もはや一過性のリヴァイヴァルに終わらない形で各方面に浸透した感もあるディスコ・ミュージック。今月は日本が誇るディスコ・マスター、T-Groove監修のコンピ&リイシューに合わせて、その広い宇宙へ飛び出してみよう!

 〈ディスコ・ミュージック〉がエクスキューズなしに評価される時代になったことは、ジェシー・ウェアやカイリー・ミノーグの最近作がスタジオ54などへのオマージュを込めた直球なディスコ・アルバムだったりすることからも実感できる。「BTSの“Dynamite”もディスコっぽいですし、僕に制作依頼をしてくる日本のアーティストも増えてきたので、浸透した感はありますね」と話すのは、世界を股にかけるモダン・ディスコ・クリエイターのT-Grooveだ。〈ディスコ研究家〉としても70年代から80年代初頭のダンス・ミュージックの普及に勤しむ彼が、このたび、ヨーロッパやアフリカから出されたレアなアルバムも含むディスコ作品の復刻に着手。なかでもTK系列の7インチを世界初CD化曲も交えてコンパイルした『T-Groove presents TK Super Disco Classics 1977-1979』は、本シリーズのコンセプトを端的に伝える一枚。中古盤が二束三文で売られ、長らく低評価に甘んじていたレコードも、T-Grooveの手にかかればみるみる輝き出す。

VARIOUS ARTISTS 『T-Groove presents TK Super Disco Classics 1977-1979』 Solid(2020)

 「当初は日本のウルトラ・ヴァイヴが発売権を持っているTKやサルソウル、ウエストエンドなどの音源を使った王道ディスコ・コンピを作るつもりでした。でも、王道なのに未CD化の曲が多く、その中から陽気で楽しくわかりやすい曲を集めた結果、8割くらいがTKの曲になったので、TK縛りのコンピにしたんです。これまでのTKコンピは、KC &ザ・サンシャイン・バンドやジョージ・マックレー、アニタ・ワードなんかのヒット曲ばかりを集めたものか、逆にレア・グルーヴとかディープ・ソウル寄りのもので、セリ・ビー(&ザ・バジー・バンチ)みたいな人は無視されていたので、そういうのも入れたかった。結果的に、王道系とレアなマニアック系が半々くらいになりましたね」。

 もともとディストリビューター的なプロダクションとしてスタートしたTKは、70年代後半にはジャンルや国籍を超えた全方位型のレーベルとなり、世界各国のディスコ・ソングを全米で紹介する役目を担っていた。

 「初期のTKはマイアミ・ローカルで地元感がありましたが、77年頃からインターナショナルなレーベルになった。後に(チェンジなどを輩出する)RFCを立ち上げるレイ・キャヴィアーノが77年にプロモーターとして入社し、その頃からフランスやカナダなどの海外のディスコ作品をライセンスしてTKが売り出すようになった。当時のTKは売り込まれたら何でも出すというスタンスで、行き場を失ったアーティストにとっても駆け込み寺的なレーベルだったようです。今回のコンピも、そんなヴァラエティ豊かな特色を反映して、前半にアメリカのアーティスト、中盤にヨーロッパものを置いて、後半でT・コネクションやジミー“ボ”ホーンとかのマイアミ系ディスコに戻る流れにしました」。

 レイ・キャヴィアーノのTKでのプロモーター経験がRFCの設立やチェンジの輩出に繋がっていくと思いながら聴くと、コンピのおもしろさも倍増する。

 「そうなんですよ。チェンジはアメリカとイタリアの合同プロジェクトで、RFCもカナダのプロデューサーたち(ジノ・ソッチョなど)と組んでレコードを作った。そんなレイ・キャヴィアーノがTKで売り出した曲を集めた、彼の原点的なコンピとも言えますね」。

 コンピには、当時のTKとフィリー・ソウルの蜜月を伝えるようなユニバーサル・ラヴの“Moon Ride”、デヴィッド・シモンズやジャッキー・ムーアも歌ったグレッグ・ダイアモンドの“Holding Back”、バーケイズ“Soul Finger”のディスコ版とも言えるモントリオール・サウンドの“Music”など、ソウル史的にも興味深い曲が並ぶ。シャイ・ライツがマーキュリー時代とシャイ・サウンド時代の狭間にTK傘下から出した79年の“Higher”はめったに話題にもされないレアなシングルだ。

