田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、この一週間に海外の音楽シーンで発表された楽曲のなかから必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。先週はアルバムも豊作でしたね」

天野龍太郎「フューチャーにジェイムス・ブレイク、ディアハンター、シャロン・ヴァン・エッテン、トロ・イ・モワ……アリアナ・グランデの新曲“7 rings”も話題でした。亮太さんは金曜日にスティーヴ・メイソンの新作『About The Light』のレヴューを書いていましたね」

田中「ええ、元ベータ・バンドのフロントマンによるソロ新作です。ソウルフル&ブライトな内容で良かったですよ」

天野「僕はやっぱり、ジェイムス・ブレイクの新作が圧倒的だと思いましたね。あと、Apple Musicが制作したフューチャーのドキュメンタリー『The WIZRD』を週末に観たりしました」

田中「今週はヴァンパイア・ウィークエンドの新曲が公開されるとか。楽しみで震えています。ちなみに、ニュー・アルバムのタイトルも〈FOTB〉というイニシャルだけ発表されて、それが何の頭文字かを予想する大喜利が起こってましたね。まったくプロモ上手だな~。では、今週も〈Song Of The Week〉から!」

 

Weyes Blood “Andromeda”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はワイズ・ブラッドの“Andromeda”です!」

田中「ワイズ・ブラッドはサンタモニカを拠点とするシンガー・ソングライター、ナタリー・マーリングによるソロ・プロジェクトですね。2014年のアルバム『The Innocents』で注目されました。この“Andromeda”は、出世作となったサード・アルバム『Front Row Seat To Earth』(2016年)以来、待ち望まれていた新曲です」

天野「彼女はジャッキー・O・マザーファッカーの元メンバーなんですよね。アメリカーナを脱臼させたような実験的なサウンドで知られるバンドですが、その経験も活かしつつ、ワイズ・ブラッドではチェンバーでフォーキー・ソウルなサウンドを聴かせています」

田中「伸びやかな歌声や詞の表現も素晴らしいですよね。よく比較されるのがジョニ・ミッチェル、そして世代の近いエンジェル・オルセンですが、ワイズ・ブラッドの音楽はもっとバーバンク・サウンド的というか、丹念に作り込まれている印象です」

天野「この曲、スティール・ギターがいいんですよね~。ジョージ・ハリスンの名曲“My Sweet Lord”にも近いゴスペル・フィーリングがあります。アンドロメダ銀河の遠さ、広大さに思いを馳せながら〈思い切ってあなたに愛を届けよう〉と歌うバラードです。ちなみに、プロデュースにはフォクシジェンのジョナサン・ラドーが参加しているとのこと」

田中「前作まではメキシカン・サマーでしたが、ワイズ・ブラッドは新たにサブ・ポップとサイン。音楽家としての成長も感じられる素晴らしい曲ですし、アルバムのリリースが待たれますね」

 

James Blake feat. Travis Scott & Metro Boomin “Mile High”

天野「続いてはジェイムス・ブレイクの新曲“Mile High”。音楽ファンの話題をかっさらっている新作『Assume Form』からのシングルです」

田中「なんといっても、ラッパーのトラヴィス・スコットとプロデューサーのメトロ・ブーミンという、いまをときめく2人が参加していることで話題ですよね」

天野「ですね。『Assume Form』には他にもアウトキャストのアンドレ3000、モーゼス・サムニー、そしてフラメンコを現代的に解釈したアルバム『El Mal Querer』が話題のロザリアが参加。ユニークでアクチュアルな人選も話題の一作です」

田中「僕はアンドレがラップしている“Where's The Catch”がダンサブルで好きでしたね」

天野「カッコイイ曲ですよね。で、本題の“Mile High”ですが、ダウナーなトラップ・ビートは、まさにメトロ・ブーミン印。前半でトラヴィスがラップ、後半でジェイムス・ブレイクが歌うという構成になっています」

田中「最後のほうでは2人が見事なハーモニーを聴かせていますね。ループする電子音や、いつまでも空気を漂っているかのようなジェイムス・ブレイクのコーラスが陶酔的」

天野「ちなみにサビの歌詞の〈mile high club〉とはフライト中のセックスを指しているとか……。この曲は、トラップ以降の環境でジェイムス・ブレイクが自身のポップスを探った『Assume Form』を象徴するシングルかなと。ムードやテクスチャー、空気感、親密さ、微妙な感情の機微といった捉えがたいものを追求した、ひそやかな、だけど音に凄みのある傑作だと思います!」

