Maltineからの配信リリースで注目を集め、2013年にはファースト・フル・アルバム『フォトン』を発表。「小学校5年のときに作詞/作曲をするようになって、中学3年のときにDTMを始めて」という早熟な宅録スタイルによって、エレクトロニックでダンサブルなポップ・ミュージックを作り続けてきたAZUMA HITOMIが、7曲入りの新作『CHIRALITY』を完成させた。今回を機に、これまでメディア上では見せることのなかった自身の姿も公開。次のステップへ向かう気概がヴィジュアルからも感じ取れる。

AZUMA HITOMI CHIIRALITY BM tunes(2014)

 「『フォトン』はそれまで作ってきたものを全部出したという意味合いが強かったので、ある意味では今回がファースト・アルバムと考えています。ミニ・アルバムというコンパクトな形になったのは、とにかく早く出したかったから(笑)。矢野顕子さんの作品に参加させていただいたことが大きくて、そこで得たものをすぐ形にしたかったんです。矢野さんの歌い方、伝え方にいちばん影響を受けましたね」。

 その影響は、本作におけるヴォーカルの存在感に如実に表われていると言えるだろう。まず、生々しく、自在に泳ぐ歌声に耳を奪われる。これまで以上にシンガー・ソングライターとしての側面が押し出され、彼女のパーソナルな部分がより感じ取れる作品のように思えるのだが……。

 「トラックを作るのも好きなんですけど、やっぱりシンガー・ソングライターであることが軸になっているし、歌を大事にしたいんです。だからパーソナルな部分をキャッチしてもらえることはとても重要だし大前提で、これまでは自分のことを歌うのがいちばんいい表現だと思ってるところがあったんですけど、今回はそこに頼らないで作ろうと思いました。聴いた人がそれぞれ想像してくれるものにしたかったです」。

 サウンド面では、“free”や“プリズム”のゆったりとしたグルーヴ感が印象深い。フィジカルではあるが、いわゆるダンス・ミュージックのフォーマットからは緩やかに解き放たれた仕上がりだ。

 「“食わずぎらい”を先行配信したんですけど、この曲でダンス・ミュージックとして振り切れたと思ったんですね。だから、他の曲ではダンス以外のところを追求できたし、そのことが作品を完成させるモチベーションにもなりました」。

 また、エレクトロニックでありながらも柔らかな音像には、現行のクラブ・ミュージックよりもむしろ、彼女が敬愛する80年代テクノ・ポップに近いものが感じられる。

 「私は、例えば立花ハジメさんの自作楽器とか、キース・エマーソンのパフォーマンスに影響を受けていて。80年代のテクノ・ポップとか、70年代プログレとか、テクノに関係してきた音楽を採り入れて出したいっていう気持ちがあります。一言で〈ダンス・ミュージック〉と括るには抵抗のある音楽を作っていると自分では思ってるし、一見デジタルなものをアナログな表現でアウトプットすることに興味がある。バキバキでイケイケなものにはあまり興味がないんです」。

 ルーツを参照する一方で、〈同時代のものは意識する?〉という問いには「それがよくわからなくて。もちろん、おもしろい音だったりバンドだったりはいっぱいあるんですけど、馴染めるところがない(笑)」とのこと。確かに近い手触りの音楽はあれど、現行のムーヴメントやジャンルには微妙に収まりづらい作品かもしれない。だが、カテゴライズを回避しながら、誰もが享受し得るポップ・ミュージックに着地しているのが素晴らしいし、そこにAZUMA HITOMIの際立った個性を感じる。

 「めちゃくちゃポップっていうのは絶対譲れないんです。電車で隣の人のイヤホンから音漏れがしてて、それが私の曲だ、みたいのが目標なんですよね……まだそういう機会はないので(笑)」。

 

▼関連作品

矢野顕子の2014年作『飛ばしていくよ』(スピードスター)

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▼AZUMA HITOMIの作品

左から、2011年のシングル“ハリネズミ”“きらきら”、2013年作『フォトン』(すべてエピック)

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