いい時間リターンズ。ただただ素晴らしい作品をごくごくマイペースに届けてきた、聴く者の心をゆらす才人の新作は、今度も極上のひとときを約束してくれる……
その心がゆれる時があるとすれば、彼の楽曲にゆったり身を浸すひとときもその最良の一瞬に他ならない。文句なしの傑作として愛されている2012年の『ひとつになるとき』から6年、EVISBEATSのニュー・アルバム『ムスヒ』は新たな極上の〈いい時間〉を約束してくれる。限られたライヴ活動を除けばあまり表に出てくることもない彼だが、その最大の魅力は、根源的なグルーヴの心地良さと歌心をピースフルなヴァイブで満たした、緻密にして大らかなソング・クラフトそのものだ。

沖縄からインドに至るまで多彩なアジアのトラディショナルを下地にしたネタ選びの妙もあり、その登場時から定評のあった彼のカラフルな音作りは、往年のジャジー・ヒップホップや最近のシティー・ラップ文脈における洒落た佇まいともリンクするのはもちろん、ソウルやジャズなどの洗練性やメロウネスを転用して〈ブラック・ミュージック〉コンシャス化した昨今のインディー・リスナーにも発見されるべきものだろう。何より、田我流をフィーチャーした“ゆれる”(2012年)は、往年の七尾旅人×やけのはら“Rollin' Rollin'”(2009年)からtofubeats×オノマトペ大臣“水星”(2012年)、近年のSTUTS×PUNPEE“夜を使いはたして”(2016年)に至るまでの、ライフサイズ&リリカルなアーバン・メロウの究極形として広く親しまれたのも彼の名前を大きくした。
逆に言えば、その“ゆれる”などで新たなリスナー層に広く魅力を知らしめたのは間違いないし、そうでなくても時代が一巡り以上しているわけで、EVISBEATSの出自を知らない人も多くなっているだろう。もともと奈良出身の彼はラッパーのAKIRAとしてOHYAとNOTABLE MCを組み、大阪から台頭した韻踏合組合の一員として表舞台に登場(トラックメイクの際は当初Bamb!aを名乗っていた)、2004年にグループを脱退してEVISBEATSとして作曲/プロデュース活動を開始している。AMIDA名義でマイクを握りつつ、KREVAやSHINGO★西成をはじめ、般若やRHYMESTER、ET-KING、BASIらにトラックを提供して名を上げてきた。それらの成果(の一部)はこのページにズラリと紹介している通りだ。一方、ソロ名義作としては自身のAMIDA STUDIOより初作『AMIDA』(2008年)と先述の『ひとつになるとき』をリリース。オリジナル・アルバムという意味では寡作にも思えるが、インスト集やミックスCDの自主リリースはコンスタントに続けており、近年はそれらに収めたエクスクルーシヴ曲を7インチでシングル・カットするなど、さまざまな角度からミュージック・ラヴァーの心を掴んできた。
そしてこのたび、先行7インチ『夢の続き/HELLO』を受けて届けられるのがサード・アルバム『ムスヒ』だ。耳慣れない表題は〈産霊(むすひ)〉のことで、生命あるものを産み出し作り出す行為のことだそう。まさに“ゆれる”の続きとして田我流を迎えた話題曲“夢の続き”をはじめ、人懐っこい気質がどこか通じ合う手合わせとなった“オトニカエル”のLIBRO、さらには2曲にアーシーな歌唱を挿入するCHAN-MIKA、すっとぼけたようなループの楽しさとマッチした“作ってあそぼ”の鎮座DOPENESS、たおやかな“めばえ”に生命力を注ぎ込むPhokaといった声のゲストを要所に迎え、制作パートナーの前田和彦、PUNCH&MIGHTYでも活動を共にするMICHEL☆PUNCH、初作から作詞に携わってきた伊瀬峯幸(神社の神主で、元RAGING RACINGのラッパー)という馴染みの面々が助力している。
そこはかとない陽気なエキゾティシズムと横町感覚に溢れた優しい音と言葉の響きは、これまでの作風と同じく祝祭的な鮮やかさと懐かしい歌心を備えたもの。気難しい戒律ではなく、日常に即した心の置きどころとしての大衆的なスピリチュアル感覚も濃厚で、アミニズムや自然崇拝に通じる……と大袈裟に言う必要もなく、そこに横たわるのは穏やかな日常を良しとする美意識と言い換えてもいいだろう。より良い日々をより気安く生きるための美しいサウンドトラックとして、この『ムスヒ』は優しい夢の続きを見せてくれるはずだ。
『ムスヒ』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
改めて聴かれるべき珠玉のEVISBEATSワークス(の一部!)

