新たな挑戦に臨み、闇の中でもがき、いまここに戻ってきたKEIJU。華々しい飛躍の裏で葛藤を抜け出した男が語る『heartbreak e.p.』とその先の表現とは?

 繊細さと大胆さを併せ持った“Summertime”にて賢才を発揮する小袋成彬、RIRIと初コラボを果たし、またひとつ新たな魅力を開示したKEIJU。同曲の制作を通じて感じた小袋の印象についてKEIJUは「普段からのきれいな言葉遣い、知的な部分が音楽性に出てる」とコメント。一方、RIRIの曲はランニング中によく聴いていたそうで「爽やかな気分になれて、俺にはすごくハマる」のだという。そんなKEIJUが、今年2月の配信EP『heaetbreak e.p.』に新たな3曲を加え、このたび〈deluxe edition〉としてCDリリースした。2017年にはtofubeats“LONELY NIGHTS”、Awich“Remember”といった客演曲が話題を集め、翌年にはメジャー・デビュー曲の“Let Me Know”も配信ヒットさせてきたKEIJUだが、今回のEPのプレスリリースには〈2018年は自分にとってとても暗い年だった〉の一文が。その言葉の真意とは一体!?

KEIJU heartbreak e.p.(deluxe edition) KANDYTOWN LIFE/ソニー(2019)

 

マインド的には病んでた

――今回の資料にある〈2018年は暗い年だった〉というコメントにビックリしました。

「結局は何事も自分の精神の話になるんですけど。例えばダサい服を着ていても自分が格好いいと思っていたら格好いいみたいな……そういう考え方が2018年は全部悪い方向に行ってましたね」

――2017年には客演曲が注目を浴び、同年末にはメジャー契約も結んだので、順調にキャリアアップしているように見えていました。

「自分の音楽が仲間に認められてないっていうふうに強く思ってたんですよね。仲間が本当に好きな曲を作れてるのかな?って思っていて」

――それは“Let Me Know”も?

「う~ん、どうでしょうか。“Let Me Know”はギリのラインかもしれない。“LONELY NIGHTS”とか“Remember”は、そのラインを越えてやったなっていうところが少しあったんです。自分の中にない音だなって多少思いながら、でも新しいトライをしていこう、みたいな。目の前のことをバンバンやっていくだけで何も考えてなかったんでしょうね。そしたら〈俺は何をやってんだろう?〉ってなってしまって。一時はリリックがまったく出てこなくなったし、フロウもまったく出てこない時期があって。マインド的には病んでたというか、疲れてた」

――何をやっても気分が乗らない。

「そう。活動を始めた18歳くらいのときから、〈俺はいつかメジャーで、ひとりでやる〉って周りに言ってて。でもメジャーで何をやりたいのかが漠然としてたから、自分がどういう音楽をやりたいのかわからなくなってしまったんですよね」

――どのようにしてその闇から抜け出したんですか?

「大阪に行ったんです。ずっとホテルに泊まって、20日間くらいかな。20日間ホテル暮らしっていうのも病むもんですね(笑)」

――何を贅沢言ってんすか(笑)。

「でも、その大阪がデカかったですね。HIBRID ENTERTAINMENTのYoung Yujiroに〈曲を録りたいんだけどスタジオ使わせてくれないですか?〉って言ったら〈もちろんいいよ〉って時間を空けてくれて。そこはHIBRIDの溜まり場になってるんですよ」

――その流れから今回収録の“tacit”が出来た?

「そう。Yujiroくんと一緒にやった“tacit”が出来て、〈Jin Doggともやりたい〉って言ってたらスタジオに来てくれて、それで出来たのが“alone”。ビートもHIBRIDのLil YamaGucciが提供してくれて」

――それ以外の曲はいつ頃作ったものなんですか?

