
YMOの〈とにかくとびきりの〉音楽が時を超えて放つ現代性
イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)が生まれたのは1978年。セックス・ピストルズがブレイクし、パンク、ニューウェイヴの嵐が吹き荒れはじめた頃だ。同時に、フュージョン音楽も流行っていた時。〈テクノ〉という概念が日本ではまだなかったため、レコードの帯には〈キャッチ・アップ・フュージョン〉という謳い文句が書かれていた。それが78年11月25日にリリースされたファースト・アルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』である。
すでにクラフトワークやドナ・サマーの〈テクノ音楽〉が世界では勃興していたが、YMOが始めた〈生音×コンピュータ音楽〉という新しい〈テクノ・ポップ〉はすぐに理解されるはずもなかった。しかしリーダー細野晴臣には〈下半身モヤモヤ、みぞおちワクワク、頭クラクラ〉というキャッチフレーズで表現される壮大なイメージがあった。あっという間に侵攻は果たされ、目論見通り6か月後の79年5月に『イエロー・マジック・オーケストラ』(USリミックス盤)が全米リリースされ、スマッシュ・ヒット。その年の10月に出した2作目『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(海外リリースは82年)によって見事に世界進出を果たすことになる。
史上ない異形のミクスチャー音楽
そんな彼らの何が画期的だったか?といえば、クラフトワークやロックのディーヴォとはまったく違うスタンスで独自のテクノ・ポップ・サウンドを確立したことにある。
YMO誕生前夜、細野晴臣は78年4月リリースのソロ4作目『はらいそ』でエキゾティック・サウンドの深化を図り、収録曲“ファム・ファタール”で他のメンバー2人が合流した。高橋幸宏は同年6月にジャストなモダン・リズムがYMOに接近している『サラヴァ!』を発表。さらに10月には坂本龍一が全編完璧なテクノ・サウンドで彩られた先鋭的な『千のナイフ』により、音楽界に大きなショックを与えた。この3つのアルバムの要素、すなわちエキゾティカ的ミクスチャー、ジャストリズムの生音、そしてコンピュータ・サウンドが融合したのである。それは史上ない異形のミクスチャーであり、まったく新しい音楽の誕生を物語っていた。英国やドイツ、米国からも生まれ得ない、ビートルズ並みに懐の大きなサウンド・システム、YMOが生まれたのである。そしてその中から『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録の“ビハインド・ザ・マスク”のようにマイケル・ジャクソンやエリック・クラプトンにもカヴァーされる国際的なヒットも生まれたし、“ナイス・エイジ”のような当時の英国シーンと同期するロック・サウンド、果ては“君に、胸キュン。”のようなお茶の間歌謡ヒットまで飛び出したのである。
その許容量がどこから生まれたか?といえば、まずはリーダー・細野晴臣の、守備範囲がとんでもなく広く、世界レヴェルに卓越したポップセンス、リズム能力にあるだろう。次に坂本龍一のソロ作『B-2 UNIT』にも代表されるような過激でいながら、しかし音楽アカデミズムにも精通した唯一無比な才能。その2つだけでもビートルズにも十分に勝てる要素が揃っているが、さらに高橋幸宏の、ドラマーとして世界トップ・レヴェルの技術を持ちながら、シンガー・ソングライターとしても傑出した個性。このまったく異なる3つの才能のバランス観、それは古今東西のバンドにはない組み合わせなのだ。ドラム、ベース、キーボードだけのメンバーながらオーケストラの裾野を持つ、名前には空前の音楽性の拡がりが意図されていた。
〈いまの耳〉にも新しいサウンド観
40年の時を経て、新たにグっとくるポイントについて挙げていこう。ファースト・アルバムに入っている坂本龍一作“東風”のイントロは、星野源の今年の大ヒット曲“アイデア”(TVドラマ「半分、青い。」主題歌)の冒頭に引用された。“東風”のアジア性豊かなメロディーに乗ったテクノ・ポップ・リズムは不滅の輝きだ。細野との親交が深い星野の音楽には、YMOのジャストなポップ・サウンドが骨の髄まで溶けこんでいる。YMOが日本の音楽を塗り替えるまで、日本の歌謡曲、ポップスは旧来のロックやジャズ、クラシックのミュージシャンによって作られていた。それは欧米の後追いだったので、世界に並ぶことは考えられなかったが、YMOは日本のポップスを世界水準に引き上げた。星野源のような弾けるポップスが生まれる背景には、そんなYMOの威光があるのだ。
US版『Yellow Magic Orchestra』は、スーパーヴァイザーにトミー・リピューマ、ミックス・エンジニアにマイケル・フランクスなどを手掛ける往年のA&Mサウンドの名匠アル・シュミットが起用されているという、洋楽マニアにとっては奇跡の組み合わせもポイントだ。日本版ファーストとは趣を変えたバキッとしたフロア・サウンドはぜひ押さえておきたい。“東風”には吉田美奈子のヴォーカルが加えられていることも特筆すべきところ。
