僕はカレーを愛してる。
数年前に南インドへ赴いたとき、そこではカレーが人々の日常に溶け込みすぎていて、もはやカレーという言葉を耳にしない日々を過ごした。カレーが当たり前の生活を送っている人々は、いつもカレーに対してどんな想いを抱いているのか、気になった。さらに、カレーのその味のみならず、海外諸国のカレーを取り巻く文化、カレーと人々との関係に強く惹かれた。
そういうきっかけから、この新連載〈シャムキャッツ菅原慎一とカレーなる人々〉では、オススメのカレーを紹介しつつ、日本でカレー店を営んでいる外国の人々を中心に、カレーとともに生活を送る人たちからカレー論を訊きだし、その生き方や人生観を炙り出したいと思う。
南行徳のトロピカル・パラダイスはカレー好きの楽園
記念すべき第1回目に訪れたのは、僕が生まれ育った千葉県の浦安から程近い〈トロピカル・パラダイス〉(最寄りは東京メトロ東西線の南行徳駅)。オープンして2年が経とうとしているこの店では、非常にレヴェルの高い南インド・ケララ料理※を提供している。日本のインド街と称される西葛西から3駅という立地もあり、連日お客さんで賑わう店内は、カレーを愛する者にとってまさにパラダイスのようだ。
僕のおすすめメニューは〈バンブービリヤニ〉。太い竹筒の中に入れて調理したビリヤニを、卓上でお皿に押し出してくれる。通常のビリヤニに比べて、よりいっそう具材とスパイスの旨味が凝縮されており、口に入れた瞬間あまりの美味しさに気を失いそうになる。ほうれん草とチーズのカレー、〈サグパニール〉も絶品だ。カッテージチーズがこんなにもカレーに合うということを、僕はこの一皿から学んだ。こんなふうに調理されるほうれん草もさぞかし幸せなことだろう。
ネパールから来た店長のトゥラシェさん
ランチタイムが終わる頃、いつも流暢な日本語で接客をしてくれる店長に話を訊いてみた。
――こんにちは。このお店のカレーは本当に美味しいです。今日もごちそうさまでした!
「ありがとうございます」
――あらためて、自己紹介をお願いできますか?
「私の名前はトゥラシェといいます。ネパール出身の42歳です。2007年に奥さんと一緒に日本へ来て、1年くらい東京で働いて、そのあとは単身赴任する形で宮城のカレー店にいました。宮城にいたのは2013年までですね。いまは夫婦で西葛西に住んでいます。子供たちはネパールにいます」
――もう少し若いと思っていました。宮城にいたこともあるんですね。ネパール出身ということですが、このお店でも出しているケララ料理は、ネパールでもよく食べられているものですか?
「はい。ネパール料理とインド料理はとても相性が良く、私の国でもよく食べられています。小さい頃からケララ料理を食べて育ちましたよ」
――このお店のシェフの皆さんもネパール出身ですか?
「いいえ、私以外のスタッフは皆、インドです」
――なるほど。調理をしているのはインドの方なんですね。トゥラシェさんは最初に日本に来たときからずっとカレー屋で働いているんですか?
「そうですね。私たちはビザの関係でカレー屋でしか働けないんです」
――飲食店オンリーなんですね。
「そうそう。しかも、インド・ネパール料理に限られる」
――なるほど。
「例えば日本料理の飲食店とかもダメなんです。私だけでなく、コックさんもみんなそんな感じですね」