 「シャイ・ライツの曲はヴィレッジ・ピープル的なノリなので、ソウル・ファンには評価されにくいですね(笑)。インフェイジョンというLAのディスコ・レーベルから出されていて、こういう機会じゃないと誰もリイシューしないでしょうし、このシングルはセリ・ビーと一緒に絶対入れようと思っていました」。

 日本では〈恋するマッチョ〉の邦題で出されたセリ・ビー&ザ・バジー・パンチ“Macho(A Real, Real One)”は、ディスコ・ヒットはしたが、邦題のセンスも含めたキワモノ感もあってC級扱いされてきた。が、同曲を含むNY録音の『Alternating Currents』(78年)は、山下達郎『CIRCUS TOWN』(76年)などにも参加していたアラン・シュワルツバーク(ドラムス)やウィル・リー(ベース)らの腕利きによる演奏で、バラードも魅力的だ。

 「杏里のセッションとも同じミュージシャンですし、AOR的な観点からしても、特にいまはドンピシャですよね。“Macho(A Real, Real One)”は、ウィル・リーの、特に後半のベース・ソロがとにかくカッコいい」。

 TK作品のストレート・リイシューは、セリ・ビーの2作がAPA原盤、旧再発CDの不備を解消したというクイーン・サマンサの2作と、T-Grooveの音楽を最初に広めたカナディアン・ディスコの巨匠ロバート・ウィメットも関与したスター・シティのアルバムがマーリン原盤となる。

 「APAはセリ・ビーを売り出すために作ったと言っていいレーベルですね。ディスコ好きとしてはヨーロッパものが多いマーリン、あと、カナダのスマッシュ・ディスコに思い入れがあります。ただ、こうして(原盤)レーベルが違っても、TKプロダクションから出されているディスコ・ソングを12インチとして出す時はTKディスコというレーベルで出されたんですよね」。

 今回のリイシューでは、プレリュードのL.A.X.、ルーレットのストラタヴァリアス、さらにフランスのブラック・サン、南アフリカのブラッシュとルネ・リッチー・アンド・ハー・コズミック・バンドの激レア・ディスコ・アルバムが世界初CD化となった。

 「L.A.X.はベルギーのプロデューサー、ラルフ・ベネターのディスコ・プロジェクトで、AOR方面で有名なピーセスが参加しています。もともとはビリー・プレストンのプロジェクトから発展したもので、いったんお蔵入りになって82年に出されるビリーの『Pressin' On』と同時進行で作られていたのも話題ですね。ブラック・サンは“Black Sun”がガラージ・クラシックとして知られています。マニアックな企画なので、ブラッシュの“Lift Off”とルネ・リッチーの“Love In Space”はmonolog×T-Grooveのリミックスを7インチで出して身近に感じてもらおうと。新旧問わず音楽が聴かれる時代なので、こういう70年代のディスコものも気軽に聴いてもらえたら嬉しいですね」。

関連盤を紹介。
左から、T-Grooveの2017年作『Move Your Body』、2018年作『Get On The Floor』(共にDiggy Down)、2019年の作品集『Cosmic Crush: T-Groove Alternate Mixes Vol. 1』(ビクター)、T-Grooveによるサルソウル音源のコンピ『Salsoul Disco 1975-1979 Compiled By T-Groove』(Solid)、MUROとT-Grooveによるモータウン音源のコンピ『Motown Disco Selected By MURO×T-Groove』(ユニバーサル)

 

T-Grooveが参加した2020年の作品を一部紹介。
左から、WODDYFUNKのベスト盤『BEST』(INTERMASS)、フィロソフィーのダンスのリミックス・アルバム『SAPIOSEXUAL』(PHILOSOPHY OF THE WORLD)、Mrプレジデントのアルバム『One Night』(Favorite/Pヴァイン)、YUMA HARAのシングル『Brazilian Rhyme/City Life』(Kissing Fish)、今井優子のシングル『It's My Time To Shine - Dance Mix』(ヴィヴィド)