『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』は、シンセサイザー・メインで描かれた巨大な近未来空間の迫力がすごく、まるでキューブリックの映画「2001年宇宙の旅」のように古びないSF感覚に、いま聴いても震えがくるほどだ。“テクノポリス”は〈トキオ!〉というヴォコーダー声がカッコイイ! Perfumeのケロケロ声はオートチューンというエフェクターによって作られるが、その先祖はこのヴォコーダー。初音ミクと比べてもカッコイイこの音色は絶品。このようにロボットやAIのような近未来的イメージは、YMOがリーダーとして先導した。ニュー・アカデミズム、構造主義のような哲学の新潮流とも合流し、軽薄ではない、含蓄が深く強い文化ムーヴメントを作り出したことは忘れられない。『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』には、“ライディーン”のようなキャッチーなナンバーが入っていて楽しさには事欠かないが、いま聴くと全曲の粒立ちに驚く。先日の細野晴臣ロンドン公演で1曲だけYMOが再結集してやった“アブソリュート・エゴ・ダンス”のアンドロイドな琉球メロディーや、“キャスタリア”のようなエッジーな無機質ポップの先鋭性がジワジワと耳を突く。ブライアン・イーノやデヴィッド・ボウイと並んで一線に立っていたことが思い出される。
今回リリースされた編集盤『NEUE TANZ』は、DJとしてのテイトウワの腕が冴え渡った名盤となったが、その中心となるリズム感覚にはYMOのとてつもない未来性が引き出された。1曲目“開け心─磁性紀─”はフジカセットのCMのために作られた曲だが、この曲にはすでに次作『BGM』で試されるミニマル・テクノの萌芽がある。すなわち、90年代にデリック・メイやジェフ・ミルズ、日本では電気グルーヴによって世界に吹き荒れるフロア・テクノの予言的音楽性だ。当時は比較的単調なリズムぐらいに思われたが、この曲が『BGM』からの“バレエ”、さらに坂本龍一の“ライオット・イン・ラゴス”に繋げられるこの盤の鮮やかさは凄まじい。『NEUE TANZ』の前半を聴けば、YMOは90年代や2000年代のサウンドを予見していたことが明瞭にわかるだろう。
さらに『BGM』からの“千のナイフ”での坂本のシンセサイザー・ソロ音、“スポーツマン”における細野のテクノ・パーカッション音など、鍛え抜かれた音色が砂原良徳の渾身のマスタリングによって引き出されていることも特筆すべき。〈いまの耳〉によってこれだけ現代性が出る、まさにYMO音源は無限の可能性を秘めた日本最高の財産なのである。 *サエキけんぞう
文中に登場した作品を紹介。
〈Collector's Vinyl Edition〉と銘打った45回転アナログ盤2枚組でリリースされるYMOの初期3作。
祝・リマスター復刻! 80年代に残されたYMOのエッセンシャルなディスクをおさらい!
マーティン・デニーの“Firecracker”を、シンセを使用してエレクトリック・チャンキー・ディスコとしてアレンジする、という細野晴臣の案にクセナキスなどの電子音楽に造詣の深い坂本龍一と新方向を模索していた高橋幸宏が賛同して誕生したYMO。78年発表の初作『イエロー・マジック・オーケストラ』には生演奏と自動演奏を同期させ、例のないグルーヴの創出を試みる3人の姿がある。
そこに吉田美奈子のコーラスを加えるなど華やかさを演出したリミックス版『イエロー・マジック・オーケストラ』で海外進出を果たす彼ら。全米公演が盛況だったという報せと共に届いたのが『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』だ。“ライディーン”や“テクノポリス”といったシンボリックな名曲を含むこの2作目。世界標準の音楽を奏でる風雲児たちに新奇なものを求める聴衆が飛びつき、3人は瞬く間に時代のアイコンとなる。テクノ・ポップ・ブームの大波に煽られ、第1回世界ツアーの模様を収めたライヴ盤『パブリック・プレッシャー』はチャート首位に。ソウルのカヴァーなどにスネークマン・ショーのコントを挿み込んだ怪作『増殖』まで大ヒットする。が、彼らはすぐさまニューウェイヴの影響が色濃く、内省的な手触りの『BGM』を制作。受け手側の感受性を試すようなアプローチを仕掛ける。さらにサンプラーを多用した『テクノデリック』ではミニマル音楽やアンビエント音楽との近似性を感じさせる実験的な音作りを展開、よりコアな表現へと向かう。そしてガラリと方向転換し、歌謡曲な気分を反映させた『浮気なぼくら』を発表。みずからの役目を終えたかのように散開へ向かう。
