COLUMN

テイ・トウワ監修の『NEUE TANZ』を入口に、2018年から飛び込むYMOの宇宙

MASAYOSHI SUKITA

YMOの〈とにかくとびきりの〉音楽が時を超えて放つ現代性

 イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)が生まれたのは1978年。セックス・ピストルズがブレイクし、パンク、ニューウェイヴの嵐が吹き荒れはじめた頃だ。同時に、フュージョン音楽も流行っていた時。〈テクノ〉という概念が日本ではまだなかったため、レコードの帯には〈キャッチ・アップ・フュージョン〉という謳い文句が書かれていた。それが78年11月25日にリリースされたファースト・アルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』である。

 すでにクラフトワークやドナ・サマーの〈テクノ音楽〉が世界では勃興していたが、YMOが始めた〈生音×コンピュータ音楽〉という新しい〈テクノ・ポップ〉はすぐに理解されるはずもなかった。しかしリーダー細野晴臣には〈下半身モヤモヤ、みぞおちワクワク、頭クラクラ〉というキャッチフレーズで表現される壮大なイメージがあった。あっという間に侵攻は果たされ、目論見通り6か月後の79年5月に『イエロー・マジック・オーケストラ』(USリミックス盤)が全米リリースされ、スマッシュ・ヒット。その年の10月に出した2作目『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(海外リリースは82年)によって見事に世界進出を果たすことになる。

 

史上ない異形のミクスチャー音楽

 そんな彼らの何が画期的だったか?といえば、クラフトワークやロックのディーヴォとはまったく違うスタンスで独自のテクノ・ポップ・サウンドを確立したことにある。

 YMO誕生前夜、細野晴臣は78年4月リリースのソロ4作目『はらいそ』でエキゾティック・サウンドの深化を図り、収録曲“ファム・ファタール”で他のメンバー2人が合流した。高橋幸宏は同年6月にジャストなモダン・リズムがYMOに接近している『サラヴァ!』を発表。さらに10月には坂本龍一が全編完璧なテクノ・サウンドで彩られた先鋭的な『千のナイフ』により、音楽界に大きなショックを与えた。この3つのアルバムの要素、すなわちエキゾティカ的ミクスチャー、ジャストリズムの生音、そしてコンピュータ・サウンドが融合したのである。それは史上ない異形のミクスチャーであり、まったく新しい音楽の誕生を物語っていた。英国やドイツ、米国からも生まれ得ない、ビートルズ並みに懐の大きなサウンド・システム、YMOが生まれたのである。そしてその中から『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録の“ビハインド・ザ・マスク”のようにマイケル・ジャクソンやエリック・クラプトンにもカヴァーされる国際的なヒットも生まれたし、“ナイス・エイジ”のような当時の英国シーンと同期するロック・サウンド、果ては“君に、胸キュン。”のようなお茶の間歌謡ヒットまで飛び出したのである。

 その許容量がどこから生まれたか?といえば、まずはリーダー・細野晴臣の、守備範囲がとんでもなく広く、世界レヴェルに卓越したポップセンス、リズム能力にあるだろう。次に坂本龍一のソロ作『B-2 UNIT』にも代表されるような過激でいながら、しかし音楽アカデミズムにも精通した唯一無比な才能。その2つだけでもビートルズにも十分に勝てる要素が揃っているが、さらに高橋幸宏の、ドラマーとして世界トップ・レヴェルの技術を持ちながら、シンガー・ソングライターとしても傑出した個性。このまったく異なる3つの才能のバランス観、それは古今東西のバンドにはない組み合わせなのだ。ドラム、ベース、キーボードだけのメンバーながらオーケストラの裾野を持つ、名前には空前の音楽性の拡がりが意図されていた。

 

