©Emmie America

あれから4年……傷だらけの世界に直球のメッセージを携えて3人が帰ってきた。キャリアを重ねた彼らが待望の新作『Saviors』で原点回帰を選んだ理由とは?

4年おきのアルバム

 世界中で物議を醸しながら、グリーン・デイの存在をパンク・シーンだけにとどまらない、ロック・シーンの最重要バンドに押し上げた2004年のアルバム『American Idiot』。同作がバラク・オバマとミシェル・オバマがエグゼクティヴ・プロデューサーを務めた話題の映画「終わらない週末」でも描かれているアメリカ合衆国の孤立のきっかけになったイラク戦争と、テロとの戦いという大義名分の下で戦争を推進した当時のブッシュ政権に対する異議申し立てだったことは、何度でも語る必要と意義があると思うのだが、その『American Idiot』以降、グリーン・デイはほぼ4年おきにアルバムをリリースしてきた。なぜ、ほぼ4年おきなのか。たぶん、それはアルバムのリリースをアメリカ合衆国大統領選挙にぶつけてきたからだろう。

GREEN DAY 『Saviors』 Reprise/ワーナー(2024)

 きっと今回の新作『Saviors』も今年11月の大統領選挙を睨んで、早々と準備してきたに違いない。実際、バンドは今作のリリースから遡ること1年2か月前に新しいアルバムのレコーディングを開始したことを発表しているが、それに先駆け、1年遅れで開催されたウィーザー&フォール・アウト・ボーイとの〈Hella Mega Tour〉に合わせるように“Here Comes The Shock”(2021年2月)、“Pollyanna”(同年5月)、“Holy Toledo!”(同年11月)と立て続けに新曲を配信している。それを考えると、前作『Father Of All Motherfuckers』(2020年)のリリース後、パンデミックによってその〈Hella Mega Tour〉を含むライヴの予定がすべて白紙になったことを逆手に取って、精力的に新曲作りに取り組んできたようだ。

 さらには新しいアルバムを心待ちにしているファンにその成果を伝えるかのように、ライヴで新曲を披露してきたグリーン・デイは、昨年10月から“The American Dream Is Killing Me”“Look Ma, No Brain!”“Dilemma”とアルバムからの先行シングルを畳み掛けるように配信リリースしてきた。

 そして、2023年の12月31日、毎年恒例のTV番組「Dick Clark’s New Year’s Rockin’ Eve」に出演した彼らは、“American Idiot”を披露した際、〈I’m not a part of a redneck agenda〉という歌詞を〈I’m not a part of the MAGA agenda〉と変えたそうだ。〈MAGA〉とはもちろん、2020年の大統領選挙でドナルド・トランプ候補が提唱した〈Make America Great Again〉というスローガンの頭文字だ。歌詞の変更にトランプ批判が込められていたことは言うまでもないだろう。

 2020年の大統領選挙でジョー・バイデンに敗れたドナルド・トランプが2024年の大統領選挙で目論む返り咲きを阻止するため、大統領選挙の前にとびきりパワフルなアルバムをリリースして、“The American Dream Is Killing Me”というタイトルや『Saviors』のジャケットに象徴される現在の世界が直面している危機や不穏な空気を訴えかけなければ! グリーン・デイのメンバーたちがそんなふうに考えていたかどうかはさておき、そんなタイミングだったことを踏まえると、『Saviors』が原点回帰のパンク・ロック作品になったのも大いに頷ける。

 また、この2024年が、ロック・シーンに風穴を開けたグリーン・デイのメジャー・デビュー作『Dookie』(94年)のリリースから30年、前述の『American Idiot』のリリースから20年というタイミングであることも見逃せない。もちろん、30年にしても20年にしても単なる数字かもしれない。しかし、『Saviors』を作るにあたって、『Dookie』と『American Idiot』を手掛けたプロデューサー、ロブ・カヴァロと『¡Tré!』以来12年ぶりに組んだことから想像すると、自分たちのキャリアにおけるマイルストーンになった2枚のアルバムが30年/20年という節目を迎えるにあたって、メンバーたちも何かしら思うことがあったんじゃないだろうか。特に未発表音源の数々や初CD化および初音源化のライヴ・トラックを加えた『Dookie』の30周年記念デラックス・エディションが昨年10月にリリースされていることを考えると、当然そこにも関わっているはずのメンバーたちが、改めて『Dookie』を聴いて刺激を受けたなんてこともあったかもしれない。