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削ぎ落とした気持ち良さ

――一方で5月配信の『CARROTS』ですが、こちらは親しみやすいというか……。

松隈「そうですね。だから『STiCKS』が……告知映像にしてもらってましたけど、売れない、汚い、サビがよくわからないっていう(笑)。その『STiCKS』へのカウンターなんで、『CARROTS』は売れたいってことです。まあ、BiSHはポップで可愛い曲もウリですから、そこを無理せずストレートに出したものかなと思います」

渡辺「そうは言いつつ、これは全然意図してた部分じゃなく感じたんですけど、『STiCKS』が散らかってるという意味で言うと、『CARROTS』はかなり削ぎ落としたというか」

松隈「そうそう、シンプルだね」

渡辺「シンプルに気持ちが良いっていうか、音数も凄く少なくて、俺は松隈さんがそういうふうにしたのかなって勝手に感じましたね」

松隈「最近の風潮としてやっぱりスカスカしてる音がまた増えてきたので。僕の作り方がけっこう詰め込む感じが多かったので、2019年はちょっとスカッと始めようかなという感じはありました。“NO SWEET”だけは僕から提案した別のイメージだったんですけど、淳之介からは〈メロコアがいいんじゃないか〉っていう話もあったし」

――『KiLLER BiSH』の頃、“summertime”とか“KNAVE”を思い出す雰囲気です。

松隈「そうです、そうですね。昔のBiSHのスカスカな感じはちょっと意識しました。あと2曲目の“まだ途中”は超おもしろくて、打ち込みを初めてやらせた生徒っていうか、バンドマンがいて、センスは凄いあるから〈打ち込み勉強して練習でトラック作ってみろ〉っつって、疑似的にちょっと参加させたんですよ。そしたらまあヘタクソで、明らかにベースがズレて、ドラムのリズムも何かヨレてるんですよ、打ち込みなのに(笑)」

渡辺「でも曲はヘボくないんすよね」

松隈「良いんですよ。やろうとしてることはわかるんですけど、どうやって作ったか謎すぎて。だから気になっちゃって、とりあえずメロディー入れてみて遊び半分でみんなに聴かせたら、〈良いじゃないですか〉って、まさかの採用になるっていう(笑)。僕が福岡で育ててる空狐3000っていうバンドの奴なんですけど」

――配信レーベルのscramble edgeから出されてる方々ですね。

松隈「そうです。彼らもBiSH大好きなんですけど、採用されるなんて夢にも思ってなくて。良い勉強にもなるし、新しい風が入ってくるのは凄く良いと思って」

――こちらもミックスは松隈さんですか?

松隈「『CARROTS』のミックスは沖が全部やってて、いつも通りの布陣ですね。普通この幅は作れないし、この企画だからこそどっちもできたので楽しかったっすね。で、ここから一つのアルバムになるわけですし。まだ全曲は出来上がってないんですけど、『STiCKS』と『CARROTS』が混じっても違和感なく聴けるし、凄いアルバムになるなと思ってます」

――作り方の基本は変わらず、どれもトラック先行でやられてるんですか?

松隈「それは基本一緒ですね。先に〈こんな感じでトラック作りましょう〉っていうイメージを出して。SCRAMBLESのクリエイター、いまレギュラーで13人いるんで」

渡辺「スゲエ増えましたよね」

松隈「僕は福岡に帰りましたけど、クリエイターはほぼ東京に置いていってるので、みんな頼り甲斐が出てきたし、チーム全体もかなり屈強になってますね。で、スクール生も150人、200人弱ぐらいいるんで」

――大きいチームになりましたね。

松隈「ただ、前TVでやった時に批判されたりもしたのよ。みんなで机並べてコライトして、何かあんまり音楽的じゃないね、みたいな。ただ、皆が知らないだけで、普通にやってる人は、むしろもっと幅広く他人と一緒に作ってるので。一人で作ってる人でもミックスは誰かに外注してて、演奏もアレンジもその都度外注してて、でも作曲家にしかスポットが当たらないだけで。で、僕がやりたいのは、知らない人とやるよりサウンドのブランド感が取っ散らからないので、むしろ13人でバンドやってるみたいなイメージなんですよね。この『CARROTS and STiCKS』もいままで以上にこだわれて、かなりおもしろいアルバムだと思いますけど、やっぱ一人でやってたら絶対できないですし、いろんな作家さんから曲を集めてもこうはならないので、そこが他のチームとは違うかなというところは自信持ってますね。統一感がやっぱり出るし」

――はい。では7月の『CARROTS and STiCKS』はどうなりますでしょう。

渡辺「いま話せる範囲で言うと、僕も新たに作曲に挑戦しています」

松隈「初めてのパターンで、トラックを淳之介に渡してコライトしたんですよ。過去にもギャンパレでコンペはやったんですけど、ハルナ・バッ・チーンでさえ受かるのに、淳之介はボツられるという(笑)。そして辻山(GANG PARADEのマネージャー)が採用されるという屈辱をね(笑)」

――ああ、“とろいくらうに食べたい”の時にも出されてたんですね。

渡辺「はい、けっこう自信作を……」

松隈「うちはやっぱ質にこだわってますから(笑)。それで自信失っとったのかわからんけど、今回も〈大丈夫っすか?〉って言っとったね。で、〈Aメロこんな感じです〉って作ってきたものが良かったんで、サビを僕が作って」

渡辺「作曲の共作は初ですね」

松隈「まあ、まだ録ってないから採用されるかわからんけどね(笑)」

渡辺「怖いわ~(笑)。まあ、アルバム用のリード曲も素敵なのが出来てますし、EPをガンガン聴いて『CARROTS and STiCKS』を楽しみにしててほしいです」

 

BiSHのライヴBD「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"」(avex trax)

 

7月3日にリリースされるBiSHのニュー・アルバム『CARROTS and STiCKS』(avex trax)

 

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