現代社会に対してロックの力が試される2020年。先陣を切ってグリーン・デイがこぶしを突き上げる! 新たな時代の幕開けに相応しいプリミティヴでエネルギッシュなパンク・アルバムに仕上がった約3年ぶり通算13作目となるニュー・アルバムをリリース!

グリーン・デイの通算13作目となるニュー・アルバム、『ファーザー・オブ・オール…』がついにリリースされる。前作『レボリューション・レディオ』から約3年ぶりだが、その間にはベスト・アルバム(『グレイテスト・ヒッツ:ゴッズ・フェイバリット・バンド』)のリリースもあり、バンドとしての一区切りを付けてからの新作だと言えるんじゃないだろうか。

GREEN DAY Father Of All... Reprise/ワーナー(2020)

実際、本作は彼らの新たな時代の幕開けに相応しいプリミティヴでエネルギッシュなパンク・アルバムに仕上がっている。驚くべきは全10曲でトータル26分16秒というその簡潔さ! 彼らの全作品中でももちろんぶっちぎりで最短だ。2番目に短いのが1990年のデビュー・アルバム『39/スムーズ』(31分13秒)だから、本作が原点回帰的な一作であるというのも頷けるだろう。

2000年代には『アメリカン・イディオット』や『21世紀のブレイクダウン』といった壮大なコンセプト・アルバムを制作し、“ジーザス・オブ・サバービア”のように9分を超えるオペラティックなパンク・チューンも書いていたグリーン・デイ。あの時代の彼らはパンク・ロックの可能性を広げる意志を持って表現をしていたわけだが、今の彼らは「長い曲は聴きたくない」とビリー・ジョーも語っているように、極力ギミックを廃し、フォーカスを絞りきったパンクのゼロ地点を追い求めている。そしてゼロ地点めがけて垂直に打ち鳴らすように、衝動に突き動かされるように26分を走り抜けていく。彼らを突き動かしているものは何なのだろう。

セルフ・プロデュースだった前作から一転、本作では多くのポップ・パンクやエモの名盤を手がけてきたブッチ・ウォーカーをプロデュースに起用。3分にも満たない凝縮された曲の中にしなやかなグルーヴが宿る、最高にアッパーなポップ・チューンへと仕上げている。しかしその陽性のメロディとは裏腹に、「俺たちの中には暴動が巣食っている」と歌う“ファザー・オブ・オール…”や、「この嘘つきめ、地べたに叩きつけてその歯をへし折ってやる」と歌う“ファイア、レディ、エイム”など、歌詞には直情的な怒りとヴァイオレンスが渦巻いている。

また、“オー・イエー!”にジョーン・ジェットの1980年のナンバー、“ドゥ・ユー・ワナ・タッチ・ミー(オー・イエー)”のサンプリングが使用されているのにも注目だ。ちなみに“ドゥ・ユー・ワナ・タッチ・ミー”の作曲を手がけたのはゲイリー・グリッター。ゲイリー・グリッターといえば映画「ジョーカー」で彼の曲が使用され、大きな批判を巻き起こしたことも記憶に新しい。何故なら小児性愛者として有罪判決を受けているグリッターのナンバーを使うということは、犯罪者の懐に印税が入ることになってしまうから。グリーン・デイは今回の“オー・イエー!”でその問題点をむしろ逆手に取り、同曲のロイヤリティは性犯罪被害者をサポートする機関などに全額寄付することを明らかにしている。そう、本作の彼らは怒っているのだ。社会の不正義に。差別や弱者への暴力が繰り返される現代社会そのものに。

『ファーザー・オブ・オール…』が米大統領選を秋に控えたこの2020年にリリースされるのは偶然ではないだろう。4年前のトランプの勝利が彼らに苦い敗北を味合わせ、同時に闘争心に火をつけたことは想像に難くないし、グリーン・デイの他にも奇跡の再始動を果たすレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやマイ・ケミカル・ロマンス、ジョン・フルシアンテの復活と共に新音源の制作に乗り出したレッド・ホット・チリ・ペッパーズら、USロックの重要バンドたちが続々と新たなアクションを起こしていることにも、2020年がロックの力が試される〈正念場〉であることを象徴している。3月には8年ぶりの来日公演も控えるグリーン・デイ。今年の彼らからは一瞬も目が離せない。