T-GROOVEの織り成すモダン・ディスコの銀河系

 タキシードやクール・ミリオンなどと互角に渡り合う日本のディスコ・クリエイター、T-GROOVE。クール・ミリオンとはコラボを行い、ジョーイ・ネグロからリミックスを絶賛されれば、ディミトリ・フロム・パリはレコード店でCDを買い求め、最近ではジョン・モラレスに楽曲をリミックスされるなど、いまや世界のディスコ関係者から〈キング・オブ・モダン・ディスコ〉として一目置かれる存在だ。ディスコ・リミキサーとして敬愛するトム・モウルトンの〈A Tom Moulton Mix〉よろしく国内外のリミックス作品に刻まれる〈T-Groove Remix〉もダンス・ミュージックの世界ではブランドになっている。

T-Groove Cosmic Crush: T-Groove Alternate Mixes Vol.1 plusGROUND(2019)

 そんな彼が、このたび自己名義の曲を収めたアルバムとしては日本初CDリリースとなる『Cosmic Crush -T-Groove Alternate Mixes Vol.1』を発表した。〈日本初〉というのは、過去2枚のオリジナル・アルバム(2017年作『Move Your Body』と2018年作『Get On The Floor』)がディスコ/ブギー/Gファンクを扱うフランスのディギー・ダウンからリリースされ、逆輸入の形で紹介されてきたから。ディギー・ダウンではレーベル初の日本人アーティストでもあった。今回日本でリリースされるCDは、2枚のアルバムに収録した曲のテイク違いやミックス違いなどを大量のストックの中から抜粋し、新曲のほか、ボーナス・トラックとして初CD化となるリミックス音源を加えたもの。「寄せ集めではなく一枚のアルバムとしてトータルでバランスを調整し、ニュー・アルバムとして聴けるようにしました」と本人が話す同作は、フランソワ・ケヴォーキアンら有名DJが関与したレベッカのベスト兼リミックス・アルバム『REMIX REBECCA』(87年)もヒントになっているという。

 飛行機恐怖症のため海外に行かず(行けず)、東京で日本酒や焼酎を嗜みながら音楽制作に励んでいるT-GROOVEこと高橋佑貴。青森県八戸市出身で、マイケル・ジャクソン『Thriller』がリリースされた3日後となる82年12月3日に生まれた彼は、その頃に世界を賑わしていたディスコ~ダンス・ミュージックを、後追いの強みも活かしながら新たな感覚でリクリエイトしている。

 小学校6年生から中古盤店に通い、マドンナの『Like A Virgin』(84年)を好きになった後、中学1年生の時に聴いたシックの“Dance, Dance, Dance(Yowsah, Yowsah, Yowsah)”(77年)に衝撃を受けて70年代のディスコに開眼。そこでシックのナイル・ロジャースがマドンナの『Like A Virgin』を手掛けていたことを知ると、ディスコ=ソウルへの探究心は俄然高まっていった。いまでは〈ディスコ考古学者〉を自称する彼は、T-GROOVEとして知られるようになる前からディスコ・シングルを紹介するカルトなブログの運営者としても一部では知られていた。一方、ミュージシャンとしてのキャリアも15年以上に及ぶ。レコーディング・エンジニアをめざしていた彼は音響系の専門学校に入るために上京。宅録をやりながらコンガやボンゴを独学で覚え、キーボードを買って弾きはじめたところおもしろくなり、2001年くらいから当時流行りのトランスやエレクトロニックなダンス・ミュージックを作っていたのだ。が、いちばんやりたかった70~80年代風のディスコ・ミュージックを作って売り込んでもまったく相手にされず、音楽の道から一旦は退いてしまう。

 2011年にインディーでCDを出すことになった友人のためにバラードを作って以降、しばらくはJ-Popのフィールドで仕事をしていたが、転機が訪れたのは2014年。ラム・バリオンとソフィスティケイッド・ファンクというふたつの名義でディスコ・シングルを作ってSoundCloudにアップしたところ、これがモントリオール・ディスコの大御所ロバート・ウィメットの耳に止まり、瞬く前に世界のディスコ愛好家たちの間に広まったのだ。ダフト・パンク“Get Lucky”(2013年)の世界的ヒットをはじめとするディスコ~ブギー・ブームも追い風となったと本人は言うが、ここでも彼は間接的にナイル・ロジャースから恩恵を受けていたわけだ。“Get Lucky”へのオマージュとなるファースト・アルバムの表題曲“Move Your Body”は、そんなナイルへの恩返しと言えるのかもしれない。

