天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週は若い音楽家の訃報をお伝えしなければいけません。ラッパーのジュース・ワールドが亡くなりました……」

田中亮太「米現地時間の12月8日、シカゴ・ミッドウェー空港で突然の発作を起こし、緊急搬送されるも亡くなったそうです。死因は正式に発表されていないのですが、薬物の過剰摂取によるものと報じられています」

天野「プリンスの死因にもなった鎮痛剤、パーコセットを過剰に摂取したのかもしれない、と噂されていますね。まだ21歳。あまりにも早すぎる死に、言葉を失います。切ない名曲“Lucid Dreams”(2018年)を聴いていると、なんとも痛ましくて、本当に悲しくなってしまいますね」

田中「それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. NF “PAID MY DUES”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉は、NFの“PAID MY DUES”! 彼は2014年にデビューした白人ラッパーです。すでに4作のアルバムを発表していて、2017年作の『Perception』今年の7月にリリースした『The Search』は、Mikikiにレビューが掲載されていますね」

天野「彼は、同じく米ミシガン州出身のエミネムが、よく引き合いに出されていますよね。確かに早口で畳みかけるようなスタイルのラップは、めちゃくちゃエミネムっぽい。義理の父親に虐待されながら育ったというハードな家庭環境も重なるところがあります……」

田中「NFはクリスチャン・ラッパーという点も特徴ですよね。とはいえ、本人は〈僕はクリスチャンだけど、クリスチャンだけのために音楽を作っているんじゃない。人生の困難や辛さが元になっているのだから、僕の音楽を理解するのにクリスチャンである必要はない〉と言っているようですが。それにしても〈懸命に働き、経験を積んだ〉というタイトルのこの曲にも、彼の価値観が出ていますよね。同じくクリスチャン・ミュージック畑のプロデューサー、トミー・プロフィットによるシネマティックなトラックも迫力があります」

天野「僕は、NFってちょっと生真面目すぎるな~、という印象があるんです。良くも悪くも保守的っていうか(笑)。彼のラップってエミネムやロジックのスタイルに似ているところがあって、フレッシュさにちょっと欠ける。でも、前作と前々作は全米1位を獲っていますし、たしかな人気と、それを裏打ちするスキル、テクニック、センスを持ったラッパーだと思っています。前作『The Search』を軽んじた批評家に怒りをぶつけたリリックも、勢いにあふれていますね」

 

2. Kali Uchis “Solita”

天野「2位はカリ・ウチスの新曲“Solita”。個人的にはこっちも〈SOTW〉! キース・カフーンさんのブログからプロフィールを引用すると、彼女は〈コロンビア系アメリカ人のシンガー・ソングライターで、《ジャンル知らず》と呼ばれてい〉ます。R&Bからラテン系らしいレゲトンまで、さまざまなサウンドを歌いこなす実力派であり、その音楽性の幅広さも魅力です」

田中「スウィートでセクシーな歌声の持ち主ですよね。タイラー・ザ・クリエイターとブーツィ・コリンズが参加したシングル“After The Storm”で知った方も多いのではと思います。それに続いたデビュー・アルバム『Isolation』(2018年)には、ゴリラズ、テーム・インパラのケヴィン・パーカー、サンダーキャットやバッドバッドノットグッドなどが参加。まさにボーダレス、ジャンルレスな傑作でした」

天野「今回の新曲はスペイン語で歌われており、ゆったりとしたテンポと艶めかしい歌が印象的なレゲトン~ラテン・トラップです。僕はどうもこういう曲に弱くて評価が甘いので、すぐに〈最高!〉って思ってしまいます(笑)。そういう好みを差し引いても、すばらしい曲!」

田中「歌詞の意味はちょっとわかりませんが、曲名の〈solita〉は英語の〈alone〉と同じで、〈一人で、孤独で〉といった意味のようです。孤独感あふれる、悲しげな曲であると同時に、とてもセクシー、というラテン・ポップの神髄を感じるサウダージな一曲ですね」

 

3. Taylor Swift “Christmas Tree Farm”


田中「3位は、テイラー・スウィフトの“Christmas Tree Farm”。タイトルのとおりクリスマス・ソングですね。ケイシー・マスグレイヴスとトロイ・シヴァンの“Glittery”アレッシア・カーラの“Make It To Christmas”など、クリスマス・ソングは今年も豊作ですが、なかでもこれはとびっきりの名曲じゃないですか!?」

