天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。新型コロナウイルス感染症の影響で、さまざまな海外アーティストの来日公演やイベントが延期/中止になっています。ナショナル、ブライト・アイズ、〈KNOTFEST JAPAN 2020〉などなど……」

田中亮太「海外でも米マイアミで開催が予定されていた〈Ultra Music Festival〉が中止になりましたね。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』など、映画の公開も延期されはじめていますし、本当に早く収束してほしいです」

天野「エンターテインメント業界は阿鼻叫喚……。気を取り直して、他の話題に目を向けると、ケンドリック・ラマ―が映像作家のデイヴ・フリーと新たなプロジェクト〈pgLang〉をスタートさせました。声明文を読むと、多言語を使いながら、音楽や映画、書物などを通じてさまざまな人々にストーリーを伝えるものだそう。オフィシャルサイトには4分33秒の映像作品も公開されています。この映像の最終部で使われている音楽は、カマシ・ワシントンとフローレンス・ウェルチの2人が共同で作曲したみたいです」

田中「ちょっと意外、だけどワクワクする組み合わせですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Empress Of “Give Me Another Chance”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はエンプレス・オブの新曲“Give Me Another Chance”! 4月3日(金)にリリースされる新作『I’m Your Empress Of』から、最初のリード・シングルになります」

天野「彼女は、これまで2作のアルバムをリリースしてきました。ホンジュラス系アメリカ人というルーツを反映した独特の節回しの歌、ダンスホールやラテン音楽を取り入れたエレクトロ・ポップ・サウンドで人気を博しています。僕も彼女の歌と音楽は大好きです! 客演もたくさん行っていて、ブラッド・オレンジやダーティ・プロジェクターズ、カリードらの楽曲に参加してきました」

田中「今年に入ってからは映画『The Turning』のサントラに“Call Me”という楽曲を提供していましたね。この“Give Me Another Chance”は、TR-808と思しきファットなビートと軽快なパーカッション、さらに90年代初頭のテクノを彷彿とさせるシンセ・リフを重ねたダンサブルな一曲になっています。彼女のディスコグラフィーのなかでも、とびっきりのフロア・バンガ―と言えるのでは!」

天野「最高ですよね~。新作『I’m Your Empress Of』は、地元LAの自身のスタジオで、ほとんど1人で制作したそうで。〈私はあなたの女帝〉というタイトルについて、彼女は〈音楽が完成した後、それらはもう私の感情のなかにあるものではない。世界に所属するものになったと感じるんです〉と語っています。新作は、これまで以上に力強いポップ・アルバムになっていそうですね。超楽しみ!」

 

2. Rod Wave “Thief In The Night”

天野「2位はロッド・ウェイヴの“Thief In The Night”! 僕は彼のことをずっと紹介したいと思っていたんですよね」

田中「そうだったんですねー。僕は今日まで知らなかったので調べてみると、ロッドは98年生まれ、米フロリダ州セントピーターズバーグ出身のラッパー。幼い頃に両親が離婚しているという、ラッパーとしては典型的な家庭で育ったようで。2019年5月にリリースしたシングル“Heart On Ice”のヒットで知られるようになった、とのこと」

天野「昨年11月に発表したデビュー・アルバム『Ghetto Gospel』――タイトルは2パックの引用ですね――もヒットするなど、着々とトップ・アーティストへの道を歩んでいます。ちなみに、アルバムはケヴィン・ゲイツがプロデュースしていました」

田中「歌とラップが溶け合ったスタイルが彼の特徴なんですかね? この曲もそうですけど、タイ・ダラー・サインほど歌っているわけではないながらも、絶妙な塩梅で歌とラップの両方を自在に操っている。表現が巧みだと感じました」

天野「突然アグレッシヴなラップをしたり、甘くて伸びやかな歌を聴かせたり……。確かに、技巧的と言えそうです。この曲は恋愛にまつわる心痛を歌ったもので、傷や痛みというものは彼の繊細な表現の中心的なテーマ。2020年、要注目のアーティストだと思います!」

 

3. Dixie Chicks “Gaslighter”

天野「3位はディクシー・チックスの“Gaslighter”。なんと、13年ぶりのシングルです!」

田中「プロフィールをおさらいしておくと、彼女たちは89年に活動をスタートしたカントリー・トリオ。90年代後半から商業的な成功を収めるようになり、カントリー界のトップスターと言うべき存在になりました。そんな彼女たちにとって転機となったのが、2001年9月の同時多発テロと、それ以降にアメリカが起こしたイラク戦争。そうした時代背景のもと、当時大統領であったジョージ・W・ブッシュを公に批判したことで、保守的な傾向が強いカントリー・ファンやラジオ局からのバックラッシュにあいます。だけど彼女たちは、自分たちの主張を曲げることなく活動。その毅然とした態度が、むしろカントリー以外の多くのリスナーに支持されるようになり、2006年にリリースした現時点での最新作『Taking the Long Way』は、グラミー主要4部門のうち3部門を受賞したのです」