前年の編集盤『Volume.0』と初作『クリティカル11』を経たこの2作目では、同年の『The Infumemas...EP』より改名したEVIS BEATSが約半数のトラックを制作。スパイシーな表題曲など印象的な曲が並び、NOTABLE MCとMINTの祭り曲“お熱いのがお好き”が特に快調だ。 *出嶌

韻踏を離れたEVISBEATSの名を上げたのは本ベスト盤でも聴ける“ラップおじいちゃん”(2005年)だろう。AMIDA自身に加えてKREVAもマイクを回す沖縄×バングラなノリで、同時期のKREVAにも通じるバウンシーな作風が痛快。 *出嶌

モーツァルトの〈アイネ・クライネ・ナハトムジーク〉を大胆にループしたシングル・ヒット“国民的行事”は、エビス印の自由な発想が炸裂した出世作。ソロでは自作トラック中心だったKREVAが惚れ込んで起用したのも納得。 *北野

“いい時間”の歌詞を書いたことでも知られるイルリメは、かつてEVISBEATSとセッション・ライヴも行った仲。本作収録のジャンクなアゲ曲“イルリメNo.5”では、AMIDAがひょうきんラップでオイシイところを奪取! *北野

かつて韻踏合組合の同胞だったMINTの初ソロ作に、EVISBEATSはイントロ曲と“ごめんねG. O. D.”の2曲を提供。特に声ネタのストイックな重低音ビートを寄せた後者では、AMIDAとしても鋭い韻の応酬で神にも噛みつく。 *北野

エモい地元讃歌から風俗ネタまで、何でもアリのドリーム・ランドが広がるサ上とロ吉の初アルバムに、EVISBEATSは“おかしな話”を提供。弦楽器が優雅に舞うトラック上でサ上が妄想モテ話を垂れ流すクセの強い1曲。 *北野

ソロ活動の本格化から4年、初のアルバムはお経も沖縄民謡も童謡も垣根なく取り込んで醸成させた逸品に。お礼返しとなる908や茂千代、ゴスペル歌手の吉坂和麿ら客演陣も多様なので、ともすればゴチャつきそうだが、それを音の曼陀羅として滑らかにまとめ上げるのが阿弥陀マジック。 *北野

ワンダーなイントロからニヤリとさせられる“陽あたり良好”(2008年)を前田和彦と共同で制作。主役の熱気とパーカッシヴな“Apache”のノリが高め合う楽しい仕上がりだ。翌年には“大阪にどつかれて”のリミックスも担当。 *出嶌

ユーモラスな話芸が加速したラスボスの5作目では、ハモンド・オルガンのネタ使いがジワジワと熱い“天使と悪魔”、バレエ音楽をフリップしたような“ケータイ”でビートを提供。ヴァラエティー感の増した作風に貢献している。 *北野

外部プロデューサーを多数起用した、ヴェテランたちの復帰第1弾アルバムに、EVISBEATSは“New Accident”のトラックで寄与。女声がソウルフルに吠え猛るホンキートンクなファンク路線で、熱量高いライムを引き立てる。 *北野

当時RomancrewのMCだった将絢とのコラボ名義で、KREVAのレーベルより発表された5曲入りEP。夜の空気にゆっくり溶け込むようなメロウネスで、将絢の色気が漂う低音フロウに心地良い揺らぎを与えている。これは男前。 *北野

