シャムキャッツとしての活動はもちろん、近年では自身のバンド〈菅原慎一BAND〉としての活動も積極的に繰り広げている菅原慎一。アジア各国へのツアー経験をもとに、各地インディー・シーンの盛況や知られざるカセット・テープ音源の紹介なども行う彼にはいま、1人の演奏家という枠組みを超えたトレンド・セッターとしても熱い注目が集まっている。

そして、予てからソロ作品のリリースも待望されるなか、映画のサウンドトラック盤という形でその成果が届けられることになった。映画祭〈MOOSIC LAB 2019〉長編部門出品作品である「ドンテンタウン」へのオリジナル劇伴集となる本作は、これまで菅原がプレイヤー/リスナーとして吸収してきた音楽要素の鮮やかな開陳にして、映画そのものの方向性へも影響を与えた、単なる〈サントラ〉を超えた魅力を持つ作品となっている。

どのような経緯で本作が制作されたのか、初となる映画現場への参加から感じ取ったもの、そして彼の映画音楽観など、さまざまな興味深いトピックについて話を訊いた。

菅原慎一 ドンテンタウン(Original Sound Track) TETRA(2019)

 

〈団地〉が舞台の物語

――初めに、今回の作品に至るまでのソロ活動や菅原慎一BAND名義での活動について教えて下さい。

「最初は2012年位に、スッパマイクロパンチョップさんに高円寺の円盤でのイベントに誘われたことがきっかけです。〈菅原くんはソロでもやったほうがいよ!と言ってくれて。それまでソロでは何もやったことがなかったので曲もなかったんですが、いまもドラマーとして僕のバンドに参加してくれているARTLESS NOTE/penoの水谷貴次くんと、同じくARTLESS NOTEの金田くんにも急遽参加してもらって。そのときはsamoedoって名義で、カヴァーとかやったんです。

その後徐々にオリジナル曲を作りはじめて、いろいろなところでライブをするようになった。いまでもよく覚えているのが、当時池袋にあったミュージック・オルグでのライブですね。森は生きている、ランタンパレード、それと僕たちといういま考えるとなかなか濃いメンツで」

――昨今はメンバーも増えて積極的に演奏活動を行っていると思うんですが、何か自身のなかでのモードチェンジがあったんでしょうか?

「特に大きなターニング・ポイントがあったっていう感じでもないんですよ。気付いたら、だんだん仲間が増えていった感じ。水谷くんからフルートの松村拓海さんを紹介してもらって、ベースシストはバンビ(シャムキャッツの大塚智之)に声かけて、yumboの芦田勇人くん(ペダルスチール・ギターほか)や内藤彩ちゃん(バスーン)にも参加してもらって……。僕、一度一緒に演奏した人たちと別れるってことができなくて。だからどんどん大編成になってしまう(笑)」

菅原慎一BAND
写真:柳宙見
 

――今回の映画劇伴制作については、どういった経緯でやることになったんですか?

「監督の井上康平さんから、今年の春前くらいにいきなり連絡がきたんです。面識はなかったんですが、以前からシャムキャッツを熱心に聴いてくれていたみたいで。彼は団地を舞台にした作品を以前から撮りたいと思っていたらしく、シャムキャッツのアルバム『Friends Again』(2017年)での僕の演奏や、団地をテーマにした楽曲に共感を覚えたらしくて。今回の『ドンテンタウン』はまさに団地を舞台とした物語なので、声を掛けてくれたという感じですね」

――でも、劇伴音楽ということはシャムキャッツのような歌ものだけでなく、インスト曲も必要になってきますよね。初めから相当菅原さんへの信頼感があったんでしょうね。

「たまに自分のSoundCloudアカウントへ民族音楽の要素が入ったような似非レアグルーヴ的音源を上げてすぐ下げたりみたいなことを趣味でやっていたんですけど、それも聴いてくれていたみたいで。そういうモノ含めて、映画の全体的な雰囲気にフィットすると感じてくれたようです」

――具体的な音楽制作にあたっては監督ともイメージをしっかり共有しながら進めたんですか?

「簡単な擦り合せはしましたが、基本100%こちらを信頼してもらっていたので、監督からの細かな指定はなかったですね。やりがいを感じつつも、逆にそれがプレッシャーでもありました」

――楽曲自体が映画本編とも深く関わり合ってくる作品ということで、映像が完パケしたあとから音楽を付けていく一般的な劇伴制作の流れとは違うのだろうな、と想像しました。

「実は僕も脚本が送られてくる前の段階では、映像完パケ後からの作業なのかなと思っていたんですけど、もう全然違いました(笑)。映像が完成する段階で音楽も完成していないといけないってスケジュールでした。だからかなり大変……というか一緒に映画自体を作っていったという感覚です」