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〈Captain Sad〉=チャットモンチーが示してくれたこと

――ワイズリーの最新作『Captain Sad』は、〈悲しみを持ちながらも、それを自分だけの光に変えて新たな場所へ進んでいこう〉ということがテーマとしてアルバム全体に流れています。そのテーマって、どんな逆境があっても遊び心を持ちながら楽しんだり笑いに変えたりすることで乗り越えてきたチャットモンチーや福岡さんの姿勢と、重なるものがあるなと思いました。

和久利「そうですね。まさに福岡さんが〈Captain Sad〉だなって」

福岡「ありがとうございます(笑)」

和久利「自分たちの変わる環境に、自分たちらしい答えを出して、周りを巻き込んで動いていく生き様は、本当にかっこいいなと思って見てました」

真舘「私たちもこれからどういうことが降りかかってくるかわからないけど、そういうことをやってくださっている方がいることで、私たちも女性だけどそんなの全然関係なく、自分たちのやりたいように変化していけるって信じることができる。それはやっぱり、チャットモンチーに教えていただいた気持ちだなと思います」

渡辺「〈完結〉の仕方もかっこいいと思ったんですよね。ネットでニュースを見たときに、ちょうど3人でいて、(和久利)泉はそこでも号泣して(笑)」

和久利「うんうん(笑)」

チャットモンチーの完結ライヴを収めた映像作品『CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~』のダイジェスト
 

渡辺「そのニュースを見たときに、悲しかったんですけど、やり切ったからこそ自分たちで終わる決断をできるというのが本当にすごいなと思って。最後まで私が思ってた存在感を崩さなかった、ということがかっこよすぎて、私、涙が出てこなかったんですよ」

――今回のアルバムに“はなればなれピーポーズ”という曲が入っていて、これはワイズリーの3人のことを歌っていますよね?

真舘「あ、そうです」

The Wisely Brothersの2019年作『Captain Sad』収録曲“はなればなれピーポーズ”
 

――これは、チャットモンチーの〈完結〉を見たからこそ書けた曲なのかなとも思いました。3人のことを歌おうとしたときに、あえてはなればなれになる未来のことを書かなくてもいいはずだし、しかもそれをすごく晴れやかに歌っているのは、チャットモンチーからインスピレーションを受けた部分もあるのかなと。

真舘「そうですね。やっぱり女性って、結婚だったり子どもを産んだりすることが、人生のどこかであるかもしれないなかで、なにかを止めずに活動していくことって……チャットモンチーの〈完結〉を見たり、他のバンドの活動を見ていくなかで、私たちにも限りがあるのかもしれない、って初めて考えたんです。でも〈いつまでに結婚したいから、いついつまでに〉みたいに計算するのは私たちらしくないかもと思って。それなら、そういうことも歌にしてみんなで笑えたらいいかなと思って、こんな曲になりました」

福岡「未来の自分たちに対して手紙が書けるって、バンドならではだよね。素晴らしい」

 

悲しみを抱きながら、それでも生きていく

――そもそも、このアルバムを作るなかで真舘さんが抱いていた〈悲しみ〉って、どんなものがあったのでしょう。

真舘「結構ずっと悲しみを抱いているかもしれないです。でも、そういうことも個性にできたらおもしろいなと思うようになって。私が悲しみを曲に出していくことで、みんなそれぞれ悲しみがあるだろうけど、それを楽しさやおもしろさに変えられたりするかもしれないなって、今回のアルバム制作中によりそう思いました。なので『Captain Sad』という名前は、上手くつけられたなと思っています」

――人との〈別れ〉をどう受け入れるか、という描写も随所で感じたのですが、誰か大切な人を亡くしたりなどありましたか?

真舘「ああ、それもありました。そういう出来事も、いろんなことを思うきっかけだったし、違う視点で見るようになったことも多くて。たとえば街を歩いていても、〈もしかしたらこの場所でも誰かが亡くなってるかもしれない。いろんな人が想いを馳せているかもしれない〉って。自分がそのときそうだったので……誰かが想いを馳せている場所かもしれないなと思うと、景色とかっていろんな人の想いがあるんだなと思った。悲しみからスタートして、いろんなことを考えていましたね。あと、自分じゃなくて、災害の地域を見て書いた曲もあります」

渡辺「でも基本的に、常に不安と戦っている私たちなんですよね。そういう〈Sad〉もあるかなと思ってます」

福岡「どういう不安?」

渡辺「自分たちがめざすべき、辿り着くべき場所とか目標に、自分たちが思っているスピードで行けるのかな、とか。〈自分たちが楽しくてやっている〉という根本が崩れるのだけは絶対に避けたいけど、それでもがんばらなきゃいけないことはあって、でもそれをどうがんばればいいのかわからない、とか」

真舘「自分たちのこと信じられないときって、なにも信じられなくて、〈イギリスの90年代を思い出すわ〉みたいなことを言ってくれる人がいても、きちんと受け入れられなかったんです。でもいま思うと、自分たちを信じられるようになったのは、私たちの音楽が何かと繋がっていくことを教えてくれた周りの方とかお客さんのおかげだった」

The Wisely Brothersの2016年のミニ・アルバム『シーサイド81』収録曲“メイプルカナダ”
 

――いままでのワイズリーは自分たちの不甲斐なさを曲で表現してることもあったけど、いまは、自分のことも信じるし周りの人も信じられるというタームにきているのかなと、アルバムからも感じました。

和久利「そうですね。〈このままでいい〉って自分たちで思いはじめたんだと思います。レコーディング中も、失敗しても録り直さなかったりしたんですけど、それもそれがいいと思ったからで」

真舘「そうだね。いままでは、いいと思っていても他の人がいいと思っていないと、逃げることがあったけど。〈3人がいいと思うからこれがいいんだ〉って進んでいくことは、前よりもできたかもしれないです」