〈いまの耳〉にも新しいサウンド観

 40年の時を経て、新たにグっとくるポイントについて挙げていこう。ファースト・アルバムに入っている坂本龍一作“東風”のイントロは、星野源の今年の大ヒット曲“アイデア”(TVドラマ「半分、青い。」主題歌)の冒頭に引用された。“東風”のアジア性豊かなメロディーに乗ったテクノ・ポップ・リズムは不滅の輝きだ。細野との親交が深い星野の音楽には、YMOのジャストなポップ・サウンドが骨の髄まで溶けこんでいる。YMOが日本の音楽を塗り替えるまで、日本の歌謡曲、ポップスは旧来のロックやジャズ、クラシックのミュージシャンによって作られていた。それは欧米の後追いだったので、世界に並ぶことは考えられなかったが、YMOは日本のポップスを世界水準に引き上げた。星野源のような弾けるポップスが生まれる背景には、そんなYMOの威光があるのだ。

 US版『Yellow Magic Orchestra』は、スーパーヴァイザーにトミー・リピューマ、ミックス・エンジニアにマイケル・フランクスなどを手掛ける往年のA&Mサウンドの名匠アル・シュミットが起用されているという、洋楽マニアにとっては奇跡の組み合わせもポイントだ。日本版ファーストとは趣を変えたバキッとしたフロア・サウンドはぜひ押さえておきたい。“東風”には吉田美奈子のヴォーカルが加えられていることも特筆すべきところ。

 『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』は、シンセサイザー・メインで描かれた巨大な近未来空間の迫力がすごく、まるでキューブリックの映画「2001年宇宙の旅」のように古びないSF感覚に、いま聴いても震えがくるほどだ。“テクノポリス”は〈トキオ!〉というヴォコーダー声がカッコイイ! Perfumeのケロケロ声はオートチューンというエフェクターによって作られるが、その先祖はこのヴォコーダー。初音ミクと比べてもカッコイイこの音色は絶品。このようにロボットやAIのような近未来的イメージは、YMOがリーダーとして先導した。ニュー・アカデミズム、構造主義のような哲学の新潮流とも合流し、軽薄ではない、含蓄が深く強い文化ムーヴメントを作り出したことは忘れられない。『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』には、“ライディーン”のようなキャッチーなナンバーが入っていて楽しさには事欠かないが、いま聴くと全曲の粒立ちに驚く。先日の細野晴臣ロンドン公演で1曲だけYMOが再結集してやった“アブソリュート・エゴ・ダンス”のアンドロイドな琉球メロディーや、“キャスタリア”のようなエッジーな無機質ポップの先鋭性がジワジワと耳を突く。ブライアン・イーノやデヴィッド・ボウイと並んで一線に立っていたことが思い出される。

YMO NEUE TANZ ソニー(2018)

 今回リリースされた編集盤『NEUE TANZ』は、DJとしてのテイトウワの腕が冴え渡った名盤となったが、その中心となるリズム感覚にはYMOのとてつもない未来性が引き出された。1曲目“開け心─磁性紀─”はフジカセットのCMのために作られた曲だが、この曲にはすでに次作『BGM』で試されるミニマル・テクノの萌芽がある。すなわち、90年代にデリック・メイやジェフ・ミルズ、日本では電気グルーヴによって世界に吹き荒れるフロア・テクノの予言的音楽性だ。当時は比較的単調なリズムぐらいに思われたが、この曲が『BGM』からの“バレエ”、さらに坂本龍一の“ライオット・イン・ラゴス”に繋げられるこの盤の鮮やかさは凄まじい。『NEUE TANZ』の前半を聴けば、YMOは90年代や2000年代のサウンドを予見していたことが明瞭にわかるだろう。

 さらに『BGM』からの“千のナイフ”での坂本のシンセサイザー・ソロ音、“スポーツマン”における細野のテクノ・パーカッション音など、鍛え抜かれた音色が砂原良徳の渾身のマスタリングによって引き出されていることも特筆すべき。〈いまの耳〉によってこれだけ現代性が出る、まさにYMO音源は無限の可能性を秘めた日本最高の財産なのである。 *サエキけんぞう

文中に登場した作品を紹介。

 

〈Collector's Vinyl Edition〉と銘打った45回転アナログ盤2枚組でリリースされるYMOの初期3作。

 

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