活動5年目に突入してなおエッジーな道を拓いていくBiSH。アメとムチを使い分けた配信EPと来るべきアルバム『CARROTS and STiCKS』をさらに楽しむべく、今回は首謀者の松隈ケンタと渡辺淳之介に語ってもらおう!
4月1日、全国6か所の映画館で行われた映像作品「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL “THE NUDE”」完成記念上映会の最後に、ニュー・アルバム『CARROTS and STiCKS』の発表をサプライズ告知したBiSH。前作『THE GUERRiLLA BiSH』(2017年)からおよそ1年半というスパンだけ考えても待望の一作に違いありませんが、今回のリリースに際しては〈#BiSHアメトムチ〉なるプロジェクトが3か月に渡って展開されていくこととなりました。まず、翌2日には渋谷駅地下の壁面に〈剥がせるCD〉を2000枚貼り付けた巨大なピールオフ広告を掲出して話題を撒き、リード曲“遂に死”のMVを公開。3日に4曲入りEP『STiCKS』をApple Music限定配信し、5日の全国ツアー〈LiFE is COMEDY TOUR〉初日にてその全曲をパフォーマンスしました。この先は5月3日にも4曲入りの『CARROTS』を配信し、同5日のZepp Osaka Bayside公演でその全曲を披露、6月にアルバムのリード曲を公開したうえで、7月3日にはそれらを含む全14曲入り(昨年からのシングル曲や1月配信の“二人なら”などはボーナスCDに収録)のアルバム『CARROTS and STiCKS』を投下……と、サブスクとライヴを連動させながら立体的にCDリリースを盛り上げていこうという寸法です。てなわけで、今回は仕掛人の渡辺淳之介(WACK代表)とサウンド・プロデューサーの松隈ケンタ(SCRAMBLES代表)に話を訊きました。
振り切ってみたい
――まず、一連の構想はどういうふうに始まったものでしょうか?
渡辺淳之介「基本的に僕たちで共有しているヴィジョンとしても、avexの戦略としても、BiSHは尖ったものも売れそうなものも、とにかくどっちも取りたいっていうものがやっぱり一番にあって、そのなかでavexからのプロモーション案もあって、この構想に至った感じです。去年の“NON TiE-UP”と一緒の感覚ではあるんですけど、やっぱりBiSHで尖ったこともやりたい気持ちはずっとあって」
松隈ケンタ「ありがたいことに去年は“PAiNT it BLACK”からどの曲もタイアップ付きまくって、そのぶん我々やメンバー、スタッフまで含めたアーティスト・サイドから発信する曲があまりなくて、その反動が“NON TiE-UP”になったんですよね。で、今回はそれをアルバム単位で作ろうというか。ダークなのもやりたいけど、どポップな部分もBiSHの良さなので、そこをクッキリ分けてみたらおもしろいんじゃないかっていうところから作り出しました。なんで、曲は後からだよね」
――じゃあ、分ける発想が最初にあって。
渡辺「そうですね。最初は〈BLACK and WHITE〉って仮で呼んでて。なんで、ブラックな部分は突き詰めつつ、ホワイトの部分は綺麗にやりつつっていうのが一番にありましたね」
――〈アメとムチ〉にしろ、WACKの経営理念みたいなタイトルですね。
渡辺「どっちもありますね(笑)。『CARROTS and STiCKS』は、英語だとホントはSが付かない〈Carrot & Stick〉なんですけど。まあ、タイトルは基本的にカッコイイかなってぐらいの理由です(笑)」
――昨年のツアー名の〈BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR〉とも繋がってますし。
渡辺「はい。馬だったんで、そこにもちょっと掛けつつ。〈ジキルとハイド〉とかいろいろ案はあったんですけど、しっくりきたのがこの〈アメとムチ〉だったっすね」
――とはいえ、“NON TiE-UP”って、例えば幕張のエンディングとかで改めて聴くと尖りつつも凄くポップに響く曲ですけどね。