 

K Camp “Switch”

天野「3曲目はK・キャンプの“Switch”。スヌープ・ドッグやサザン・ヒップホップのドン、バン・Bも参加したデビュー作『Only Way Is Up』(2015年)が話題になったアトランタのラッパーです」

田中「これまたダウナーなトラップ・ビートはパイレックスと、リル・ウージー・ヴァートの楽曲を手掛けるボビー・クリティカルの手によるもの。反響するK・キャンプの声やループするピアノ、逆再生を使ったサウンドがメランコリックですね」

天野「〈マンブル・ラップ〉という言葉もありますが、K・キャンプの呟くようなラップもすごくドープな感じ。そういえば、冒頭で挙げたドキュメンタリー『The WIZRD』で、大ヒット曲の"Mask Off"は座って録音したとフューチャーが発言してるんです。ラップの発声というのもどんどん変化してておもしろいですよね」

田中「歌声とは対照的にリリックは〈ほら、ゴールドのロレックスだ〉とか、ブリンブリンな感じなのも不思議ですが……」

天野「〈ママ、俺はリッチだ〉ですもんね。K・キャンプはJ・コールのレーベルであるドリームヴィルの新しいコンピレーション『Revenge Of The Dreamers III』にも参加したとか。そちらもリリースが楽しみです」

 

J-E-T-S feat. Mykki Blanco “PLAY”

天野「4曲目はJ-E-T-Sの“PLAY”。ここ日本でも人気があるクィア・ラッパーのミッキー・ブランコが、トリッキーなトラックの上で飄々とラップするおもしろい曲ですね。でも、このJ-E-T-Sって何者なんですか?」

田中「僕も不勉強で知らなかったんですが、ジミー・エドガーとトラヴィス・スチュワートが2012年にスタートさせたコラボレーション・ユニットだそうで」

天野「へー。前者は10代半ばから地元のデトロイトでデリック・メイら重鎮たちと共演してきた早熟の天才で、後者はマシーンドラム名義で知られる人気プロデューサーですね。いずれもIDM/ベース・ミュージック界を担っている逸材です」

田中「この“PLAY”は、2015年のEP『The Chants』以来となる新曲です。インダストリアルなベースと〈コッコッ〉とファニーなウワモノが大暴れするトラックは、過激で実験的。なのに、ミッキー・ブランコの存在感ですごくキャッチーに仕上がっています。これぞポップだなーと」

天野「ミッキーは今年、新作『Stay Close To Music, Stay Close To God』を発表するそうですよ。ゲストアノーニ、ジャミラ・ウッズ、MNEK、ケルシー・ルー、デヴェンドラ・バンハート、さらにシガー・ロスのヨンシーなどなど……。ゴージャスですね。そちらも楽しみです!」

 

PUP “Kids”

天野「最後はトロントのパンク・バンド、PUP(パップ)の“Kids”。4月5日(金)にリリースされる新作『Morbid Stuff』から、最初のリード・シングルですね。亮太さんはこのバンド、前から好きだったとか?」

田中「そうなんです。2016年にNetflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』にハマっていて、いろいろ関連動画などを漁っていたら、マイク役のフィン・ヴォルフハルトくんが出演しているMVと偶然出会って。それが同時期にPUPがリリースしていた前作『The Dream Is Over』の“Sleep In The Heat”だったというわけで」

天野「へー。フィンくんはPUPのファースト・アルバム『PUP』に収録されていた“Guilt Trip”のビデオにも出てたんですね。“Sleep In The Heat”と“Guilt Trip”は、バンドの自伝的な物語の連作になってて、彼はフロントマンのステファン・バブコックを演じています」

田中「青春期のヒリヒリとした感覚を捉えた傑作ビデオだっただけに、新作でもぜひ続編を……と思うんですが、フィンくんは売れっ子になっちゃいましたしねー。でもMV云々は置いといて、バンドも新しいアルバムで人気爆発しそうな予感もあって」

天野「ええ。大声でシンガロング必至のメロディー・センスが最高ですね。僕も聴きながら思わず右手を振り上げてしまいましたよ」

田中「“Kids”ってタイトルから良いですよ。ステファンはこの曲を〈これは鬱屈したニヒリストから、同じような気分を抱えた別の人間へのラヴソングなんだ。それは、めちゃくちゃに壊れていて神様のいないこの惑星で、物事を明るくなったように見せてくれる出来事。ホントにほんのちょっとなんだけどね〉と語っています。完璧ユース・アンセム!」