天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。年末ということで、海外メディアが年間ベスト・アルバムをどんどん発表していますね。亮太さんの今年のベスト・アルバムは?」

田中亮太「うーん……もともとアルバム派じゃないこともありつつ、今年は例年以上にのめり込んで聴いたアルバムはないかもです。ケミカル・ブラザーズがレイヴに回帰した『No Geography』は、うれしかったんですけど。あと、オクト・オクタの『Resonant Body』もよかったですね。彼女の相方であるエリス・ドリューが発表したミックス『Raving Disco Breaks Vol. 1』も最高でした!」

天野「まあ、亮太さんはダンス・ミュージック回帰著しいですし、そもそも〈ソング派〉ですからね。っていうか。最後のはアルバムでもなんでもないですけど……。僕は、2018年末に発表された21サヴェージ『I Am > I Was』か、ラナ・デル・レイ『Norman Fucking Rockwell!』か、フォンテインズ・D.C.『Dogrel』か、ソランジュ『When I Get Home』かな~……。でも、選べません! いや~、2019年も海外の音楽シーンをウォッチすることはとても楽しかったですね。〈PSN〉も2019年のベスト・ソングを20曲選んだので、掲載を楽しみにしてください!」

田中「ちょっと遅れ気味ですけど、頑張って記事を仕上げましょう……。掲載までは、〈上半期ベスト・ソング10〉の記事で一年の復習を、ぜひしておいてください! それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Dua Lipa “Future Nostalgia”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はデュア・リパの“Future Nostalgia”! この曲は、2020年にリリースされる予定のニュー・アルバムの表題曲です」

田中11月に発表されたシングル“Don't Start Now”に続いて、快曲ですね! それにしても〈未来の郷愁〉という逆説的な曲名が、なんともかっこいい。〈あなたはタイムレスな曲を求めている、私がゲームを変えてみせる/近代建築みたいに、ジョン・ロートナーがやってきたみたいにね/ジェフ(・バスカー)の最高のビートをきっと気にいるはず/大音量で聴きたくなる/その名も『Future Nostalgia』〉と、自信満々の歌詞にも注目です」

天野「〈ジョン・ロートナー〉は、フランク・ロイド・ライトの弟子の建築家。〈ジェフ〉は、この曲を手掛けたアメリカの売れっ子プロデューサーです。そういう固有名詞の盛り込み方もおもしろいですね。〈あなたが『イケてる女性』なんかじゃないっていうのはわかってる〉っていう、攻撃的なラインもすごい。サウンドはニュー・ジャック・スウィングやヒップホップ・ソウル的な意匠と、どこかユーロビート歌謡っぽいちょいダサなメロディー、エレクトロっぽい派手さ……といったものが渾然一体となっています」

田中「まさに〈懐かしくて新しい〉と言いますか、絶妙なバランスのダンス・ポップですよね。影響を受けたアーティストにグウェン・ステファニーやマドンナと並べて、ロイシン・マーフィーを擁したモロコを挙げていることにも納得。2020年も、この英ロンドン生まれの新たなポップスターから目が離せません!」

 

2. 070 Shake “Under The Moon”

天野「2位はフレッシュな才能、070シェイクの“Under The Moon”。米ニュージャージー州ノースバーゲン出身のシンガー/ラッパーで、まだ22歳です」

田中「彼女はカニエ・ウェストの『Ye』、プシャ・Tの『Daytona』、ナズの『Nasir』という、2018年に発表されたカニエ制作の連作に参加して注目を集めました。……って、またカニエネタですか? 毎回、何かしらを盛り込んできますね(苦笑)」

天野「好きなんだからしょうがないじゃないですか! 映画『Jesus Is King』は観逃しちゃいましたけど……。でも、070シェイクはおもしろいミュージシャンだと思うんですよ。エモ・ラップっぽい、歌だかラップだかわからない歌唱とか、くぐもった発声とか、実にイマっぽくて。スマホやタブレットで作っていそうな無骨なビートや、ちょっと狂気を感じさせるシンセサイザーとヴォーカル・エフェクトも独特な感じ」

田中「たしかに、虚飾のないインダストリアルな感覚と、エモ・ラップやR&Bがごちゃ混ぜになったような〈ポスト・ジャンル〉な曲ですよね。音楽的にはちがいますけど、感覚的にはスティーヴ・レイシーとかにも近いかも。ちなみに、070シェイクは〈070〉というコレクティヴの一員で、他にも〈070 Beheard〉〈070 Phi〉〈070 Malick〉といったメンバーが所属……誰が誰だかわかりません! そんな彼女は、シングルをたくさん出してはいるけれどアルバムはまだ、というイマドキなアーティストなのですが、待望のデビュー・アルバム『Modus Vivendi』が2020年1月17日(金)にリリースされます。注目の一作ですね」

