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史上ない異形のミクスチャー音楽

 そんな彼らの何が画期的だったか?といえば、クラフトワークやロックのディーヴォとはまったく違うスタンスで独自のテクノ・ポップ・サウンドを確立したことにある。

 YMO誕生前夜、細野晴臣は78年4月リリースのソロ4作目『はらいそ』でエキゾティック・サウンドの深化を図り、収録曲“ファム・ファタール”で他のメンバー2人が合流した。高橋幸宏は同年6月にジャストなモダン・リズムがYMOに接近している『サラヴァ!』を発表。さらに10月には坂本龍一が全編完璧なテクノ・サウンドで彩られた先鋭的な『千のナイフ』により、音楽界に大きなショックを与えた。この3つのアルバムの要素、すなわちエキゾティカ的ミクスチャー、ジャストリズムの生音、そしてコンピュータ・サウンドが融合したのである。それは史上ない異形のミクスチャーであり、まったく新しい音楽の誕生を物語っていた。英国やドイツ、米国からも生まれ得ない、ビートルズ並みに懐の大きなサウンド・システム、YMOが生まれたのである。そしてその中から『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録の“ビハインド・ザ・マスク”のようにマイケル・ジャクソンやエリック・クラプトンにもカヴァーされる国際的なヒットも生まれたし、“ナイス・エイジ”のような当時の英国シーンと同期するロック・サウンド、果ては“君に、胸キュン。”のようなお茶の間歌謡ヒットまで飛び出したのである。

 その許容量がどこから生まれたか?といえば、まずはリーダー・細野晴臣の、守備範囲がとんでもなく広く、世界レヴェルに卓越したポップセンス、リズム能力にあるだろう。次に坂本龍一のソロ作『B-2 UNIT』にも代表されるような過激でいながら、しかし音楽アカデミズムにも精通した唯一無比な才能。その2つだけでもビートルズにも十分に勝てる要素が揃っているが、さらに高橋幸宏の、ドラマーとして世界トップ・レヴェルの技術を持ちながら、シンガー・ソングライターとしても傑出した個性。このまったく異なる3つの才能のバランス観、それは古今東西のバンドにはない組み合わせなのだ。ドラム、ベース、キーボードだけのメンバーながらオーケストラの裾野を持つ、名前には空前の音楽性の拡がりが意図されていた。