古巣の結成10周年記念アルバムを全曲プロデュース。各人のソロやユニット曲を含む全20曲の大ヴォリュームということで、笠置シヅ子らの和モノからサルサ、アラブ音楽まで、ネタとビートの振れ幅は過去最高かも。MINT、だるまさんも駆け付けた全員集合曲“前人未踏”でのラップも熱い! *北野

アンダーグラウンドで鳴らすMCの2作目を全曲EVISBEATSが制作。全体的にジャジーかつ影のあるサウンドメイクで、主役の成熟した一面を演出している。AMIDA名義でShing02と共にマイクを回す“ら組”は必聴。 *北野

リラクシンな極上の“いい時間”、田我流との“ゆれる”という先行曲の流れを汲む2作目。気張らないスタンスは音と歌詞の両面に表れ、DOZAN作詞のゆるレゲエ“ギャーテーギャーテー”やCHIYORIがアンニュイな声を浮かべる“Again”など、時間が緩やかに流れるような名曲揃いの一枚だ。 *北野

『ひとつになるとき』以降のメロウなインスト曲を中心に、盟友のDJ MIGHTY MARSがDJミックスした作品集。AMIDA名義による未発表のラップ曲や“ゆれる”の改装版となる“I CAN”などもあり、ゆるっと楽しめる気軽さが魅力。 *北野

初期の代表曲“ゲットーの歌です(こんなんどうDEATH?)”からEVISBEATSとはたびたび手合わせしているSHINGO★西成。ここでも晴れやかなホーンの鳴り響く“青いサムライ”をEVISと前田和彦が共同で手掛けている。 *出嶌

ここに収録の“棄てるなどして”は、囁くようなラップと“Berimbau”を引用したEVISBEATSらしい手捌きがまったり溶け合った哀愁ボッサ名曲。術ノ穴との仕事では環ROY×Fragment曲のリミックスも記憶されるところだ。 *出嶌

成熟した表現で心地良い音風景を描き続ける韻シストのMC。このソロ3作目では相性の良すぎるEVISBEATSが9曲もプロデュースしていて、そのなかでも“It's all good”を吹き抜ける眩しい風通しの良さは格別としか言えない。ピート・ロックっぽく響く“あなたには”の温かみも気持ち良し。 *出嶌

ハワイと東京を股にかけて活動するラッパーの2作目に、瞑想的な浄化トラック“Nakanaka”をはじめ3曲を提供。アジア趣味の“このスタイル”も良いが、ヴィンテージ・スカ風の荒々しいホーンを使った“ダンス”に痺れる! *北野
ラップ曲もいくつかあるももクロだが、本シングル収録の“堂々平和宣言”は鎮座DOPENESSが作詞、EVISBEATSと盟友のMICHEL☆PUNCH、KEIZOmachine!(HIFANA)が共同でトラックを制作。バングラ風の異形ポップに。 *北野

EVISBEATSのミックスCD『SPACE SHIP MIX』(2013年)で彼の新曲“蛍”に招かれ、前年の“SAMSARA”でもプロデュースを仰いだ気鋭のラッパー。今作でもEVISと組んだ“Sitting In My Chair”で無国籍情緒をのんびり燻らせる。 *出嶌

Sick Teamなどでも知られるプロデューサーの2作目に、珍しくEVISBEATS名義でラッパーとして客演。モノトーンの寂寞とした雰囲気漂う“WDL”にてビートメイカーとしての矜持を吐く。阿弥陀と仏陀の邂逅ここに。 *北野
フレンズ/科楽特奏隊で活躍する一方、客演も数多いシンガー・ソングライターのソロ作にて、EVISBEATSはPUNCHと共に“HIT NUMBER”をリミックス。flex lifeあたりを想起させるアーバンな手触りで原曲超えの逸品に仕立てている。近年のリミックス仕事ではjizueの“I Miss You”も出色。 *出嶌

日々の生活への感謝と愛を綴った名作のラストを飾る“Letter”は、EVISBEATSと前田和彦のコンビによるもの。冬の陽射しのように柔らかなビートと優しいピアノに乗せてZORNが娘たちへ贈る手紙は、ちょっと感動的すぎる。 *北野