松隈「そう、あれポップなんですよね、謎に」
渡辺「まあ、僕も松隈さんも凶悪にはなれないっていうか(笑)、聴いて楽しんでもらわないと意味がないっていうところはあるっすね」
松隈「うん。だからこそ、今回の『STiCKS』ではもう一個先に行ってみたいっていうのが僕的にはあって。いままで行ってないところまで振り切ってみた初めてのパターンかな」
渡辺「おもしろかったんですけど、最初に各EP用に10曲ずつくらい作ってもらって、『STiCKS』用の曲が上がってきた時に、〈あの、もうちょいサビがあってもいいかもしんないっす〉って話をしましたよね(笑)」
松隈「そう、最初はもっと過激やったから、珍しく〈行きすぎ〉って言われて。いつも逆やのに。〈え? サビあっていいの?〉って」
――ではその『STiCKS』の話からですけど、MVもある“遂に死”がリード曲で。これが一番エクストリームな出来というか。
松隈「そうですね。作ったなかでも一番エクストリームやったかもしれんね(笑)。まだ“FiNALLY”とか“FREEZE DRY THE PASTS”はビートが普通にあるから。“遂に死”はいままでと違うものを作りたくて、鬼バンドでベース弾いてた小原just begunに初めてメインでトラックを作らせてみたんですよ。僕とはLUI◇FRONTiC◆松隈JAPANから一緒にやってて、彼はあんまり自分で曲を作るタイプじゃないんですけど、たぶんエキセントリックな人なんで、今回は〈こういう感じで作ってみて〉って好きにやらせてみて、僕がメロディー入れました。だから逆にいままでの発想にないものになりましたね」
――小原さんは“しゃ!!は!!ぬあ!!あぁ。死!!いてぇ。”のトラックも共作されてました。
松隈「そうなんです、あれも良かったんですよね。小原は今回“FREEZE DRY THE PASTS”もやってて大活躍で。で、BiSHは〈楽器を持たないパンクバンド〉って言ってて、僕はそんなに気にしてなかったんですけど、やっぱり楽曲をライヴで再現していくバンドだっていう枠が心のどこかにあったんです。でも、今回のテーマをきっかけにそれも振り切って乗り越えようと思って、打ち込みを堂々と入れたんですよ。なんで、できることがもうバーンッて広がったんで、良い意味でムチャクチャなロック、インダストリアルな方向にも行けたかなっていう感じですかね」
渡辺「マリリン・マンソンとかナイン・インチ・ネイルズの『Broken』とか、90年代のインダストリアル感がリファレンスでしたね」
松隈「ああいう人たちってセンス系の音楽だから、セオリーがないんですよ。もう、あの人たちがやってそれで成り立つ音楽なんで、難しかったですね(笑)」
渡辺「でもやっぱ僕も自分の引き出しにあるものを聴き直して改めて思ったのは、あの時代はホントにおもしろかったんだろうなと思ってて、リンキン・パークとかが出てくる前の感じというか。そんななかにPJハーヴェイみたいな感じの子もいたりとかして……まあ、全体に暗いっすね(笑)」
――90年代US特有の暗さですよね。
渡辺「そうっすね。ニルヴァーナとかも含めですけど、あとはマッドハニーとか。『STiCKS』のほうは全体的にそのへんの暗い雰囲気を意識してます」
松隈「おもしろいのが、『STiCKS』のミックスは僕が全部やったんですよ。いつもはうちのエンジニアの沖(悠央)が全曲やるんですけど、もうエンジニアをかます時点で普通のものになるというか、やっぱりああいう人たちの音っていうのは、エンジニアがセオリー通りやっても絶対できないんで、もう全部〈俺によこせ〉っつって、とりあえずディストーションいっぱいかけてみました(笑)」
渡辺「もうムチャクチャですよね、ホントに“FREEZE DRY THE PASTS”とか耳が痛いっすもんね(笑)」
松隈「〈意味わかんない音にしてくれ〉ってずっと言うんで、〈なぜこのシンバルのデカさにした?〉とか、そういうことばっかり考えました」
――緩急もヤバイですし。
松隈「アハハハ。〈こっからくるんや!〉みたいな、聴いたことない角度からシンバルきたりとか、いろいろ音楽的にも細かいことにこだわってみました」