 T-GROOVEとしては、まずリミキサーとしてデビュー。2015年に発表されたトム・グライド feat. シャイラ・ヴォーン“Soul Life(T-Groove Philly Soul Mix)”がそれで、日本人として初めてUKソウル・チャート1位を獲得したこのリミックスが英エクスパンションのコンピ『Soul Life』に収録されて以降、彼のもとにはリミックスやアレンジのオファーが殺到する。むろん、このリミックスは表題通りフィリー・ソウルへの愛着を示したもの。MFSB~サルソウル・オーケストラのサウンドも大好物な彼は、アール・ヤングのドラムス、ラリー・ワシントンのパーカッション、ノーマン・ハリスのギター/アレンジなども細かく分析しており、それらをT-GROOVEサウンドに応用している。また、ジョルジオ・モロダーのミュンヘン・ディスコやセローンを親玉とするフレンチ・ディスコにも並々ならぬ思い入れがある彼は、ドナ・サマー“I Feel Love”とセローン“Supernature”をモチーフにしてクラフトワークのテクノ要素も採り入れた新曲“Cosmic Crush(You've Got Me Fall In Love Again)”を今回の日本リリース・アルバムで披露。ディスコ・クリエイターとしての才能とディスコ考古学者としての探究心を同時に爆発させている。

 和製ディスコにも造詣が深く、ハッスル本多の仕事を集めたコンピレーション『VICTOR DISCO TREASURES made in JAPAN selected by T-GROOVE』も監修していた彼だが、今回のアルバムにはハッスル本多を総帥とするファンキー・ビューローの名曲“The Nesy Gang”のリミックスもボーナス・トラックとして収録。これを含めてT-GROOVEがおもしろいのは、近年まで〈新しい〉とされたレア・グルーヴ的な再評価軸をあまり持たず、余計なフィルターを通さずに過去の音楽に直接ぶつかって当時の空気を再現しているところ。ディギー・ダウンから出した2枚のアルバムについても、「『Move Your Body』はイタリアのチェンジがNYサウンドを模したようなディスコ・サウンド、『Get On The Floor』ではリオン・シルヴァーズやカシーフのような直球のUSファンク/ソウルをめざした」と言うように、楽曲との向き合い方がストレートで純粋なのだ。このあたりが逆に多くのDJたちから支持される理由でもあるのだろう。

 そんなT-GROOVEサウンドが国内外のアンサング・ヒーローたちによって支えられていることも忘れてはならない。海外勢では、ギターでドゲット・ブラザーズのグレッグ・ドゲット、シンセ~エフェクト系でトゥー・ジャズ・プロジェクトが貢献。日本ではベースのベイベーことTakao Nakashimaが頑強なボトムでグルーヴを生み、最近T-GROOVEとのコンビで制作に精を出している若手ギタリスト/アレンジャーの原ゆうまはメロウで洗練されたセンスを持ち込んでいる。他にもこれまで、MANABOON、上條頌、林武蔵らがT-GROOVEをサポートをしてきたが、ボストン在住のmonologこと金坂征広とはジャズ・ファンク系ユニットのGOLDEN BRIDGEも立ち上げ、2017年に発表したロイ・エアーズ風ディスコ・チューン“Tribal”はUKソウル・チャート1位となるなど、互いのサポートにとどまらないプロジェクトにまで発展して成果を上げている。

 「アメリカに渡って国際感覚を養った有能な日本人ミュージシャンと交流することで、最近は日本にいながらにして世界基準のサウンドが生まれやすくなった」とも話すT-GROOVE。そして自身は、彼らとの交流や海外勢とのコラボで得た才知をCHEMISTRYのリミックスなどで古巣とも言えるJ-Pop界に還元している。「日本にいようがどこにいようが、同じ地球人として音楽を作っている」という彼は、まさしく人種、国籍、世代、性別を超えたディスコ・ミュージックの申し子。世界を超えて宇宙規模で音楽と向き合っているのだ。『Move Your Body』(=踊らにゃ損!)を出した時、彼はこんなことを言っていた。

「自分は音楽に意味を求めるのが好きじゃなくて。曲を聴いて楽しければいい、ノリが良かったら踊ればいいっていう考え方なんです。音楽ってファンタジーだと思っていて。だから自分の音楽では現実から少し外れたところを見せたいんですよね」

 本当に自由で楽しく拡がりのある音楽とはこういうものではないだろうか。 *林 剛

T-GROOVEがコンパイルした作品を紹介。

 

YUMA HARAの2018年作『THE DAYS』(Uplift Jazz)