――このジャケットも、〈ゆるふわ〉の真逆じゃないですか。

和久利「そうか!」

――でも、たとえばこれを10代の頃のワイズリーがやっても、きっとおもしろいコスプレにしか見えないというか(笑)。ちゃんと内面と、そこから湧き出る表情が伴ってないと、成立しないジャケットだなと思いました。

福岡「たしかに表情がすごく効いてますよね」

真舘「強さを打ち出せているなら嬉しいです」

 

かっこいい女性は挑戦し続ける

――そろそろ時間になってしまいました。〈完結〉後の福岡さんの活動についてもぜひおうかがいさせてください。

渡辺「いま、本当にいろんなことをされてますよね。お菓子を作られたり、徳島のお店(OLUYO)でワークショップとかをやられていたり」

――OLUYOに関しては、いまはどういったモチヴェーションでやられているのでしょうか?

福岡「もともとは徳島でチャットモンチ-のお店を作ったらおもしろいんじゃないかと思って、実際やったらすごくおもしろくて。シャッター商店街なのに、全国から徳島に人がめっちゃ来てくれて、近所のメガネ屋のおじちゃんとかも〈何事や!?〉って感じで(笑)。それがすごく嬉しかったし、お客さんが徳島を楽しんでくれてるのも嬉しかった。いまは、せっかく徳島にいい場所ができたから、情報発信できる場所になったらいいなと思ってやっています。

たとえば私の友達を東京から呼んでワークショップをやることで、徳島の人にとって〈こんな職業あるんや〉って、新しい出会いになるかなって。それこそ私もバンドってどうやって仕事にすればいいかわからなかったから、そういうことを教えてくれる人が月に1回来てくれたらよかったなあと思って。なるべくいろんな職業の人のワークショップをするようにしていて、その人たちのお話を聞いたりできる場所にしようと思ってますね」

和久利「すっごく素敵な存在になっているんですね」

渡辺「お店もあって、ライヴもいっぱいやられていて……住んでる場所は東京ですか?」

福岡「東京。月1で徳島に、1週間か10日くらい帰ってるかな。2拠点の生活楽しいよ、おすすめ(笑)」

――音楽が〈好き〉〈楽しい〉という気持ちは変わらないと思うんですけど、その〈好き〉や〈楽しい〉の種類って、チャットモンチーをやってた頃と変わりました?

福岡「そうですね。びっくりするくらい肩の力が抜けました。いまはめちゃくちゃ軽いです。バンドをやってるときは、なにかを背負っているとかはあんまり感じてなかったんですけどね。〈完結〉すると決めたのは、チャットモンチーではもうやり切ったという結論からなんですけど、チャットモンチーという名前がなくなっただけですごく楽になったから、やっぱり名前ってすごいなと思って。〈このメンバーでやっていく〉という決意とともに、命と一緒なので。だから、チャットモンチーというバンドがなくなった時点で私は1回人生が終わったと思っていて、いまは2回目の人生を生きてる感じです」

――いろんなことをされていてお忙しそうですけど、いまのほうがだいぶ気持ちは楽なんですね。

福岡「全然楽です。バンドをやってるときって、起きてるあいだはずっとバンドのこと考えてました。それは好きなことを仕事にすることの必然だとも思うんだけど、考えなくて済むということがすごく楽で。いまはなにをやっても気持ち的に楽だし、楽しいですね」

真舘「やり切ったからこそ、肩の力がふっと抜けたんですよね。すごい、めちゃくちゃ素敵です」

和久利「〈完結〉してからの福岡さんのInstagramとかを見てると……もう、すごくかっこいいんですよ。以前は〈バンドのかっこいいベーシスト〉として見てたんですけど、いまは〈かっこいい女性〉としての憧れも持って見てます。ずっと素敵な人だなあって、本当に思いますね」

――福岡さんのどういった姿に、〈かっこいい女性としての憧れ〉を抱きますか?

和久利「一言で言うと、バンドのときもいまも〈挑戦〉し続けていることだと思います。それは私たちもバンドをしていて、いちばん大事にしていることだから、かっこいいなと思うし憧れです」

真舘「私たちももっとたくさんの人に聴いてもらえるようにがんばります」

福岡「応援してます!」

一同「ありがとうございます!!」

 


LIVE INFORMATION

Captain Notes day 2 with Cow and Mouse
「あなたのモビール飾らせて マスキングテープ編」

2019年8月10日(土)兵庫・神戸HOTEL KITANO CLUB
ワークショップ/ライヴ
ワークショップ:受付 15:30/開始 16:00(2時間程を予定)
ライヴ:受付 18:30/開演 19:00
ワークショップ+ライヴ:前売 3,000円/当日 3,500円(ドリンク代別途)
ライヴのみ:前売 2,500円/当日 3,000円(ドリンク代別途)

Captain Sad Tour
2019年9月19日(木)名古屋Live & Lounge Vio
2019年9月20日(金)大阪・心斎橋CONPASS
2019年9月29日(日)東京・新代田FEVER

★ツアーの詳細やその他のライヴ情報はこちら

 

福岡晃子 INFORMATION

OLUYO主催の1泊2日の旅行企画
2019年8月3日(土)〜4日(日)
OLUYO企画那賀町サマーツアー2019〜スマート回廊も行くでよ!〜
http://oluyo2016.wixsite.com/tokushima

吉本新喜劇ィズライブ
2019年9月3日(火)京橋BERONICA
「吉本新喜劇ィズワンマンライブ〜どの曲をコヤソニでやったらいいかみんなで考えるパティーンのライブ…ウッス!〜」
開場/開演:19:00/20:00
https://beronica.jp