UK/シェフィールドの5人組、ブリング・ミー・ザ・ホライズン(以下、BMTH)が快進撃を見せている。彼らは通算6作目となるニュー・アルバム『amo』で、バンド初のUKチャート1位を達成したばかり。ここ日本でも〈サマーソニック〉への出演が決まるなど、注目度は高まる一方だ。

しかし、SNS上の反応や海外のレヴューを見てみると、『amo』の評価は真っ二つに割れている。〈ディープで挑戦的な作品〉〈音楽的な刺激に溢れた冒険作〉と絶賛する声が溢れかえる一方で、〈ポップに媚びていて刺激が足りない〉という辛辣なコメントも少なくない。とはいえ、賛否両論を巻き起こせるのも、バンドが特別な瞬間を迎えている証であり、当のBMTHもこういったリアクションを待ち望んでいた節がありそうだ。

BRING ME THE HORIZON amo RCA/ソニー(2019)

 2006年に『Count Your Blessings』でデビュー、当初はデス・コアの旗手と謳われたBMTHは、アルバムを重ねるごとに音楽性をシフトさせ、今回の『amo』ではメタルやハードコアの枠に囚われない斬新なサウンドを標榜している。その変化については、フロントマンのオリヴァー・サイクス(以下オリー)がNMEのインタヴューで「俺たちはロック・シーンとの繋がりを感じられない」「ロックは何十年もレジェンドを生み出せていない」と語っているように、硬直したロック(メタル)・シーンに風穴を開けようという狙いがあったのは明白だ。

先のような発言を聞くと、ポスト・パンクの先駆者であるワイヤーが70年代後半に遺した「ロックでなければなんでもいい」や、レディオヘッドが『Kid A』を発表した2000年にトム・ヨークがまくし立てた「ロックなんてゴミ音楽だ」という名文句も思い浮かぶ。BMTHの『amo』もこの2組のように、ロックの解体/再構築を促すアルバムとなりうるのか。彼らがめざしたものを掘り下げてみよう。

 

グライムスの参加やトラップへの目配せなど、多彩さ極めたサウンド

簡単にBMTHの歩みを辿ると、クロスオーヴァー志向を推し進める起爆剤となったのが、オリーと共にサウンドの中核を担っているジョーダン・フィッシュ(キーボード)が加入した4作目『Sempiternal』(2013年)。続く『That's The Spirit』(2016年の)は、エモーショナルなメロディーとEDMマナーのエレクトロニクスを押し出し、リンキン・パークにも比肩するアリーナ・ロックの最新形を提示した一枚となった。チャートにおいても全英/全米2位をマークするなど同作で大躍進を果たせたからこそ、『amo』でさらなる実験に踏み切れたのだろう。

『That's The Spirit』収録曲“Follow You”
 

オリーは前掲のインタヴューで、「感情というのは色彩と同じで、ありとあらゆる種類が存在していると思うんだ。(中略)ギターとスクリームだけで、それをどうやって表現すればいいのさ?」と語っている。実際、制作に半年も費やしたという『amo』は多彩なアプローチが際立ったアルバムで、もはやバンド・サウンドに固執していない。

フランシス・アンド・ザ・ライツなどのデジタル・クワイアを独自解釈したような質感をもつオープナー“i apologise if you feel something”では、ストリングスと細かく刻まれたビートが有機的に溶け合っている。この曲や、ドラムンベースと流麗なピアノを用いた“ouch”など、ハードなギターや叫び声を使ってない曲も本作では目立つ。

その極め付けが、グライムス参加の“nihilist blues”。90年代のトランス/ユーロ・ポップを彷彿させるサウンドを備え、ファットな四つ打ちとエフェクティヴなコーラスが鳴り響くこの曲に、メタル・コアの面影を見出すのは難しい。しかし、EDM的なドロップや、グライムスの声が醸し出すゴシックなムードは、前作との連続性もうっすらと感じさせる。

その一方で“MANTRA”、“wonderful life”などヘヴィーなギター・リフと手数の多いドラムが牽引するロック・ナンバーも収録されているわけだが、前者ではクワイアを、後者ではシンセ・ブラスを採り入れ、音色やエフェクトのヴァリエーションは多彩。とはいえ、アレンジは複雑なのにすっきりした風通しのよさがある。緻密なレイヤーは、轟音なのに耳に痛くないBMTH特有のギター・ワークがあってこそだろう。

また、80年代風のシンセ・サウンドが光る“medicine”や、ハーフ・ステップを用いた“why you gotta kick me when i'm down?”ではTR-808風のスネアを密かに忍ばせるなど、アルバム後半にはトラップへの目配せも垣間見せる。また、トロピカルな音色を散りばめた激情的なバラード“amo”も本作のハイライトだろう。

 

ロック/メタルが〈時代を映す鏡〉となるために必要なことは?

