ストイックで不敵なビートとラッパーたちの言葉が連鎖して紡ぎ出すストーリー――気鋭のトラックメイカーが8以上の9を叩き込んだ渾身のファースト・アルバム!
「DJだと作品に参加したいと思ってもなかなか機会がないから、自分でもトラックを作ろうと思って。たまたまTV観てたらAKB48の総選挙でトップ7が〈神7〉って呼ばれてて、じゃあ俺は〈神8〉でLORD 8ERZにしようって(笑)」。
そんなきっかけで6年ほど前からトラックメイクを始めたというLORD 8ERZ。もともとDJ GATTEMの名で知られた彼は、高校の同級生だったDJケミカル(FUNKY MONKEY BABYS)らと共に10代でDJを始め、六本木のクラブでキャリアをスタートしている。後の活動にも繋がるJUSWANNAのメンバーらと現場を共にしながらDJ活動の足場を固めてきた彼に道を拓いたのは、MSCの漢 a.k.a. GAMIだった。彼がDJミックスを担当した漢の『HURTFUL MIXED BY DJ GATTEM』(2012年)は、鎖GROUPの第1弾作品であると同時に、LORD 8ERZ初のトラック提供作にもなっている。
「昔は自分名義の作品を作りたいっていう考えはなかったんですけど、鎖ができる前から漢くんには作ったトラックを聴いてもらってて。そこが始まりですね」。
それ以来続く関係は、鎖GROUPの連続リリースを飾った初EP『8ERZ EP』を経て、今回のフル・アルバム『More Than 8』へとLORD 8ERZを導いた。ここには、ウータン・クランら90年代アクトを入口にヒップホップへ足を踏み入れた彼のベーシックなセンスが強く反映されている。
「EPを出すまでは周りの音楽の流れとかが気になってたけど、いまはクリエイティヴ面のことやビジネスに関わってくれてる人、生活のための金以外のことはどうでもよくなった。自分が音楽を始めた時、トラックを作りはじめた時の芯がこのアルバムにはしっかり詰まってると思います」。
マスタリングを務めたI-DeAの存在なくしてこの形にはならなかったという本作は、一度完成したトラックに手直しを入れるなど音にこだわって仕上げたもの。しかしそれ以上にLORD 8ERZが大事にしたのは、〈作品として何を語るか〉だったようだ。本作は「劇画調のイメージで一人の男の人生を途中まで描いた」ストーリーテラーとしての作品であり、全体が「目標を持って何かを達成しようとしている人のストーリー」を表現したものになっている。
イントロで夢から覚めた主人公は、怒涛のビートとD.D.S×B.D.の迫力のマイク回しで「非現実な世界」を表現した“CATASTROPHY”へ。緊張感あるトラックでD.OとDOGMAが(本作では異色の)イリーガルなストーリーを繰り広げる“LOOP”や、DEV LARGEのイズムを継ぐMEGA-G、GOCCI、DJ MUTAとの“ILL 生存者”を経て、“1q82”ではSIMON、仙人掌、ISSUGIの同年代リレーが実現。また、同じ境遇の仲間と出会い、覚悟を決めるまでを描いた三島、KILLAH BEEN、RAW-Tとの“STORY BEGINS”と、道を迎えた“STAND ALONE”はストレートなサンプリング主導のオケで作品全体のテーマをエモーショナルに際立たせるもの。漢の参加がNORIKIYOの希望で実現したという両者の“9ROSSLORD”でストーリーは分岐点を迎え、抜けの良いネタ使いのトラックにBUDDHA MAFIA(NIPPS & CQ)のユーモアが映える“IT'S COOL ~Mafiaの休日~”で本編は終幕。
「分かれ道で選択した先に次の世界があって、そこで主人公が何をするか、次の作品のイントロにもなるアウトロで締めるっていう構成になってます」。
リスナーも共感しうるリリックを随所に込めた本作を〈第1章〉として、構想中のセカンド・アルバムはその続きになるという。加えて最近の彼は語り手たちに明確なディレクションをつけるべく、みずから〈仮歌〉ならぬ〈仮ラップ〉にも挑戦しはじめたそうだ。そうやって次の作品、次のステップに向かう気持ちが、いずれは彼自身をマイクの前に立たせることもあるかもしれない。完成したアルバムすらも踏み越えて、ストーリーは続く。