
原田晃行と馬渕モモの2人組、Hi,how are you?(以下、ハイハワ)。ローファイの良さを突き詰めたようなラブリーな楽曲のみならず、強烈なキャラクターとユーモラスな振る舞いでも人気を博す彼らが、通算5作目となるニュー・アルバム『Shy,how are you?』を発表した。同作のリリース元は、シャムキャッツが主宰するTETRA RECORDS。自身のバンド以外では初の音源として、ハイハワの新作がレーベルのカタログに加わった。
今回は、ハイハワの2人とシャムキャッツの夏目知幸&藤村頼正との対談を実施。8月31日の晩、ココナッツディスク吉祥寺店で『Shy,how are you?』インストア・ライヴが行われた直後に、お店を使わせていただいた。
もともと親交深いことで知られている両者だが、なぜハイハワはこれまでリリースしてきたROSEを離れ、TETRAと組むことになったのか? そして、常に飄々として見える彼らの譲れない美学とは? 凡百ならざるデュオの特異性を炙り出しつつ、オブスキュアなサウンドを背景に、この世のものとは思えないファンタジックなラブストーリーを描いた新作『Shy,how are you?』の魅力に迫った。

目標ゼロなのに多作
――まずシャムキャッツの2人は、ハイハワのどんなところに魅力を感じてきましたか?
藤村頼正(シャムキャッツ、ドラムス)「原田が最初に声をかけてきたときから〈こいつ、かわいいな〉って。第一印象がよかった(笑)。2014年の春にシャムキャッツがHomecomingsとツアーをまわっていたときに、原田もホムカミに付いてきてたんだよね」
夏目知幸(シャムキャッツ、ヴォーカル)「SLITSって書かれた手作りのTシャツを着ていて、ノリもいいし、なんかよさそうだなと思った(笑)」
原田晃行(Hi,how are you?、ギター)「そのときのこと、めちゃ覚えてますよ。シャムキャッツの物販に〈S〉ってデザインのバッジがあって、それをTシャツに書いたSLITSのSに付けたんですよね」
――2014年には、ハイハワはアルバムを3枚も出しています。春ならファーストの『?LDK』がリリースされたくらいですかね。
藤村「そうそう。その帰り道で原田にもらった『?LDK』を聴いて、めちゃくちゃいいじゃんって。歌詞がまずおもしろくて、いろいろな固有名詞がいっぱい入っていて、なおかつ情景が伝わってくる。でもアルバム全体を通すと、すごく冷静な感じがして、隙間や余地があるような。すごく聴きやすいCDだし、これは聴きたくなるなって好印象でした」
――過剰さのない音楽ですよね。夏目さんの最初の感想は?
夏目「俺はたぶんミュージックオルグ※にあったチラシとか、馬場ちゃん※※からの推薦とかでHi,how are you?って名前は知ってたんだよね。でもギターとピアニカの2人組って情報だけだと、またよくあるダサめのフォークみたいなのが出てきたのかな……くらいに思ってたんです。でも、音源を聴くとぜんぜん違ったっていう。なるほど、みんながいいっていうのはわかるわーって。
歌心もありつつ、参照点とかもやたら多かったりするんだけど、どっちにも寄らないところがよかった。小ネタ勝負に走るわけでもなし、かといって歌心を押し付ける感じでもない。そこがいいし、2人の人柄がそんな感じにさせてんのかなーって気はする。いい意味で向上心がないっていうか(笑)」
一同「笑」
夏目「特にいまはCDを出したらO-nestのワンマンを埋めるっしょ、それができたらQUATTROでしょ!とか、きっちり目標を立てて活動するバンドが多いけれど、ハイハワはそういうのがゼロだしね。それがゼロなのに、かたくなに音楽をやり続けてもう5枚目ですよ! 独特のバランス感覚が、そのまま音楽にも表れている気がするな。存在しているだけでカウンターみたいな感じ」
――ハイハワの2人は無意識的……というか常に自然体で動いている気がするんですけど、実際はいかがですか?
原田「……うーん、でもまぁ常にカウンターでいようとは思ってますね。人がやってないことをやろうって」
――馬渕さんはどうです?
馬渕モモ(Hi,how are you?、鍵盤)「なんも考えてないです」
一同「(笑)」

馬渕がハイハワをやるメリットはゼロ?
――飄々としているのもハイハワの魅力ですよね。楽しく続けるためのコツはありますか? さっき馬渕さんは何も考えてないとおっしゃってましたけど。
原田「でもそれがねぇ、やりやすいんですよ。馬渕さんがすげえ考えてたら僕はめちゃくちゃやりづらいと思う」
夏目「そうだよね。馬渕さんが考える人だったらそんなに続いてないんじゃない?」
原田「だって、(やることに)メリットがないんですよ。僕が馬渕さんとやるメリットはありますよ。馬渕さんが僕とやるメリットはゼロですよね。むしろマイナスだと思う(笑)」
一同「(笑)」
馬渕「そんなことないけど」

