力強く世界を駆け巡るヴォーカルがようやく辿り着いた、待望の第2章――秘められた繊細な思いからパワフルな女子を肯定する応援歌まで、これがいまの彼女のすべて!!
栄光と停滞
「このアルバムは、単に私が好きなように作ったアルバムよ。だからこそ自分のやり方で工夫することが大事だった。一緒に制作を手掛けてくれたみんなの愛とサポートに心から感謝しているし、彼らのおかげで本当に誇りに思える作品を作ることができたと思う。彼らこそ、私が心の底から何かを生み出せるように自由とスペースをくれた。制作は厳しかったけど、幸福感も感じさせてくれた。そして何よりも『Phoenix』を誕生させるまでのすべてのプロセスを誇りに思っているわ。ファンのみんな、辛抱強く待っていてくれてありがとう」。
オフィシャルの資料に寄せられた彼女のメッセージからは、ここまでの長い苦闘と、ようやくそこを乗り越えた安堵の思いが伝わってくる。ジェイ・Zが見い出した新たな歌姫として華々しくデビューしたリタ・オラ。実に6年ぶりとなったセカンド・アルバムは『Phoenix』と題されているが、まさに不死鳥のように生まれ変わった彼女は、いま新たにリフレッシュされた状況を大いに楽しんでいるようだ。
アルバニア人の両親のもと、ユーゴスラビア(現コソボ共和国)で生まれるも、1歳でロンドンに移住したリタ・オラ。6歳から歌を始め、エイミー・ワインハウスと同じシルヴィア・ヤング・シアター・スクールで学んだという彼女は、13歳の頃には「Spivs」というコメディー映画に出演。その後はクレイグ・デヴィッドやジェイムズ・モリソンの作品に参加するなかでジェイ・Zに見初められ、2008年に設立間もないロック・ネイションと契約。当時18歳だった彼女はMVにカメオ出演などもしながら、自身の音楽性を探求していくことになった。満を持しての2012年、客演したDJフレッシュ“Hot Right Now”が全英1位を獲得するや、タイニー・テンパーをフィーチャーした自身名義のデビュー曲“R.I.P”、それに続く“How We Do(Party)”まで3曲連続で全英No.1を達成。ロンドン五輪の閉会式パフォーマンスに抜擢されるという仕込みの良さも手伝って、同年のファースト・アルバム『Ora』も全英チャートで初登場1位を獲得している。アルバムの全米リリースは見送られたものの、彼女はファッションモデルとしての才覚を活かして世界へ飛び出していくことになった。
ただ、音楽活動が断続的になっていったのはその後だ。2014年には当時交際していたカルヴィン・ハリス制作の全英1位ヒット“I Will Never Let You Down”を生み、これが次なるアルバムのキックオフとなるはずだったが、その後はカルヴィンとの不和もあって先が見えない状態に。仕切り直してサー・ノーラン製の“Poison”(2015年)など自身のリリースを重ねていきながら、イギー・アゼリア“Black Widow”(2014年)やシグマとの“Coming Home”(2015年)、チャーリーXCXの“Doing It”(2015年)といったコラボ・ヒットは続き、プリンスの“Ain't About To Stop”(彼とはペイズリー・パークで数曲をレコーディングしたとされる)に参加するなどの動きもあったが、今度はロック・ネイションとの関係が悪化してシンガーとしては完全に停滞。ジェイ・Zが仲裁に入ってレーベルを円満離脱し、ようやくアトランティックに移籍したのは2017年だった。
ポップさを増した現在進行形
その第1弾となったのが友人のエド・シーランと共作したスティーヴ・マック制作の“Your Song”だ。従来のダークな雰囲気やゴリゴリのEDMとは違い、活力的に仕上がったこの軽快なダンス・ポップは、前作を知らない世代の間にもリタ・オラのイメージを構築するスマッシュ・ヒットとなった。続く“Anywhere”はアンソニー・ワットとアレッソ、サー・ノーランの制作によるエレクトロ・ポップで全英2位まで上昇し、そのMVはYouTubeにて2億4000万の再生回数を記録。こうした好況を受けて完成を見たのが今回の『Phoenix』なのだ。アヴィーチー最後のリリースとなった2017年の共演曲“Lonely Together”や、シリーズを通じて出演している映画「フィフティ・シェイズ・フリード」で披露されていたリアム・ペインとの“For You(Fifty Shades Freed)”、ルディメンタルと組んだ“Summer Love”、そしてカーディB、ビービー・レクサ、チャーリーXCXとの4人で発表した“Girls”など、すでに話題となっているトラックが満載。“Girls”の内容が実体験であるとカムアウトした彼女だが、最新ヒットの“Let You Love Me”は恋愛観をベースに自身の不安や弱さを綴った「もっともプライヴェートな曲」だという。同曲を含めていずれの楽曲でも溌剌としたヴォーカルのパワフルさは変わらず印象的だが、ポップネスを増したダンサブルな曲作りの妙は繊細なヴォーカリゼーションをもたらしている。強固なバックアップ体制の下で生まれた前作も素晴らしかったが、独り立ちして見事に成長した『Phoenix』は逞しい現在進行形のリタ・オラを投影しているのだ。
「音楽を作っている時とパフォーマンスする時、もっとも解放感を感じる」と話す通り、この後はツアーに出る彼女。来年3月の来日公演も楽しみに待っていたい。
関連盤を紹介。
『Phoenix』に参加したアーティストの作品を一部紹介。