 

3. Lil Uzi Vert “Futsal Shuffle 2020”


田中「3位は米フィラデルフィア出身のラッパー、リル・ウージー・ヴァートの“Futsal Shuffle 2020”。彼は〈PSN〉常連と言うべき存在ですね。4月に“Sanguine Paradise”を紹介したときの天野くんの説明によると、確か所属レーベルのジェネレーション・ナウと揉めていて、完成済みのアルバム『Eternal Atake』をリリースできずにいるんですよね?」

天野「そうです。その後、ジェイ・Z率いるロック・ネイションと契約を結んだことが報じられていましたが、相変わらず『Eternal Atake』がいつ発表されるかは未定……。ただ、この“Futsal Shuffle 2020”は同作からのリード・シングルではあるようです!」

田中「ってことは、さすがに近々リリースされそうですね。もう待たされすぎて、実際出てもどうなのかな……と思っていたんですが、この曲を聴いてそんな懸念は吹き飛んじゃいました。90年代のレイヴ・サウンドをほうふつとさせるシンセのフレーズがバカっぽくて最高ですね(笑)」

天野「この音が亮太さんの耳に引っかかったんだろうな、とは予想していました(笑)。いかにも〈anime〉なジャケットの、ウージーを模したキャラが着ているTシャツにはスマイル・マークが。わかりやすい! 彼は〈#FutsalShuffle 2020〉というヴァイラル・ダンスを狙った動画をTwitterに投稿していますね。ちょっと真似してみましたけど、難しすぎますよ! 流行らないと思う……。何はともあれ、アルバムが楽しみですね。最初に2020年の〈顔〉となるのは彼なんでしょうか!?」

 

4. Kaytradnada feat. Kali Uchis “10%”

天野「4位はケイトラナダがカリ・ウチスをフィーチャーした“10%”。カリ・ウチスについては、彼女の新曲“Solita”を前回選出しました。なので、〈PSN〉には2週連続で登場。主役のケイトラナダはカナダ、モントリオールのプロデューサーですね」

田中「実は彼については、2016年にファースト・アルバム『99.9%』がリリースされた際に、〈SKY-HI × tofubeatsの音楽談義―ディープな探求心を持つ2人が、ケイトラナダを起点に同時代のポップ・ミュージックを語る〉という記事を掲載しているんです。いま振り返ってもすごい座組み! そちらを改めて読んでみてほしいんですが、ヒップホップ/R&Bを基盤としつつ、ロー・テンポのハウスにも接近しているようなビートが支持されています」

天野「この“10%”は、先週リリースされたセカンド・アルバム『BUBBA』の収録曲。ファレルやエステルら、華やかで、かつ統一感のある面々をフィーチャーしている同作は、すでに高い評価を得ています。いいアルバムですね! なかでも“10%”は、いわゆる〈ダンクラ〉的なナンバー。ハウス・ビートに乗ったカリ・ウチスの歌もキマっています」

田中「〈Sunday, Monday, Tuesday...〉というリフレインでおなじみのシェレール“Saturday Love”(85年)をちょっと想起してしまうイントロから、もう降参といったところ(笑)。ファットなビートはサルソウルの名グループ、ファースト・チョイスの“Love Thang”(79年)をサンプリングしているようですね。これはミラーボールの下で聴きたい一曲でしょう!」

 

5. Kamaiyah “Still I Am”

田中「最後はカマイヤーの“Still I Am”。彼女も、今年の6月にリリースしたシングル“Windows”に続いて選出しました。90年代感のあるラップが、個人的なツボを見事に刺激してくるんですよね~」

天野「出た! 90年代ノスタルジー!! この曲も、ぶっといシンセ・ベースやチキチキとしたハイハットの音が耳に残るベイエリアの王道なサウンド。彼女の出身もカリオルニアのオークランドですしね。〈ピロ~〉と鳴るエモい旋律はGファンク風。地元で録ったというミュージック・ビデオからもフッドやホーミーへの愛が伝わってきます」

田中「カーブするときに車の窓からカマイヤーが身を乗り出して、右手を掲げているシーンがめちゃくちゃかっこいい(笑)。〈まだ私〉というタイトルからもわかるように、成功への階段を上りながらも、変わらない自分を表明した楽曲なんでしょうね」

天野「〈I been that bitch and I still am(私はそんなビッチだったし、いまだってそう)〉という力強いリリックにもしびれます。なんて頼もしい姉御感! カマイヤーは2020年に向けて新たなプロジェクトを準備中とのこと。楽しみですね!」