しかし、なぜここまでサウンドを拡張させる必要があったのか? ここ数年、ラップ/ヒップホップなどがポップ・シーンを席巻し、ロック/メタルの存在感が希薄になっていることが原因のひとつなのは間違いないだろう。実は冷静にチャートを分析すると、アルバムのセールスに限っていえば、いまもロックは健闘している。2018年の全英アルバム・チャートを振り返れば、ロック系ではジョージ・エズラ、アークティック・モンキーズ、ミューズ、1975がそれぞれ1位に輝いている(メタル系の作品はない)。

なかでもUKを代表するスタジアム・バンドのミューズは『Simulation Theory』において、80年代的なシンセ・サウンドとモダンなリズム・アプローチを強調し、活路を見出そうとした。そのために彼らは、何人ものポップ畑のプロデューサーを加えて制作。こういったアプローチは近年珍しくない。

ミューズの2018年作『Simulation Theory』収録曲“The Dark Side”
 

この前年にも、クイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジがマーク・ロンソン、フー・ファイターズがグレッグ・カースティンを起用していた。サウンドに同時代性を落とし込むため、ポップ・サウンドの仕掛け人とタッグを組むのは理にかなった話で、実際に成果も上がっているわけだが、逆にサウンドの軸を見失ってしまうケースも多々ある。では、ポップの最先端ともリンクしながら、自分たちのサウンドを裏切ることなく前進するベストの方法論はどこにあるのか? 『amo』にも通じるこの命題をクリアしていたのが、同じく全英1位を獲得した1975の『A Brief Inquiry Into Online Relationships』だった。

同作はジャンルの線引きが曖昧になった時代を反映するように、ネオ・ソウルからトラップ、ラウンジ・ジャズまで軽やかに横断している。その自由で軽やかな作風も『amo』に通じるところだが、ここで注目すべきポイントは、彼らもBMTHと同じように、カラーの異なる楽曲をセルフ・プロデュースによって束ねていることだ。

1975の2018年作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』収録曲“Sincerity Is Scary”
 

1975の作品が縦横無尽にサウンドを飛び交いながら、器用貧乏に陥らない説得力を有していたのは、持ち前のエモーショナルな歌心と、80’sポップ愛に根ざしたメロディー・センスが根底にあったからにほかならない。自分たちの世界観を自身の手でコントロールすること、どれだけ音楽性のレンジを広げても、どこかに滲み出てしまうパーソナリティーを大切にすること。ロック/メタルが〈時代を映す鏡〉としてのアティテュードを取り戻すためのヒントは、例えばこんなところにあるのかもしれない。

 

こんなのはヘヴィー・メタルじゃない?

ただ、BMTHは1975より少し不器用で、青臭い部分を残しているようだ。元ルーツのMC、ラゼールをフィーチャーした、その名も“heavy metal”という曲で、オリーはこんなふうに歌う。

だから、俺は花占いを続ける
もう君に愛されていないような気がして怖いんだ
ブラック・ダリア・マーダーのタンクトップを着て
インスタに写っているキッドがこんなことを言っている
「こんなクソはヘヴィー・メタルじゃない」ってね

歌詞だけを読むと、自分たちが突き放したファンに向けて、自嘲ぎみに歌っているようにも映る。しかし、曲がアウトロを迎えると、オリーは自身の魂から絞り出すかのような声で〈これはヘヴィー・メタルじゃない!〉と叫ぶ。その声を聴くと、「ロック・シーンとの繋がりを感じられない」と語っていた彼ら自身が、誰よりもメタル(=ロック)であることにこだわり続けているようにも思えるが、はたして。本作を引っ提げての〈サマーソニック〉で、その答えを確かめたい。

『amo』収録曲“Wonderful Life”を演奏している最新ライヴ映像

 

〈サマーソニック2019〉出演決定
8月16日(金)大阪
8月17日(土)東京
http://www.summersonic.com/2019/