だ。彼の前に演奏していた秘密のミーニーズに呼び込まれる形で登場し、本作では宅録音源として収められていた“ロックン・ロール・マーチ”をこの日だけのバンド・ヴァージョンで披露。収録版でも後半になるにつれてさまざまな大瀧ネタが仕込まれていくのだが、この日は“ウララカ”から“はいからはくち”、“Cider '73”、“びんぼう”などが音源とは異なった構成で目まぐるしく繋がれていく。大瀧詠一の声色を意識しながら歌いつつ、小粋に立ち回るさまは、15歳とは思えない堂々たるもの。

また長門から〈バーズやフライング・ブリトー・ブラザーズを思わせる〉と言わしめた、秘密のミーニーズの三声コーラスと演奏もKEEPON(キーポン)の大瀧リスペクト魂に最後の一筆を入れる役割を果たしていた。前述のはっぴいえんど解散コンサートにおける大瀧のステージで披露されたココナツ・バンク、シュガー・ベイブ、シンガーズ・スリーを迎えたメドレー曲“空飛ぶ・ウララカ・サイダー”の再現をめざしたような、この日でしか観られない光景であった。

秘密のミーニーズ
 
KEEPON(キーポン)
 

そしてもう一つ、この日のハイライトを挙げるならば、9人もの大編成で臨んだayU tokiOだろう。直前の出番であった、やなぎさわまちこを含めた3人のコーラス隊や、本作には参加していながらこの日は出演が叶わなかったシャムキャッツの大塚智之によるベース、さらにはヴィオラ、ヴァイオリンにミュージカルソーまでが並び、舞台上は華やか。彼の最新作『遊撃手』(2018年)のなかでも随一の壮大なスケールを誇る“あひる”を、ひときわラグジュアリーなサウンドで披露した。続く大瀧カヴァー“幸せな結末”も『GO! GO! ARAGAIN』に収録された宅録主体のヴァージョンとは違い、ストリングスを軸としたより原曲を意識したアレンジ。ポップス職人として、大瀧に確かな継承の念を送るような美しいステージでを見せた。

やなぎさわまちこ
 
ayU tokiO
 

トリの柴田聡子は、この日はOLD DAYS TAILORとしても出演していた岡田拓郎をギターに擁するバンド編成〈柴田聡子inFIRE〉で“風立ちぬ”と自身の“後悔”を披露。松田聖子の楽曲を歌うことによって柴田のアイドル性が華やかに際立つ。いつもにも増してハツラツとした立ち振る舞いで、じっくり聴き入るスタンスが出来上がっていた会場を屈託なく盛り上げて、フィナーレを迎えた。

柴田聡子inFIRE
 

ひとたびそのメロディーやサウンドを耳にすればわかってしまうほどに、記名性の濃い大瀧のイズムやメソッド。それを単にいつまでも色褪せない魅力と言ってしまえばそれまでだ。だが、この日のショーケース的なステージを観るなかで気づいたのは、アーティスト自身にはない〈異物〉がそれぞれのメソッドでどう料理されているかという、カヴァー曲における王道の楽しみ方に、大瀧の楽曲を扱ったそれらは適さないということだ。この日出演した9組いずれもカヴァーを新鮮に響かせながら、自身の楽曲との間に障壁はない。

大瀧の楽曲は、若き彼らのアレンジの上にヒョイと乗っかって、その色に率先して染まることができる度量がある。そんな〈歌は世につれ、世は歌につれ〉が栄枯盛衰ではなく、どんな時代においてもヴィヴィッドに呼応してしまうという、ポップスにおける真の意味での普遍性が、大瀧詠一の楽曲には注がれているのだ。大瀧詠一がなくなって早5年になるが、この期に及んでさらに新たな魅力を見出す夜になった。