――メリットとかデメリットとかじゃない価値観で馬渕さんはハイハワに関わっているんじゃないですか?
馬渕「なんか巻き込まれちゃった感じですね」
夏目「でも、やめないもんね。もうちょっと真面目だったら、たとえば〈もっとスタジオに入ろうよ〉とか〈ライヴのここはこうだったんじゃないの?〉とか絶対に言いたくなるはずなんですよ」
原田「ライヴが終わったとき、よくお互いに謝りますね。〈ちょっとあれだったね……〉とか。でも、こうしようとはならないし、深くも反省しない。その場のすみませんだけ。しかも、もう片方はたぶん何も思ってないところで、各自が〈すみません〉と言っているんですよ。そこも噛み合ってないんですよね」
シャムキャッツの好きなハイハワの曲
――シャムの2人が特に好きなハイハワのアルバムや曲といえば?
夏目「俺はねぇ、自分の弾き語りでもたまにカヴァーしているんですけど、“プール開き”。あれがなんか好き。無駄がないし、意外とハイハワっぽくない気がするかな。ハイハワ節ってやっぱりあるでしょ? 切れ味のよいリズムと歌の回し方とか。そういうのがなくて、サラッとしていて切ない」
藤村「俺はファースト・アルバムの『?LDK』が特に好きですね。“バンホーテン”とか最初にライヴで聴いたときから、〈これはオーラがある曲だな〉と思った。あと“空気人形”も好き。シューゲ感があって、歌もそんなに多くなくて」
原田「“プール開き”と“空気人形”は、自分としては同じフォルダに入っている曲なんですよ」
藤村「だよね。暴れないっていうか、そういうハイハワも魅力的なんだよね」
――シンプルで限られた演奏形態だけど、単調ではなくて多彩な表現をやっていますよね。
夏目「ぜんぜん単調じゃない。サウンドのオリジナリティーも濃いしね。昔、ライターの磯部(涼)さんが曲調に対して原田のギターを弾く腕力の強さがアンバランスだと言っていたんです。確かに、ハイハワの音楽ってギターがもうこれ以上は鳴りませんっていう悲鳴をあげている気がする。それがおもしろい」
――ギターの音は作品を重ねるごとに変わってきた印象もあって。新作はモノクローム・セットとかフェルトを想起させるポスト・パンクっぽいサウンドになった気がしました。
藤村「そうだね」
原田「あー、こだわっては……いないです」
一同「(笑)」

TETRAの最終目標はオフィス北野
――今回、ハイハワの新作をTETRAから出すことになった経緯を教えてください。
原田「実は〈いつどこから〉っていうリリースを決める前に録り終えていたんですよ。レコーディングは今年の2月かな。でも、いざ音源を作ってみたものの、出せる場所がないしどうしよう……となってました。そんななか5月に仙台であったシャムキャッツのライヴに遊びに行って、そこで夏目さんに〈実はこういう感じなんですよー〉と言ったら、〈それならうちから出せば〉という鶴の一声があって。それはめちゃくちゃおもしろそうだなと思った」
――これまでリリースしてきたROSEからは出せなかったんですか?
原田「ROSEから出すという選択肢も当然あったんですけど、なんていうかタイミングとしか言いようがないですね。因果というか(笑)。ちなみに一切揉めてはいないですよ!」
――もともとTETRAとしては自分たち以外のバンドも出していくという方針はあったんですか?
夏目「はい、ありました」
藤村「最初にTETRA RECORDSという名前が出来た時点で、レーベルだよねって意識はあった。いずれはほかのバンドをリリースしたりもするのかもって。ただ、まだまだ自分たち自身のことでいっぱいいっぱいなので、とりあえず自分らのことをやってからだな、とは思ってましたけど」
――じゃあTETRAとしては降ってわいたような話ではあったけど、そもそもの意向にはハマった?
藤村「バッチリでしたね」
夏目「やっぱりバンドが持っているレーベルだと自然と俺らっぽいカラーがついてくるだろうし、だから〈シャムキャッツの人たちがやっているレーベル〉って枠組みがマイナスになっちゃうバンドとはやれないとは思っていたんだよね。ハイハワはそれこそ5作目だし、まぁどこに入っても自分たちの色でやれるタイプの人たちなので、そういう意味では、自分たちがハイハワを少し汚してしまったり、余計な色を付けたりすることはないな、という安心感はあったな」
――すでにハイハワ像が確立されていますもんね。
夏目「そう、しかも濃いめだから」
原田「いや、もうスパッと出すと言ってくれて、僕ジワーときましたよ」