天野「同感です! ストリングスを使った古き良きミュージカル調の厳かなムードで始まりつつ、キラキラしたウィンド・チャイムがシャラ~ンと鳴った後に鈴の音が入ってくるイントロから、もうウキウキしちゃいます。リズムも弾んでいて楽しいし、なにより〈ベイビー、ベイビー、メリー・クリスマス〉って何度も歌いかけるアウトロのメロディーが、最高にキャッチーなんですよね」

田中「ねー。ここまでストレートに陽性のテイラーは、意外と珍しいような。この曲は、作曲からリリースまで1週間でこぎつけるというスピード感で制作されたみたいなんですけど、その勢いも功を奏している気がしました。そうした思い切りのよさが、ポップをパワフルにするケースってありますからね」

天野「テイラーの幼少期のホーム・ビデオを使ったミュージック・ビデオも素敵で、なんだか泣けます。実際、彼女のお父さんは副業でクリスマス・ツリーの製作をされていたんだとか。なので、この曲には幼い頃の幸福なクリスマスの記憶が反映されているんでしょうね。それを踏まえると〈私の心の中にはクリスマス・ツリー・ファームがある〉っていう歌詞もぐっとくる。ホリデー・シーズンはヘビロテ間違いなし! ちなみに、本日12月13日はテイラーの30歳の誕生日。おめでとう、テイラー!」

 

4. Teyana Taylor “We Got Love”


天野「4位です。ティヤナ・テイラーの“We Got Love”。これも超いい曲なので、〈SOTW〉級! 彼女は米NYC出身のシンガーで、カニエ・ウェストのGOODミュージックに所属するアーティストです。鍛え上げられた肉体によるダンスもすごくて、女優としてたくさんの映画に出演しているなど、多才な人ですね」

田中カニエが2018年に5作連続でプロデュース作品を連発して話題になったのは記憶に新しいですよね。そのうちの一作が、ティヤナの『K.T.S.E.』でした。で、やっぱりこの曲にもプロデューサーの一人としてカニエが関わっています」

天野「そう! それが重要です!! ほとんど無骨なビートと歌だけ、という削ぎ落としすぎなプロダクションが、一時期インダストリアルっぽい音を作っていたカニエっぽい。ちょっとゴスペル風のコール・アンド・レスポンスや手拍子も、それらしいですね。実は、カニエの未発表作『Yandhi』にこの曲のリミックス・ヴァージョンが入っていて、そちらではカニエがラップし、ローリン・ヒルも参加しているようです」

田中「カニエのことになると、すぐ饒舌になりますよね(笑)。ちなみに、天野くんがいま言ったコーラスや手拍子は、ヤング・ハーツ“We’ve Got Love (You Better Believe It)”(74年)からのサンプリング。娘を抱いて、ブラックネスとアフリカ性を打ち出したカヴァー・アートや、〈ブラック・ラヴ〉〈セルフ・ラヴはベスト・ラヴ〉〈愛は新しいお金〉といった力強いリリックに胸を打たれます。なお“We Got Love”は、2020年にリリース予定の新作に収録されるようです」

 

5. SASSY 009 feat. Clairo “Lara”

天野「今週の最後はサッシ―009がクレイロをフィーチャーした新曲“Lara”。ベッドルーム・ポップ系のニューカマーとしては、今年もっとも注目を集めたと言っていいクレイロは、もはや説明不要かと思います。でも、サッシ―009ってどんなアーティストなんですか? なんだか変わった名前ですよね」

田中「彼女たちはノルウェーのオスロ出身、プロデューサーのニーヴァ・リンドガードを中心としたトリオです。北欧のエレクトロニック・ミュージックらしい硬質でインダストリアルな質感を持ったテクノ・ポップ・サウンドが特徴。フルート奏者がメンバーにいることもあり、曲によっては管楽器の音色が耳を引きます」

天野「なるほど。たしかに、スウェーデンで活動するエクスペリメンタル・アーティストのヴァーグ(Varg)や、デンマークのコペンハーゲンを拠点とするポッシュ・アイソレーション周辺のアーティストと似た不穏さが、彼女たちにも漂っています。この曲はクレイロのアンニュイな歌声と、冷ややかな質感のビートがすごくマッチしていますね」

田中「そうなんです。クレイロはこれまでクコムラマサなど、多くのアーティストとコラボしてきましたが、個人的にはこの“Lara”がいちばんハマっているなと感じました。もしかしたら彼女自身の楽曲よりも好きかも(笑)。なおサッシ―009は先月、EP『KILL SASSY 009』をリリースしたばかり。この曲よりもダークでパンキッシュなサウンドですので、そちらもぜひチェックしてみてください!」