YMO誕生40周年の今年、S・E・Tのコントを採用した最後のスタジオ作『サーヴィス』、散開ライヴを収録した『アフター・サーヴィス』を含む10作品のリイシューが始まる。第1回分は初作2種と2作目の3枚。45回転2枚組アナログ盤やハイブリッドSACDといった仕様によるYMO体験は多くの新たな発見をもたらすはず。 *桑原シロー
YMOのアルバムを紹介。
YMOのイディオムを継ぐもの、この10年
〈ダンス・ミュージック〉という前提で作られているかそうでないかの違いが当時モノと比べてあったとしても、〈テクノ・ポップ〉という言葉がふたたびホットなワードになったのは、中田ヤスタカによるあれこれ、なかでもPerfumeの登場によるものであったことは確か。 *久保田
T・E・C・H・N・O・P・O・L・I・S……TOKIO♪から30年。テクノというよりYMOへのオマージュのみで創られた初音ミクオーケストラ。当時鮮烈だったヴォコーダー・ヴォイスに代わって、ここではボーカロイドが主役。 *久保田

マイケルの死から1年半後に発表されたアウトテイク集、そのなかでついに陽の目を見たのが、未曾有の大ヒット・アルバム『Thriller』に収録されるかも知れなかったYMO“ビハインド・ザ・マスク”のリアレンジ版。にしても、マイケルの目利きの良さったら。 *久保田
久しぶりの全曲ヴォーカル・アルバムということで話題になった本作。アメリカの古き良きポップスのカヴァーやオリジナル曲を織り交ぜて、YMOの要素でもあるエキゾティシズムを探求。洗練されたサウンドと味わい深い歌声で、古くて新しい歌を生み出した。 *村尾
ジェイムズ・イハ、高桑圭、堀江博久、ゴンドウトモヒコらとバンド体制でレコーディング。メンバー全員が曲作りにも参加したこのアルバムは、60~70年代のロックをベースに、円熟したバンド・サウンドのなかに瑞々しいポップセンスが息づいている。 *村尾
当ユニットのリーダー、MITSUKUNIは、YMOで音楽に目覚め、プレイヤーとしてフュージョン、アシッド・ジャズを通過して現在に至っている。YMOの背景にジャズ/フュージョンがあったことが、このカヴァー盤を聴くとぼんやり見えてくる。 *久保田
アン・ルイスやバナナラマなど、ダンス・クラシックのカヴァーをキメてきた彼女たちが次に取り上げたのがYMO。代表曲のフレーズを大胆に編み込み、ヴォーカルを乗せてアゲアゲのダンス・チューンに仕立てた、その名も“RYDEEN~Dance All Night~”。 *久保田
細野晴臣との交流も深い星野源。日本人というフィルターを通したダンス・ミュージックというアイデアや、アルバム・タイトル、US盤『Yellow Magic Orchestra』を彷彿とさせるジャケのデザインなど、本作にはYMOのカケラが散りばめられていた。 *村尾
テイトウワ、小山田圭吾、砂原良徳など、YMOチルドレンたちと高橋幸宏が結成した新バンドのデビュー作。ファンク、ロック、果てはムード歌謡などさまざまな要素を融合したエレクトロニックなサウンドに、YMOの遺伝子が深く刻み込まれている。 *村尾
YouTubeの再生回数が1億回を超えた2016年のモンスター・ヒット“PPAP”。1分そこそこの楽曲で鳴り続ける〈ピコピコ〉サウンドの向こうには、YMOを通り越して草創期のテクノの匂いが。そういえばピコ太郎さん、好きなアーティストのひとつがクラフトワークでした。 *久保田

小学生の時に食らったYMOの衝撃に始まる石野卓球の音楽人生。当時ン百万円する機材を駆使して作られていたテクノ・ポップも、いまではMacのプリインストール・ソフトでこんなアルバムが作れちゃう時代。タイトル曲には細野さんのソロの匂いも。 *久保田
〈非同期的な音楽〉をテーマに、アナログ機材中心で制作された現時点での最新アルバム。ピアノやシンセを中心に、ノイズや映画の台詞なども織り交ぜて音響彫刻のように立体的なサウンドを構築。教授の音に対する研ぎ澄まされた感性が光る作品。 *村尾
サカナクション 魚図鑑 NF/ビクター
線上にあるものはもちろん違うが、テクノ・ポップとバンド・サウンドを結びつけている点において、サカナクションは正統なYMOチルドレンと言えそう。“新宝島”のMVにおける「ドリフ大爆笑」のオマージュも、きっと“君に、胸キュン。”経由かと、いまさらながら思ったり。 *久保田
YMO“テクノポリス”は、坂本龍一がピンク・レディーの楽曲を分析して作ったと言われているが、近いことをつんく♂がやったらこうなるということかな!? かの2人組のような猥雑さも忍ばせながら、2018年に生まれ出たテクノ・ポップ・ユニット。次も楽しみ。 *久保田
テイトウワによるソロ・ユニット。YMOを語るとき、忘れてならないのがユーモアのセンスだが、本作には砂原良徳に加えてバカリズムが新メンバーとして加入。笑いとテクノが融合したサウンドは、YMO『増殖』に通じるものがあった。 *村尾