――原田さんは人に相談するくらいには、出しどころがないことについて悩んではいたんですね。馬渕さんはいかがでしたか?
馬渕「どうにかなるだろうとが思ってましたね。けど、TETRAで出してくれると聞いて、とんでもなく嬉しかったです。そんなことあるんだなーって」
夏目「俺らはとにかくおもしろい人たちと一緒にいたいと思ってるんです。よくわかんない奴らの集まりになれたらいい。ふざけて、たけし軍団/オフィス北野をめざすって言っているんですけど。だからついにダンカン、ガダルガナル・タナが入ってきたって感じかな」
原田「最初は(そのまんま)東じゃないですかね」

宅録でもスタジオ録音でもない何か
――ハイハワの2人は新作を作るにあたって、どういうアルバムをめざしていたんですか?
原田「“夢でバッタリ”のシングルは、いままででいちばんいい感じに録れた気がしたんです。なので、〈この勢いでアルバム録っちゃったほうがいい〉となり、どういうふうに出すかはわからないけど、とりあえず録ろうとはじめました」
――場所はシングルのときと同様にCoff※さんの自宅兼スタジオですか?
原田「そうです。Coffスタでアンプを風呂場に置いて録って」
藤村「いいサウンドだよね」
夏目「相当おもしろい音源になったよね」
原田「今回はトラック数を……いままではなるべく減らしてやっていたんですけど、増やしてもいいかなと」
馬渕「人が多くて愉快な感じを出そうと思ってましたね。今回はシンセしか使ってないんですけど、最初からそうしようと思っていました」
原田「気付いたらピアニカがなかったよね」
藤村「人がいる雰囲気ってのに繋がると思うんだけど、バンド感が強い気がした。ロックっぽくてドラムを叩きたくなるような音楽。特に“冷凍らいち”とか“アーモンドクラッシュ”とかは、〈ベースとドラムが入っていてもおもしろくなるんじゃないかな〉って思ったし、だからハイハワのライヴで俺とバンビ(大塚智之、シャムキャッツのベース)でリズム隊をやってみようとなったんだよね。こないだ4人でスタジオに入ったけどストロークスっぽい感触もあったし、そういうのは次の可能性にもなるだろうなって」
――原田さんはどんな音像をめざしていたんですか?
原田「僕は宅録って感じの音源でもなく、スタジオで録ったって音源でもない何かになればいいなと思っていたんです」
夏目「銀杏BOYZがパンクのいろんな音源を編集して突き抜けた作品を作ったことと同じものを、今回のハイハワには感じるな。世の中にある珍しい音源とか、まぁ珍しくなくてもいいんだけど、あとは日本の芸能的なトピックとか、そういう原田の部屋にあるものをコラージュした結果、色濃いものに出来上がった。だから宅録っぽくもないしスタジオっぽくもないし、よくわかんない。なんとなくシャッグスとかレインコーツとかを聴いたときの感覚に似ていて、いよいよここにきたんだなって感じはしたよ」
――フォークっぽさは希薄になったように思います。
夏目「全然フォークじゃないよね。レア・グルーヴのアルバムだと思うな。新種の化石が出てきた、みたいな」
原田「かせきだいだぁっすね(笑)。弾き語りっぽいアルバムには絶対にしたくなくて、なんていうかなるべく歪なものになればいいなと思っていました」
俺は漫画になれるのか
――原田さんの歌詞も不思議な領域に入ってますよね。最初の頃の歌詞は、モラトリアム期の終わらない日常感/夏休み感を描いたものだったのに、この数年で原田さんは一気にフィクショナルな方向に舵を切っている。
馬渕「自信たっぷりになった気がする(笑)。昔はもうちょっと不安げな歌詞が多かったと思うんですけど」
原田「もう不安はないかもしれない」
藤村「昔はもっと物憂げな感じがしたよね」

夏目「大人になって金を持ったってことじゃないかな」
原田「それはありますね」
――以前のハイハワは大学生っぽい音楽だったと思うんですけど、いまはなぜか遡って小学生の想像する恋みたいな世界観になっていますよね。
原田「あー、子供の頃にほしかったものをぜんぶ買っているんですよね。いま。それがそのまま歌詞になっている」
――ファンタジーというかメルヘンというか、いわゆる〈リアル〉の真逆を描いています。
原田「〈奇面組〉とか高橋留美子の作品とかが、いちばんの影響源になってますね。というか〈漫画が音楽になるのか〉みたいなテーマで作りました。〈はたして俺は漫画になれるのか〉っていう気持ちですね」
夏目「俺は漫画になれるのか(笑)。でもそれって結構純粋なアーティストになろうとしているって気がする。いまのいい発言だなと思った。そこを音楽で言わないのもいい」
原田「それを直接的に書きたくはないですね」
夏目「表現の確固たるポリシーはあるんだろうな」
藤村「やるのはイヤだってことは多いでしょ?」
原田「使いたくない歌詞は逆にいっぱいあります」
夏目「そういうところはあるよね。そのポリシーがオリジナルなものになっているんだなって」