天野「2007年10月以降は作品のリリースがなかったんですが、2016年にはビヨンセと〈CMA Awards〉でコラボレーションしたり、最近では、テイラー・スウイフトの新作『Lover』収録曲“Soon You'll Get Better”にフィーチャーされていたりと、存在感が薄まることはなかったですよね。むしろ、女性のエンパワーメントに重点を置いた第四波フェミニズムの現在において、彼女たちの重要性に改めてスポットが当たりはじめた感じがします。そういった意味でも、テイラーの先輩なんですよね」

田中「と、前置きが長くなってしまいましたが、この“Gaslighter”で本格的にカムバック。パワフルなハーモニーと疾走感に溢れたカントリー・ロック調のサウンドには、プロデューサーを務めたジャック・アントノフのたぐいまれなるポップ・センスが炸裂していますね! 歌詞はなかなかシリアスで、おそらくメンバーのナタリー・メインズが2017年に離婚した元夫、エイドリアン・パスダーとの関係を歌ったものではないかなと。タイトルも、夫から妻への心理的な虐待を描いた映画『ガス燈』(1944年)からきているのだ思います。とはいえ、聴いていると、めちゃくちゃ鼓舞されているような気持ちになるんですよね。さまざまな時代の女性の映像を使ったミュージック・ビデオもぐっときますし、本当に最高の曲です。同名のアルバムは5月1日(金)にリリース!」

 

4. Drake “When To Say When”“Chicago Freestyle”

天野「4位はドレイクの新曲です。“When To Say When”と“Chicago Freestyle”という2曲が一緒になった映像がYouTubeで公開されました。昨年末にリリースされた“War”もYouTubeのみで、Spotifyなどでは聴けないんですよね。まあ、YouTubeでどんどん新曲を発表していくのは大きい資本の絡んでいないラッパーたちにとって普通のことなので、そういうのに倣っているのかも、と考えています」

田中「なるほど。それにYouTubeで音楽を聴くというスタイルは、いまやかなり一般的ですしね。“War”はおそらくブルックリン・ドリルの盛り上がりを受けたもので、英ロンドンのAXL・ビーツ(AXL Beats)が手掛けたドリル・スタイルの曲。かなりフレッシュでしたね。流行をいち早く取り入れるところは、さすがドレイクといったところ」

天野「それに、彼はアメリカとイギリスのラップ・シーンの橋渡し役でもあるので、ドリルへの興味も当然だと思います。今回は、ジェイ・Zの“Song Cry”(2001年)経由でボビー・グレン“Sounds Like A Love Song”(76年)をサンプリングしたフレーズが印象的な“When To Say When”、そしてぐっとテンポを落としたダウナーなトラップの“Chicago Freestyle”という2曲です。前者の〈500週にわたって俺は痛みでチャートを埋め尽くした〉というラインが、なんともドレイクらしいなあと思いました(笑)。その後の〈マイケル・ジャクソン・シット、城は子どもたちのためのものじゃない〉と、マイケルの性的虐待疑惑をにおわせていますが、一方でGeniusには、ドレイクだってビリー・アイリッシュとミリー・ボビー・ブラウンに変なメッセージを送っていたんじゃないか、という注釈が……。なんとも言えないですね」

田中「ドレイクはフューチャーとのコラボレーションや6作目のスタジオ・アルバムのリリースが控えているので、今年の活動が気になるところですね」

 

5. G Herbo feat. Chance The Rapper, Juice WRLD & Lil Uzi Vert “PTSD”

天野「5位です。シカゴ・ドリルのラッパー、G・ハーボのニュー・アルバム『PTSD』の表題曲で、話題の一曲ですね」

田中「なんといっても、参加しているラッパーがすごいですよね。“Futsal Shuffle 2020”が大ヒット中で、新作『Eternal Atake』のリリースをようやく正式に発表したリル・ウージー・ヴァート、そしてハーボと同郷のチャンス・ザ・ラッパーの2人がラップしています。さらに、昨年末に急逝したジュース・ワールドがコーラスを歌っていて……」

天野「ちょっと曲の話をする前に、ウージーについては読者のみなさまとウージーに謝りたいことがあって。というのも、僕はこの連載で〈“Futsal Shuffle 2020”のダンスは流行らないだろう〉って言ったんです(笑)。けれども、予想に反してTikTokなどで大流行。結果あの曲は、Billboard Hot 100に4週間チャート・インしています。つくづく自分は〈センスないなあ〉と反省している次第です(笑)」

田中「天野くんはよく予想を外しますからね! それはさておき、この曲は現代アメリカのポップ・ミュージックの大きなテーマであるメンタル・ヘルスについて歌ったもの。ジュースが歌う〈死を嗅ぎ取ったとき、ニュースをつける〉〈俺に近づきすぎるな、永遠のPTSD〉というラインは、彼がパーコセットやコデインの過剰摂取で亡くなったことを考えると、痛ましいですね……」

天野「ウージーのリリックも〈俺はまだ死んだ仲間たちのことを考えつづけている〉というもので、心にくるものがあります。現在のラップ・ミュージックとアフリカ系アメリカ人のメンタル・ヘルスの関係性を考えるきっかけにもなる曲かな、と思いました」