ブラジル生まれのボサノヴァやサンバが、日本で人気だということは今更いうまでもないが。それを歌うシンガーもまたずいぶんと増えてきた。しかもその大半がギターの弾き語りであることを考えると、いかに“スタイルからのボサノヴァ”がわが国で普及しているかがよくわかる。
透き通るような声を持つ近田ゆうきもまた、ボサノヴァに魅せられ弾き歌う一人。2007年あたりからスポットで歌い始め、2011年には、サンバやボサノヴァを集めたアルバム『Samba Sem Nome』を名ピアニスト、クリストヴァン・バストス等のサポートを受けてリオデジャネイロで録音、リリースしている。
そんな彼女がセカンド・アルバムをリリースした。さらにブラジルを追い求めて…と思いきや、1曲を除き、他は全て日本語。曲のセンスもブラジル風では無い。かつての大貫妙子を想わせるナンバーが並んでいる。
「オリジナルは昨年の初めくらいから書き始めたんです。ボサノヴァやサンバを歌ってきましたけど、やはりポルトガル語での表現はお客さんとの距離で越えられない部分があるし、日本語のもっている力も意識しはじめたんです。そのきっかけになったのが青葉市子さんのステージ。同じ弾き語りでもこういった世界があるんだと思って、自分の曲で自分の音楽を表現したいと考えるようになったんです」
こうして生まれだしたオリジナルに、レコード会社の担当者が注目して、このアルバムが生まれたという。
「ボサノヴァのコード感や、ブラジルのエッセンスについては一切考えないで、自分の内面にあるものを一番気持ち良く聞こえるように作りました」
柔らかくさらりと言ってのけるが、そんなに簡単にこれほど完成した世界は作れない。聞けば5歳でピアノを始めて、進学した音大ではピアノと発声を学んだというからバックボーンがある訳だ。そのまま音楽の道へ、という周囲の期待を裏切り、グラフィック・デザイナーとして身を立てたというから面白い。そしてある時、一度打ったはずのピリオドを帳消しにする出会いがやってくる。
「雑貨屋さんで買ったジョアン・ジルベルトのアルバムに衝撃を受けて、それから音楽で表現をしたくなって。遅かったけれど、ようやく音楽に携わっていたことを親に感謝しました」
最近のライヴではブラジル音楽とオリジナルが半々くらいでお客さんの反応も上々だという。それならば、彼女にはさらにブラジルのセンスと彼女の感性が融合した“うた”を望みたい。なかなか実現しない、そんな“うた”を彼女だったら生み出してくれると思うのだ。
LIVE INFORMATION
『5月の光』発売記念LIVE
○7/13(日)西荻窪 Copo do dia
○25(金)横浜 サージョーンズカフェイタリアーノ
○26(土) 越谷 音楽カフェ ブロッサム
○8/2(土)馬喰町 ギャラリー アムコ
○23(土) 軽井沢 ナチュラルカフェイーナ
○9/2(火) 渋谷 JZ Brat
○10/4(土) 本郷三丁目 求道館(東京都指定有形文化財)ソロコンサート