寄り添えない音楽こそ寄り添ってくれる
――リスナーに寄りすぎない音楽でもあると思うんですよね。たとえば“Instant Lovers(I’ll call you tomorrow)”を聴くとウキウキするけれど、自分の置かれている状況やストーリーと重ねることはない。フィクショナルがゆえの軽やかさを持っている。
夏目「そうだよね。俺がレア・グルーヴって言っているのもそこかも。めちゃくちゃおもしろいんだけど、自分のものとしては聴いていないっていうか。でも、なんか泣けるんだよね。映画の『ゴースト・ワールド』で(スティーヴ・)ブシェミが聴かせた古いブルースに、主人公がやたら感動しちゃうのとかとも近い気がする」
原田「そういう気持ちで作りました。山本直樹の漫画みたいな。ありえない世界観を描くっていうか」
夏目「SF的でちょっと怖い感じもあるよね」
――〈植物状態の人が見ている夢〉みたいな雰囲気だなと思っていました。
原田「それ、ヤバイっすね」
夏目「“冷凍らいち”と“ブルーベリーガム”のミュージック・ビデオが、ぜんぶそうだとヤバイよね。余計に(女優の)ばるちが効いてくる(笑)」
原田「MVもそうですけど、脈絡もとりとめもない音楽になればいいなと思ってたんですよね」
夏目「なんでそれを求めていたんだろ?」
原田「自分がそれを欲していたのかな。そして、それを欲している人も少なからずいると思いたいんです。僕は寄り添えない音楽のほうが、自分に寄り添ってくれてる感じがするんですよ」
夏目「なるほど。やっぱりカウンターだね。力になるとか横にいるよとか言われても、居心地悪くてしかたないもんね。いやいや、そんなこと言われても、1人でいたいんだよなって。でも、そういう音楽ばっかだもんね。ハイハワはそっちにはなりたくないってこと」
原田「そうですね。シャムキャッツを聴いていてもカウンターだなって思いますよ」
夏目「俺も、あまりにそういう音楽ばかりだからアレルギーみたいになっているからね。同じような気持ち」

ハロウィンの渋谷で爆裂ライヴ
――10月26日(土)に東京・渋谷7th FLOORで開催される、新作のリリース・ライヴには藤村さんと大塚智之さん――シャムキャッツのリズム隊2人がハイハワに加わるそうですね。最後に、同公演に向けた意気込みを教えてください。
原田「その日はハロウィンで、かつ会場も渋谷なんでそういう感じにしたいですよね。たぶん渋谷が爆裂していると思うんですよ。そんななかで来てくれるお客さんも爆裂していると思う。だから……4人で爆裂させたいです」
馬渕「ハロウィン感を出したいですね。愉快な感じで」
原田「4人で怪物くんですよ」
夏目「馬渕さんが怪物くん(笑)?」
原田「で、藤村さんがフランケンで、僕はどっちだろ……オオカミ男かな。で、バンビさんはドラキュラ」
夏目「シャムの2人は両方フランケンな気がしなくもないけど」
原田「そうっすね。ダブル・フランケンっていい名前だな。名義をHi,how are you? with ダブル・フランケンにすればよかった(笑)」
夏目「ちょっと仮装はしてほしいよね」
藤村「スティックを頭に刺しとくわ」
夏目「それ、絶対フランケンに見えないって。矢ガモみたいだよ(笑)」
原田「矢ガモ(笑)。猟奇的なライヴになればいいってことで」


LIVE INFORMATION
『Shy,how are you?』リリース記念
shyをとめないでBE MY BABY tour
2019年10月5日(土)
名古屋・金山ブラジルコーヒー
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:2,500円/2,800円(いずれも別途1ドリンク代/1000円値引きの学割アリ)
共演:killerpass/キーマカリーズとチチワシネマ/DJ PURE GUAVA BROTHERS
予約メールフォーム:hihowareyou.yoyaku@gmail.com
2019年10月26日(土)東京・渋谷7th FLOOR
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:3,000円/3,500円(いずれも別途1ドリンク代/1000円値引きの学割アリ)
共演:BE MY band set with 大塚智之&藤村頼正(from シャムキャッツ)/DJ Pussy surfers/and one more special guest !!!!!
予約メールフォーム: hihowareyou.yoyaku@gmail.com
2019年11月2日(土)宮城・仙台1to2BLDG ※ワンマン公演
開場/開演:13:00/14:00
前売り/学割:2,500円/2,500円(いずれも別途1ドリンク代)
BGM:DJ生活
予約メールフォーム:https://form.run/@shy