もしもスタジオジブリがサッカーのワールドカップを題材に映画を作ったら、そのサウンドトラックはこんなふうになるのかもしれない。Wiennersのニュー・アルバム『DIAMOND』は、そんな奇想天外な熱狂が渦巻く、文句なしの傑作だ。
「今回いちばんやりたかったのは、Wiennersのなかにある音楽性をひとつにまとめることだったんです。これまでの作品は、木からバーッて生えてるいろんな枝を集めて、パッケージして出してるみたいな感じだったんですけど、今回は幹だけを出荷する感じにしたくて。パンクとかハードコアの方法論を、いまだったらちゃんとポップスとして吐き出すツールとして使える気がしたんです」(玉屋2060%:以下同)。
各楽器が緻密に組み合わさることでひとつのビートが生まれる“FUCK OFF”、アイドル歌謡路線の“片瀬江ノ島”、「コーネリアスの構築の仕方でハードコアをダンス・ミュージックにした」という“ASTRO BOY”など、楽曲の幅広さは過去最高。しかし、本作ではそれがバラバラに枝分かれしているのではなく、あくまで〈Wienners流のポップス〉に落とし込まれている。なかでも印象的なのが“天地創造”で、サンバを基調にアコースティックな楽器が重用されたこの曲は、一見縁遠いように思えるパンク/ハードコアを消化したうえでのスケール感を見事に作り出している。
「どの曲もそうなんですけど、音を面にせずに、立体的に作りたかったっていうのがあって。コンプでグッと潰して、固くして届けるんじゃなくて、ちゃんと気泡も入ってるというか、通気性がいいんだけど、聴いたらガツンと来る。でも、しっかり隙間があって、向こう側が見えることで、そのぶん大きく見える感じにしたかったんです」。
アジアをはじめとしたさまざまな国や地域の名を連呼し、さらにはサンスクリット語で合唱する“天地創造”からは、何ともWiennersらしい祝祭感が感じられる。この感覚のルーツはどこにあるのだろうか?
「ルーツは完全にサッカーの応援なんですよ(笑)。僕、小さい頃はサッカーの試合をめちゃめちゃ観に行ってたんですけど、それは試合を観に行くというよりも、国立競技場の12番ゲートでウルトラス・ニッポンに混ざってお祭りをしに行ってたんです。あの大合唱の感じ、狂乱がすべてで、あれがやりたいんですよね」。
まさにブラジル・ワールドカップにぴったりな“天地創造”の夏のイメージからは一転、アルバムのラストを締め括るのは“雪国”。無国籍でありながら、日本的な情緒がしっかり感じられることも、Wiennersの大きな魅力である。
「この曲は『千と千尋の神隠し』で湯屋から沼の神様が龍になってブワーッと出てくる、あの神々しさとスピード感を出したくて。イントロの後の一瞬のブレイクで〈あー〉って言ってるのは、お風呂に浸かってるときの〈あー〉なんです(笑)。そのイメージと、今年東京に大雪が降ったときに浮かんだ父方の田舎の秋田のイメージとが重なって、冷たく凍てついたなかでも力強く生きる人の感じを、爆音で表して終わりたくて」。
でんぱ組.incへ楽曲提供していることもあって、アキバ・カルチャーとの接点が強いバンドに見られがちかもしれないが、彼らのルーツはあくまで西荻窪のパンク・シーン。そこが偶然にリンクする時代のおもしろさを感じつつも、彼らの目線はさらにその先に向けられている。
「いまってもうジャンルは関係なくて、おもしろい音楽が溢れてるとは思うんですけど、ただゴチャ混ぜにして作ってるだけみたいなものも多いと思うんです。でも、そういったものはブームが終わったら、なかったものになってしまう危険性も感じていて。そうじゃなくて、音楽のなかにちゃんと掘り起こす要素があるというか、リズムやメロディーをひとつひとつ構築していって、〈わけわかんないものをちゃんと作りました〉みたいな(笑)、そういうことをやっていきたいですね」。
PROFILE/Wienners
玉屋2060%(ヴォーカル/ギター)、MAX(ヴォーカル/キーボード/サンプラー)、∴560∵(ベース/コーラス)、マナブシティ(ドラムス)から成る4人組。2009年、東京は吉祥寺にて結成。初の公式音源は、2010年のフル作『CULT POP JAPAN』。翌2011年にミニ・アルバム『W』をすると、でんぱ組.incに提供した“でんぱれーどJAPAN”を皮切りに、玉屋は2012年より外仕事を開始する。同年は先行カット“十五夜サテライト”と2作目『UTOPIA』を立て続け、2013年には両A面シングル『蒼天ディライト/ドリームビート』でメジャー移籍。2014年は4月にシングル“LOVE ME TENDER”を送り出し、このたびニュー・アルバム『DIAMOND』(トイズファクトリー)をリリース。