「その時点で“we all die”も出来てたんです。でも、この曲は病みすぎてると思って配信の段階では外したんです。“too real”は去年の4月頃かな。(曲に参加している)YDIZZYはしょっちゅう一緒にいるから、何曲か作ったうちのこれを出そうと。あと、“run away”はAAAMYYYちゃんが〈私のアルバムに入ってくれない?〉って送ってきたトラックを自分のものにしたんです(笑)。AAAMYYYちゃんのヴァースだけが乗ってて、このヴァースは絶対みんなに聴いてもらいたいと思って。なんでそこから俺のモノにするっていうふうに発展したのか覚えてないけど(笑)、でも何か自分の中でピースがハマったんでしょうね」

――“run away”は女性の声が入ることで少しポップな印象がありますが、今回のEPは葛藤をそのまま吐き出していることもあって、全体的にダークな雰囲気になっていますよね。

「そこはもう、〈くたばってんぞ〉っていう感じを出そうと思ってたから。自分が作る音楽って、もとから暗いんですよ。ビートのチョイスも暗めなものが好きだし、それこそ最近だったらビリー・アイリッシュの音楽性とか好きだし。なのに“LONELY NIGHTS”とかをやったから、ふいに鬱陶しく思ったりすることもあって」

――キラキラの反動もあったんですね。

「それはそれで全部いい経験になってるんです。そういうテンションが高い曲は自分じゃ作れないものでもあるから。でも自分のソロとなると重めなことを歌うのが普通というか、そういう人生だったから。明るいビートで明るいことを歌うっていうのはやってなかったんで」

 

しっかり伝わるものにしたい

――MVを作った“get paid”はどんな思いから書いたんですか?

「母から〈あんた最近どうなの? ちゃんと生活できてんの?〉みたいなことを言われたときに〈余裕だよ〉って返したんです。そしたら〈お金は増えていても、大事な周りにいる人たちは減っていくばかりだからね〉っていうようなことを言われて。それで〈確かに〉と思って〈お金は大事にならないからいい〉っていうフックを書いたんです。ヒップホップはspend moneyする文化だけど、この曲は〈大事じゃないからいいんだ〉っていう自分なりの解釈で書いた。とにかく大事なものは減っていくっていうことを言いたかったんです」

――今回新たに収録された“so sorry”は、いつ頃書いたものなんですか?

「実はソニーに入ってから最初に出来た曲なんです。“Let Me Know”よりも前だったと思う。これは〈“LONELY NIGHTS”、良かったよ〉って連絡してきてくれた海外のトラックメイカーと作っていて、でも自分の作品では“LONELY NIGHTS”みたいな音がやりたいわけじゃないって伝えたら、〈じゃあ、こういうのはどうかな〉って送られてきたのがこのビート。フロウはお互い考えたものを送り合って煮詰めたんですけど、この感じを日本語でやったらおもしろいだろうなと思ったから、自分の中では新しいことに挑戦していこうっていうマインドがまずあった。でも、去年はそこから逃げたというか、嫌になったところもあったから配信のときには入れなかったんです」

――最初に作ったということは、メジャーでまずやりたかった方向がこの曲に反映されてるということですか?

「当時はそう思ってましたね」

――その曲を今回の冒頭に置くことで改めて自己紹介したい気持ちもあった?

「ちょっとありますね。俺の中の格好いいはこれなんだっていうのを見せたいところもあるし、いまこれを1曲目に置けば、俺の輪廻の感じと結びつくんじゃないかと。新しいことに挑戦して、でも病んで、またそこから戻ってきたっていう」

――KANDYTOWNでは秋のアルバム・リリースを発表したばかりですが、いま現在、グループとソロはどう棲み分けていますか?

「KANDYTOWNはグループだからこそ出せる〈雰囲気〉が重要で、ソロは〈本質〉みたいな。グループは一人の考えで動くものじゃないからまた違うんですけど、ソロはしっかり伝わるものじゃないと嫌なんです。ラップしてて聴き取れないとか、何を言ってるかわからないって言われるのが嫌だし、メジャーでやるってことはそういうことだと思うから。あと日本って歌とラップを絶妙なバランスでやってる人がいない。〈アイツはポップだから〉〈アイツはアンダーグラウンドだから〉って言われない奴みたいな。ソロではそういうところを突いていきたいなと思ってます」

――歌うテーマは変わっていきそうですか?

「変わっていくかもしれないですね。前は言わなかったようなことも言うようになってるし、ソロはいろんな人に届くようにという意味で幅広くやりたい。でもそれを仲間がどう思うのかっていうのはあるから、グループとの線引きをしっかりしていかないとなって思ってます。やっぱり仲間に格好いいって言われたくて始めた音楽だし、そこでどうこう言われるのがいちばん嫌なんで。なかなか難しいけど、自分の中ではやれるんじゃないかなと思ってます」

 

EP参加アーティストの関連作を一部紹介。