Do You Need A Release?
昨年この世を去ったアヴィーチーから実に4年ぶりのフル・アルバムが到着。遺されたトラックやアイデアをベースに縁深いクリエイターたちが完成させた『Tim』は、彼の想いと等身大の姿を描いた美しい楽曲集に仕上がっている!
等身大のティムの姿
突然の悲報から1年余り、ついに噂されていた作品が日の目を見た。本作はまぎれもなく、アヴィーチー=ティム・バークリングの『True』『Stories』に続く通算3枚目のアルバムだ。生前のライヴ・セットに組み込まれ、音源化が待望されていた数曲はもちろんのこと、制作途中であった楽曲をコラボ・アーティストやスタッフの手によって完成に漕ぎ着けたのは全部で12曲。彼のリアルネームを冠し、いわゆるEDMが持つ華美で豪奢なアレンジは極力影を潜めており、あるのは等身大の〈アヴィーチー〉の姿。それゆえメロディーメイカーとしての突出した才能を改めて感じざるを得ない作品となっている。幾度となく共演を果たしたコールドプレイのクリス・マーティンが歌い上げ、美しい旋律のリフレインが感動的な“Heaven”、代表曲“Wake Me Up”でヴォーカルを務めたアロー・ブラックを迎えた哀愁ミディアム“SOS”、イマジン・ドラゴンズをフィーチャーしたダイナミックなアンセム“Heart Upon My Sleeve”など、一聴して彼のものとわかるフックのあるメロディーが溢れた楽曲ばかり。さらに坂本九“上を向いて歩こう”のメロディーをサンプリングした“Freak”にはどうしてもセンティメンタルな気持ちにさせられてしまう。まだ200を超える未発表曲があるとも言われているし、いつかはまたそんなサプライズを期待しつつ、いまは本作を聴きながら〈ティム〉の存在を近くに感じていたい。 *藤堂てるいえ
近作の延長線上にあるシンプルな美曲集
前提や背景を共有されすぎていることが作品にとって幸福なのかどうかはともかく、一定の段階まで完成していたとされるトラックや生前に温められていたというアイデアを組み合わせてパッケージされたニュー・アルバム。過剰なトリビュート感を演出することもなく、“Hey Brother”(2013年)の頃から関わってきたヴァーガス&ラゴラや、“Broken Arrows”(2015年)や“Without You”(2017年)など近作に貢献してきたカール・フォークらスウェーデンの仲間たちが援護した〈通常モード〉の制作プロセスも、アルバム全体が備えたパーソナルな雰囲気を最大限に演出している。
全体的には『Avīci(01)』(2017年)の頃のユーフォリックな作風の延長線上にあるシンプルなシンセ・ポップ集で、モダンなトリートメントの成果として今風のカリビアン~エキゾな情緒もソフトに纏っているあたりは、当然ありえたスタイルの変遷として違和感なく楽しめるものだろう。どこかエド・シーランっぽいと思ったらTLC“No Scrubs”を引用していた“SOS”では馴染み深いアロー・ブラックが朗々と歌い、コールドプレイ“A Sky Full Of Stars”(2014年)と同時期にクリス・マーティンと共作していたという“Heaven”、東洋的なサイケデリアの漂う“Tough Love”、坂本九“上を向いて歩こう”の物寂しい口笛をサンプリングした“Freak”あたりは弧を描く毎度のアヴィーチー節が堪能できるハイライトだ。意味深に受け止めざるを得ないホーリーな“Peace Of Mind”で幕を開け、メランコリックなダウンテンポ“Ain't A Thing”などで美麗な色合いを倍加しつつ、どこかへ駆け出していくラストの“Fades Away”で最後にふと立ち止まるような終わり方が何とも言えず印象的。 *出嶌孝次